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1 フェリセットの敗北
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「くっ……ころすにゃ!!」
「殺してほしいのか、ほしくないのか……どっちだ?」
グランスフィア皇国の第七皇子、ルイは鋭利な輝きを放つ紫水晶の瞳で地べたに這いつくばる「女騎士と名乗る何か」を見下ろした。
ここはグランスフィア皇国とエールリット王国の間に広がる、通称「魔の森」である。大陸を支配するヒト種──いわゆるヒューマンではない、亜人、獣人が小規模な集落を作り生活している。
ささやかな貿易摩擦により始まった二国間の戦争は、グランスフィアの一方的な蹂躙により幕を下ろそうとしていた。
この一帯で一番の勢力を誇っていたハイ・オークの集落はエールリットの古の王と結んだ盟約を重んじ、グランスフィア皇国に対し、徹底抗戦の構えを見せた。
ヒューマンより知能が劣るオーク種とはいえ、ハイ・オークはオークの最上位種である。
その戦闘能力、勇猛果敢さは他の魔族や通常のオークをはるかに凌駕する。その中でも歴代最高の勇士であると名高い族長ガブラスに手こずったグランスフィア皇国軍は、その打開策としてすでに別地域を制圧し終えていたルイ皇子を派遣したのだった。
「ふ、ふええ……それはその、えーっと……」
オーク族長の娘──自称女騎士のフェリセットは鉄兜の中、もごもごと呟いた。
「やれやれ。最後まで投降しないと息巻いた割には格好がつかない事だ。族長の娘とは言え、父親とは大違いだ」
ルイは革靴の踵でフェリセットの兜を踏みつけた。月夜の下、わずかに黒のロングコートの裾が靡く。
彼は金の髪に紫の瞳を持つ、美しいが残虐な男だとその名を大陸中に轟かせており、知らぬは人間界と隔絶されたこの地、「魔の森」に住まうものたちのみである。
多種多様な魔術を操るルイに力のみのオークは為す術もなく、族長ガブラスは生き残るために種族の誇りと自分の首を差し出すこととした。──白旗を上げたのである。
ルイ王子は停戦を受け入れた。好戦的ではあるが、彼は面倒くさがりでもあり、そのうえ「オークいじめ」は彼の趣味嗜好にそぐわなかった。
ハイ・オークの集落は敗北を受け入れ、皇国の傘下に入る。それを良しとしなかったのが族長の一人娘であるフェリセットだ。
彼女は血気盛んな若者を焚き付け、夜半に皇国軍の野営地へ奇襲を仕掛けた。
催涙効果のある煙玉のほか、爆竹や火炎瓶を投げこみ、混乱の隙をついた。
いざ皇子の首を刈り獲らんとばかりに「オーク族長ガブラス娘、フェリセットである!お命頂戴!」と高らかな名乗りをあげ、一番豪華な天幕へ一目散に襲いかかったのだ。
しかし、勢いがよかったのはそこまでであった。
フェリセットはルイの髪の毛一本に触れる事も叶わず、あっと言う間に──それこそ叫ぶ間もないほど、瞬きの後には地べたに這いつくばっていた。罠か、そうでなければ石にでも蹴躓いたのか。そう考えたフェリセットであったが、立ち上がる事は出来なかった。見えない力に縛られている──そこでやっと、フェリセットは「ルイ皇子は重力魔法を操る」と聞いていた事を思い出した。
何の戦果も得られず、部隊は無力化され、後にはただ、完全なる敗者が残された。
「殺してほしいのか、ほしくないのか……どっちだ?」
グランスフィア皇国の第七皇子、ルイは鋭利な輝きを放つ紫水晶の瞳で地べたに這いつくばる「女騎士と名乗る何か」を見下ろした。
ここはグランスフィア皇国とエールリット王国の間に広がる、通称「魔の森」である。大陸を支配するヒト種──いわゆるヒューマンではない、亜人、獣人が小規模な集落を作り生活している。
ささやかな貿易摩擦により始まった二国間の戦争は、グランスフィアの一方的な蹂躙により幕を下ろそうとしていた。
この一帯で一番の勢力を誇っていたハイ・オークの集落はエールリットの古の王と結んだ盟約を重んじ、グランスフィア皇国に対し、徹底抗戦の構えを見せた。
ヒューマンより知能が劣るオーク種とはいえ、ハイ・オークはオークの最上位種である。
その戦闘能力、勇猛果敢さは他の魔族や通常のオークをはるかに凌駕する。その中でも歴代最高の勇士であると名高い族長ガブラスに手こずったグランスフィア皇国軍は、その打開策としてすでに別地域を制圧し終えていたルイ皇子を派遣したのだった。
「ふ、ふええ……それはその、えーっと……」
オーク族長の娘──自称女騎士のフェリセットは鉄兜の中、もごもごと呟いた。
「やれやれ。最後まで投降しないと息巻いた割には格好がつかない事だ。族長の娘とは言え、父親とは大違いだ」
ルイは革靴の踵でフェリセットの兜を踏みつけた。月夜の下、わずかに黒のロングコートの裾が靡く。
彼は金の髪に紫の瞳を持つ、美しいが残虐な男だとその名を大陸中に轟かせており、知らぬは人間界と隔絶されたこの地、「魔の森」に住まうものたちのみである。
多種多様な魔術を操るルイに力のみのオークは為す術もなく、族長ガブラスは生き残るために種族の誇りと自分の首を差し出すこととした。──白旗を上げたのである。
ルイ王子は停戦を受け入れた。好戦的ではあるが、彼は面倒くさがりでもあり、そのうえ「オークいじめ」は彼の趣味嗜好にそぐわなかった。
ハイ・オークの集落は敗北を受け入れ、皇国の傘下に入る。それを良しとしなかったのが族長の一人娘であるフェリセットだ。
彼女は血気盛んな若者を焚き付け、夜半に皇国軍の野営地へ奇襲を仕掛けた。
催涙効果のある煙玉のほか、爆竹や火炎瓶を投げこみ、混乱の隙をついた。
いざ皇子の首を刈り獲らんとばかりに「オーク族長ガブラス娘、フェリセットである!お命頂戴!」と高らかな名乗りをあげ、一番豪華な天幕へ一目散に襲いかかったのだ。
しかし、勢いがよかったのはそこまでであった。
フェリセットはルイの髪の毛一本に触れる事も叶わず、あっと言う間に──それこそ叫ぶ間もないほど、瞬きの後には地べたに這いつくばっていた。罠か、そうでなければ石にでも蹴躓いたのか。そう考えたフェリセットであったが、立ち上がる事は出来なかった。見えない力に縛られている──そこでやっと、フェリセットは「ルイ皇子は重力魔法を操る」と聞いていた事を思い出した。
何の戦果も得られず、部隊は無力化され、後にはただ、完全なる敗者が残された。
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