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4 フェリセットの売却
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「ううう、うっ……お父ちゃん……」
「フェリセット、すまん。しかしこれも村のため。死んだ身だと思い、皇子に誠心誠意お仕えするのだ。これもまた、女の戦いと言える。うむ」
襲撃から一夜明け、ハイ・オークの族長ガブラスは、魔獣用の巨大な檻に入れられた愛娘に声をかけた。
「最初は興味ないって言ったのに。いきなり性奴隷監禁凌辱展開だなんて……」
フェリセットは檻の中でさめざめと泣いた。フェリセットを戦利品として寄越すならば、「超特大のやらかし」とも言うべき停戦後の夜襲については不問とする──ルイの提案を、オークの村は満場一致で受け入れた。
「殿下。ガチのマジでこーんな頭の悪そうな生き物を連れて帰るつもりですか?」
「領土拡大には成功した。隊員には報奨金も出る。僕にもご褒美が必要だ」
ルイは檻の隙間から、その辺から手折ってきたエノコログサを差し込んだ。フェリセットはそれを無視する。ルイはさらに草でフェリセットの顔を撫でた。
「やめんかい!」
鉄格子に飛びついて威嚇すると、ルイは爆笑した。ガブラスはフェリセットに申し訳なく思いながらも、皇子が協定を破って攻撃を仕掛けたことに激昂して森を焼かなかったことに安堵してもいた。
「まあ、あんたがいいなら別にいいですけどね。ちゃんと面倒見るんですよ」
「たくさん可愛がってあげるとするさ」
皇子と副官の会話に、うわ気持ち悪い──とフェリセットは格子から手を離し後退りした。
「フェリセットがメスでよかったよな」
昔馴染みである副村長の言葉に、ガブラスは渋い顔をした。しかし、反論はできなかった。自分たちは敗北者である。義を重んじ、戦局を見誤り、集落を存続の危機に晒した。
敗北、それは死を意味する──勇猛果敢を良しとするオーク族だから、と言うばかりではない。
敗戦の先にあるのは粛正、そして賠償と言う名の略奪──それが昔拾った猫の獣人の子ひとりで済むならば、破格と言える。
もちろん、ガブラスは十七年前に拾った娘の事を可愛がっていた。体が小さく、力が弱く、オークの美的感覚にそぐわない亜麻色の髪にヘーゼルナッツ色の瞳を持つフェリセットを、集落の助けを得て育ててきた。
それは自分のわがままだった。そして今、ガブラスにはわがままを通すだけの力がない。
「すまない、フェリセット……」
フェリセットは今こそその身を持って、育てられた恩を返す時が来たのだと、ガブラスは亡き妻アマンダにも心の中で謝罪しながら、終戦処理の書類にサインをした。
「フェリセット、すまん。しかしこれも村のため。死んだ身だと思い、皇子に誠心誠意お仕えするのだ。これもまた、女の戦いと言える。うむ」
襲撃から一夜明け、ハイ・オークの族長ガブラスは、魔獣用の巨大な檻に入れられた愛娘に声をかけた。
「最初は興味ないって言ったのに。いきなり性奴隷監禁凌辱展開だなんて……」
フェリセットは檻の中でさめざめと泣いた。フェリセットを戦利品として寄越すならば、「超特大のやらかし」とも言うべき停戦後の夜襲については不問とする──ルイの提案を、オークの村は満場一致で受け入れた。
「殿下。ガチのマジでこーんな頭の悪そうな生き物を連れて帰るつもりですか?」
「領土拡大には成功した。隊員には報奨金も出る。僕にもご褒美が必要だ」
ルイは檻の隙間から、その辺から手折ってきたエノコログサを差し込んだ。フェリセットはそれを無視する。ルイはさらに草でフェリセットの顔を撫でた。
「やめんかい!」
鉄格子に飛びついて威嚇すると、ルイは爆笑した。ガブラスはフェリセットに申し訳なく思いながらも、皇子が協定を破って攻撃を仕掛けたことに激昂して森を焼かなかったことに安堵してもいた。
「まあ、あんたがいいなら別にいいですけどね。ちゃんと面倒見るんですよ」
「たくさん可愛がってあげるとするさ」
皇子と副官の会話に、うわ気持ち悪い──とフェリセットは格子から手を離し後退りした。
「フェリセットがメスでよかったよな」
昔馴染みである副村長の言葉に、ガブラスは渋い顔をした。しかし、反論はできなかった。自分たちは敗北者である。義を重んじ、戦局を見誤り、集落を存続の危機に晒した。
敗北、それは死を意味する──勇猛果敢を良しとするオーク族だから、と言うばかりではない。
敗戦の先にあるのは粛正、そして賠償と言う名の略奪──それが昔拾った猫の獣人の子ひとりで済むならば、破格と言える。
もちろん、ガブラスは十七年前に拾った娘の事を可愛がっていた。体が小さく、力が弱く、オークの美的感覚にそぐわない亜麻色の髪にヘーゼルナッツ色の瞳を持つフェリセットを、集落の助けを得て育ててきた。
それは自分のわがままだった。そして今、ガブラスにはわがままを通すだけの力がない。
「すまない、フェリセット……」
フェリセットは今こそその身を持って、育てられた恩を返す時が来たのだと、ガブラスは亡き妻アマンダにも心の中で謝罪しながら、終戦処理の書類にサインをした。
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