4 / 122
一話 灼熱の龍泉《スーパー銭湯》
(2)
しおりを挟む
――
「休み……ですか?」
国王の、私室。
大きなベッドに王は腰掛け、その前にある椅子にルーティアは座り、会話をしている。
「うん、お休み。ちゃんととってる?」
王の表情は、娘の心配をする父親そのものだった。腕を組み、考えこむようにルーティアの顔を覗き込んでいる。
一方のルーティアはキョトンとした表情で、今聞かれている質問の真意を考えながら答えた。
「ええ、一応は。騎士団の規定通りにはお休みをいただいておりますが」
しかし、国王の表情は晴れない。
「そうは聞いているんだけどさぁ……ルーティア、非番の日でも稽古場に来てたり騎士団の仕事したりしてるでしょ?お給料出ないんだよ?ああいうの」
「いえ。あれは私が勝手にしている事ですので、お金をいただこうなどとは。騎士団の……ひいては、国の為に尽くしたいがための私の勝手な行動です。お許しください」
「いやいや……まあ……。うん、それは……嬉しいんだけどね……」
王国騎士団とはいえ、一年中国の為に働いているわけではない。
城に住み込みで働いているルーティアとは違い、城下町から出勤して騎士団で働いている者も数多くいる。家族がいる者も大勢だ。
週5日。朝8時から、夕方5時までが基本だがシフトにより多少前後したりもする。残業や休日出勤は繁忙期……つまり今回の邪龍討伐戦など、王国が危機に扮している場合に多い。
しかしルーティアは、平時であっても国の為に尽くす姿勢を崩さない。それは幼い頃、城に拾われてからずっと変わっていなかった。
剣の稽古。馬術の稽古。体術の稽古。筋トレ。戦術の勉強……自分の強さを引き出す事が、騎士団の仕事。
それ以外にも研修の参加や、活動の資料作成。レポートの報告。城下町や周辺の野山のパトロールに、周辺国との交流や武術の対抗試合…。
やる事は、山ほどある。
本来は百からなる王国騎士団それぞれの部署の団員達が仕事を分け合って担当をしている。
しかし、ルーティアの騎士としての腕は他の追随を許さない。ゆえに、ルーティアにしか出来ない仕事や、討伐任務などは多くある。
ルーティア自身は、自分に任せられる仕事を苦にしていない。
むしろ、自分を拾ってくれた国王に、国に尽くせるのであればいくらでも身を捧げる覚悟であったため……。
ルーティア・フォエル。24歳、女性。
生まれてこの方、『休日』というものを全く知らずに生きていると言っても過言ではなかったのだ。
「心配なのよ、ワシ。ルーティア、ずっと騎士団のために働いてくれてるじゃない?国王としては嬉しいし、有難いんだけど……無理させちゃってるのが現状だしさ」
「無理などしていません。私の力が国のためになるんであれば、いくらでも働きます」
「でも、今回の邪龍討伐も無事終わった事だし。国もしばらく平和になるよ。ほら、有給休暇だって一回も使ってないからそのまま残ってるんだよ?ルーティア」
「ゆうきゅうきゅうか……?なんですか?それは」
「……し、知らないの……。書面で渡したはずなんだけど……」
「騎士団と王国の事以外に興味がありませんもので」
※有給休暇……会社から賃金の支払われる休暇の事。この世界でも存在し、雇用から6カ月で10日。以降から一年ごとに一日ずつ増えていきます。
働く人の権利です!しっかり確認しておきましょう。
「と、とにかく……今回の討伐戦も終わった事だし、騎士団もしばらく平和だから。しばらく休むのはどうかなって思ったのよ」
「いえ、討伐戦は終わりましたが、次にくる脅威に備えなければ。お言葉は大変嬉しいのですが」
「だ、だからぁ……そんなにずっと肩筋張ってなくていいんだってば……。その歳になるまでちゃんと休ませなかったのはワシの責任だけど……」
「王のせいではありません。お休みはしっかりいただいていました。あくまで自主的に騎士団としての仕事をしていただけです」
「あー……。じゃ、じゃあさ……これを機会にお願いだからしっかり休んでよ。旅行でも買い物でもなんでもしてさ。忙しい時期終わったんだから一週間でも一カ月でも……」
「私が騎士として不要となったという事ですか?」
ルーティアは真っ直ぐな瞳で王に問う。
「ち、ちがうちがう!!なんでそんな発想になるのよ……」
「いえ、長い休みと言われると……遠まわしにそう言われている気がしまして。申し訳ありません」
「断じてそういう意味じゃないからね!?あーもう……。ワシ、一応ルーティアの事、娘としてずっと見てきてるんだから。親心っていうの?心配して言ってるのよ、純粋に。分かって」
「はい」
「じゃあ……改めて。休みとって、旅行でも買い物でも部屋でだらだらでも、なんでもしてきなさい?雇用主じゃなくて、親としての忠告ね」
「それでは……何処かに出かけてまいります」
ホッ、と王は胸を撫でおろす。ようやく自分の思いをルーティアが受け止めてくれた、と。
……しかし。
「それで、なにするつもりなの?ルーティア」
「武者修行、久しぶりに行ってまいります。この身一つで山に入り、一週間生き延びてきます。あー、楽しみだなぁ」
純粋な笑顔で、ルーティアはにっこりと微笑むのであった。
ガタッ。
王は腰掛けていたベッドから立ち上がり、ルーティアに人差し指を突き立てる。
キョトン、とした顔のルーティアに、王は威厳ある声で告げた。
「ルーティア・フォエル!! 国王として命ずる!! ちゃんとした休日をとってくるのじゃ!!!」
※有給休暇の強制は不当です!自分でしっかり取得しましょう。
――
「休み……ですか?」
国王の、私室。
大きなベッドに王は腰掛け、その前にある椅子にルーティアは座り、会話をしている。
「うん、お休み。ちゃんととってる?」
王の表情は、娘の心配をする父親そのものだった。腕を組み、考えこむようにルーティアの顔を覗き込んでいる。
一方のルーティアはキョトンとした表情で、今聞かれている質問の真意を考えながら答えた。
「ええ、一応は。騎士団の規定通りにはお休みをいただいておりますが」
しかし、国王の表情は晴れない。
「そうは聞いているんだけどさぁ……ルーティア、非番の日でも稽古場に来てたり騎士団の仕事したりしてるでしょ?お給料出ないんだよ?ああいうの」
「いえ。あれは私が勝手にしている事ですので、お金をいただこうなどとは。騎士団の……ひいては、国の為に尽くしたいがための私の勝手な行動です。お許しください」
「いやいや……まあ……。うん、それは……嬉しいんだけどね……」
王国騎士団とはいえ、一年中国の為に働いているわけではない。
城に住み込みで働いているルーティアとは違い、城下町から出勤して騎士団で働いている者も数多くいる。家族がいる者も大勢だ。
週5日。朝8時から、夕方5時までが基本だがシフトにより多少前後したりもする。残業や休日出勤は繁忙期……つまり今回の邪龍討伐戦など、王国が危機に扮している場合に多い。
しかしルーティアは、平時であっても国の為に尽くす姿勢を崩さない。それは幼い頃、城に拾われてからずっと変わっていなかった。
剣の稽古。馬術の稽古。体術の稽古。筋トレ。戦術の勉強……自分の強さを引き出す事が、騎士団の仕事。
それ以外にも研修の参加や、活動の資料作成。レポートの報告。城下町や周辺の野山のパトロールに、周辺国との交流や武術の対抗試合…。
やる事は、山ほどある。
本来は百からなる王国騎士団それぞれの部署の団員達が仕事を分け合って担当をしている。
しかし、ルーティアの騎士としての腕は他の追随を許さない。ゆえに、ルーティアにしか出来ない仕事や、討伐任務などは多くある。
ルーティア自身は、自分に任せられる仕事を苦にしていない。
むしろ、自分を拾ってくれた国王に、国に尽くせるのであればいくらでも身を捧げる覚悟であったため……。
ルーティア・フォエル。24歳、女性。
生まれてこの方、『休日』というものを全く知らずに生きていると言っても過言ではなかったのだ。
「心配なのよ、ワシ。ルーティア、ずっと騎士団のために働いてくれてるじゃない?国王としては嬉しいし、有難いんだけど……無理させちゃってるのが現状だしさ」
「無理などしていません。私の力が国のためになるんであれば、いくらでも働きます」
「でも、今回の邪龍討伐も無事終わった事だし。国もしばらく平和になるよ。ほら、有給休暇だって一回も使ってないからそのまま残ってるんだよ?ルーティア」
「ゆうきゅうきゅうか……?なんですか?それは」
「……し、知らないの……。書面で渡したはずなんだけど……」
「騎士団と王国の事以外に興味がありませんもので」
※有給休暇……会社から賃金の支払われる休暇の事。この世界でも存在し、雇用から6カ月で10日。以降から一年ごとに一日ずつ増えていきます。
働く人の権利です!しっかり確認しておきましょう。
「と、とにかく……今回の討伐戦も終わった事だし、騎士団もしばらく平和だから。しばらく休むのはどうかなって思ったのよ」
「いえ、討伐戦は終わりましたが、次にくる脅威に備えなければ。お言葉は大変嬉しいのですが」
「だ、だからぁ……そんなにずっと肩筋張ってなくていいんだってば……。その歳になるまでちゃんと休ませなかったのはワシの責任だけど……」
「王のせいではありません。お休みはしっかりいただいていました。あくまで自主的に騎士団としての仕事をしていただけです」
「あー……。じゃ、じゃあさ……これを機会にお願いだからしっかり休んでよ。旅行でも買い物でもなんでもしてさ。忙しい時期終わったんだから一週間でも一カ月でも……」
「私が騎士として不要となったという事ですか?」
ルーティアは真っ直ぐな瞳で王に問う。
「ち、ちがうちがう!!なんでそんな発想になるのよ……」
「いえ、長い休みと言われると……遠まわしにそう言われている気がしまして。申し訳ありません」
「断じてそういう意味じゃないからね!?あーもう……。ワシ、一応ルーティアの事、娘としてずっと見てきてるんだから。親心っていうの?心配して言ってるのよ、純粋に。分かって」
「はい」
「じゃあ……改めて。休みとって、旅行でも買い物でも部屋でだらだらでも、なんでもしてきなさい?雇用主じゃなくて、親としての忠告ね」
「それでは……何処かに出かけてまいります」
ホッ、と王は胸を撫でおろす。ようやく自分の思いをルーティアが受け止めてくれた、と。
……しかし。
「それで、なにするつもりなの?ルーティア」
「武者修行、久しぶりに行ってまいります。この身一つで山に入り、一週間生き延びてきます。あー、楽しみだなぁ」
純粋な笑顔で、ルーティアはにっこりと微笑むのであった。
ガタッ。
王は腰掛けていたベッドから立ち上がり、ルーティアに人差し指を突き立てる。
キョトン、とした顔のルーティアに、王は威厳ある声で告げた。
「ルーティア・フォエル!! 国王として命ずる!! ちゃんとした休日をとってくるのじゃ!!!」
※有給休暇の強制は不当です!自分でしっかり取得しましょう。
――
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる