上 下
11 / 18

森の守護者

しおりを挟む
 
「マリーナ!!」

 キングオークとの戦闘を終えたオリトはマリーナのもとに走った。マリーナはラーナに支えられた状態でぐったりとしている。

「かなり弱くだけど息はしているわ…でも…」

 ラーナはマリーナに視線を落とす。ラーナの視線を辿るとマリーナの背中にたどり着く。その背中はおそらく内出血であろうか、赤黒く染まっている。

「……ポーションも飲ませたけど効果は薄いみたい…」

「マリーナ…」

 マリーナの肩が小さく上下している。息は細く弱い。おそらくもう時間の問題だ。

「僕はどうしたら……」

 オリトが頭を抱えていると、

『………彼女を助けたいですか?』

とどこかから声が聞こえた。オリトは顔を上げ、声の主を探す。付近を見渡しても誰もいない。幻聴かと疑うがどうやらラーナにも聞こえていたようだ。

「どなたかは分かりませんが、マリーナを助けられるんですか?」

 オリトは見つからない声の主に問いかける。

『……私なら助けることができます。あなたが望むのであれば』

 姿は見えないがたしかに返答があった。不安はあったが、オリトにもラーナにもマリーナを助ける手立てがもうない。だったら…とオリトは決心し

「彼女を…マリーナを助けてください!!僕たちには彼女が必要なんです!」

 と叫んだ。

『分かりました。では』

 その声とともにマリーナの横に女性が現れ、マリーナに触れる。するとマリーナの体が光り始め、赤黒かった背中が徐々に肌色に戻り始めた。呼吸も正常になっている。

「……すごい…」

 ラーナがつぶやく。実際に女性がマリーナに触れてほんの数秒のことだった。オリトも目の前の光景を信じることが出来なかった。そして治療を終えたのか女性はマリーナの側から離れた。

「これでもう大丈夫でしょう。あとは目を覚ますのを待つだけです」

「あ、ありがとうございます!」

「構いませんよ。私は勇者を助けることが使命ですから」

(勇者…?)

「勇者はあなたですね?」

 彼女はオリトを見てそう言った。

「え、僕?違いますよ?」

「……え?違うのですか?」

「はい。僕は勇者ではありません」

「でもその剣は勇者装備ですよね…?その剣を使ってキングオークと戦ってましたよね…?」

「そうですけど…僕は間違いなく勇者ではないです。能力は『勇者をしじする者』ですから」

「………そうなのですか」

「なんか…すみません…」

「いえ…それにしても不思議なことですね。勇者にしか使えない勇者装備を扱える者がいるなんて…」

 そう言ってオリトを不思議そうな顔で見つめる。そうしていると、

「……ん…オリト?」

とマリーナが目を覚ました。

「マリーナ!よかった!目が覚めたんだね!体は大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫よ。なにが…いや私背後からオークに殴られて…そこまでは覚えてるんだけど…その後どうなったのかしら?」

「かなり危ない状態だったんだよ…だけどこの人がマリーナを助けてくれたんだ!」

 マリーナは女性を見る。そして

「ア、アナスタ様!?」

 マリーナは驚きの声を上げた。

「マリーナ知り合いなの?」

 オリトはマリーナに尋ねる。

「…オリト、カイザールのパーティにいた時から思っていたけど…少しものを知らなさすぎるわよ…」

 はぁとため息をついたマリーナ。

「私も知らないのだけど」

 ラーナもそう言う。

「……まぁ、ラーナさんはずっと森の中で暮らしていたのだから仕方がない…かな」

 そう言いながらも頭を抱えるマリーナ。

「…アナスタ様は先代勇者パーティメンバーの1人よ…そういえば分かるかしら?」

「…え?ほんとに?」

「はい、私はアナスタです。先代勇者のパーティメンバーにして、解散後はこの森の守護者をしています」




「…すいませんでした!知らないとか言って!!」

 オリトはアナスタにスライディング土下座をする。それはもうおでこで地面を割るかのような勢いと気迫で…

「いえいえお気になさらないでください。先代勇者が魔王を倒したのは今から100年以上も前のことになるのですから」

 そう言ってアナスタは優しく微笑んでいる。優しい方だ。

「それに…私勇者パーティの中では影薄い方でしたから…あんまり目立ってないですし…」

 微笑みに影がある。やはり少し気にしているようだ。アナスタはコホンと咳払いをして

「それはさておき、オリトさん…でしたか?少し私のお願いを聞いてもらえませんか?」

とオリト達に切り出した。

「はい!もちろんです!」

 オリトの返事を確認したアナスタは

「ではオリトさん、私が保有している勇者装備を使用してみてもらえませんか?」

とオリトに言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...