ムゲンセカイ - 異世界ゲームでサポートジョブに転生した俺の冒険譚 -

ろうでい

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六章『魔力列車は きたへ』

七十四話『閑話 きゅうだい』

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――― …

「さ、こちらです皆さん!魔力列車の駅まで、もう少しですから!」

クリスさんが意気揚々と、道なき森の中を突き進む。
俺、敬一郎、悠希、カエデはその後をぞろぞろと付きながら周囲を警戒して進んでいた。

「… ホントに大丈夫なのか。あの人」

「そういう事言わない。俺だって心配なんだから」

冷ややかな目でボソッと言う敬一郎の頭を俺は小突いた。

確かにそそっかしそうで無邪気なクリスさんだけど… 現状ではルーティアさんの使いのこの人に頼るしか、道はないんだ。

魔王の居場所を知るために、魔科学研究所へ。
魔科学研究所へ行くために、魔力列車の発着駅へ。
この森の奥にあるというその駅に向けて俺達は歩んでいく。

「だいいち、道すらないのにこの奥にホントに駅なんてあるんスかね…」

悠希の疑問ももっともだ。
いくら秘密裏の施設とはいえ、こんな未開の森の奥にそんな列車と駅があるなんて… 未だに信じられない。

「カエデちゃんは、この森で育ったんだろ?なにか知ってたりしないの?」

敬一郎の質問に、カエデは申し訳なさそうに首を横に振った。

「い、いいえ… ごめんなさい。ボクもそんな列車があるコトも、駅があるというのも初めてです」
「神樹の森は広大ですから…。人や獣人が立ち入ったところがない場所だって沢山あるでしょうし、ボク自身も集落の周りしか知らなくて…」

「あ、謝らなくていいから…。なんか、ごめんな」

そんな会話をして気を逸らしている俺達を心配してか励ますつもりか、クリスさんは大声で言う。

「みなさーーんっ!! もう少しですからーーー!! 気合い入れていきましょーーー!!!」

「… … …」

先ほどのゾルダートウルフと俺達の戦いを見て、すっかりテンションが上がってしまったようだ。
森で襲われた時はあんなにビビッていたのに… 緊張が安心に変わると、人格まで変わってしまうようだ。


… そういえば。
戦い、という言葉で思い出した事を、俺は敬一郎と悠希に聞いてみた。

「柊のクエストで入った経験値あったよな。自分のレベルは確かめてみたか?」

「勿論っスよ。さっきの戦闘で新技も試せたし、強敵も怖くないっスよ!」

悠希は自信げに、無い胸を張って威張った。

「ステータス表示する必要もないだろ。俺は… レベル19だ。真と悠希ちゃんは?」

そういう敬一郎の表情は少し自信なさげだった。

悠希は勝ち誇ったにやけ顔を浮かべる。

「へへーん。私は23っス。やりー。 … それで、マコトセンパイは?」

「… 仲間ウチでレベルの張り合いしても仕方ないだろ」

「いいから。必要情報っス。共有しましょうよ」

「… … …。 30。」

俺のボソッと言った言葉に、敬一郎は肩を落とした。

「ま… また差が開いた…。 レベルでも。ジョブランクでも…」

落ち込む敬一郎の背中を、悠希がポンポン押した。

「まーまー。マコトセンパイはアレっスから。チート野郎ですから。私達は正攻法でレベルとランク上げていきましょうよ」

「誰がチート野郎だ誰が」

励ます悠希の言葉も、敬一郎には届いていないようだ。

「… でも…。俺が真と旅をしている以上、同じ敵を倒して同じ報酬を獲得するワケだろ…。つまりそれって、永遠に真に差をつけられたままって事じゃんか…」

…まあ、そうなるな。

「別に差をつけようがなんだろうがいいだろ。仲間なんだから、一人でも強い方がいいわけじゃないか」

「… … …。 でも、なんか、くやしい」

子どもかお前は。

話題を変えようと、悠希が言う。

「あ、そういえば。カエデちゃんはレベルいくつなの?」

「… へ?」

予想していない質問に、カエデは戸惑う。
敬一郎もカエデの方を興味深そうに見ていた。

「そういえばそうだな。クエストにはカエデも参加していたワケだから、同じ経験値が入ったワケだろ」

「カエデちゃんのステータスも私達知らないし… 良かったらステータス、開けたりする?見せてみてよ」

俺と悠希の言葉に、カエデはただオロオロとして…。

そして、言った。

「あ… あの…」
「すてーたす、って…なんでしょうか。ひらく…というのは…?」
「先ほどからの皆さんの言葉がさっぱり分からなくて… ええと、ボク… 世間知らずでして… ご、ごめんなさい…。れべるとは、いったい…?」

… … …。

忘れてた。

「ごめん、カエデ。…なんでもないんだ」

この少女は、ゲームの中のキャラだった。

ゲームキャラが自分のレベルとか知ってたら、なんか、嫌だよな。そういうゲームもあるけどさ。


俺達はそんな会話をしながら、神樹の森の中を進んでいった。

――― …

そうしてしばらく歩いた先。

クリスさんが足を止めて、辺りを見回す。
フードを頭から外し、赤髪を結わくと静かに詠唱を始めた。

「――― …。 さ、これで解除しました」

「解除?」

「合言葉みたいなものですね。此処が駅の入り口なのですが… こうやって呪文で結界を解除しないと、単なる森にしか見えません」
「今、入り口を開けました。さ、行きましょう!」

「ここが、駅の入り口…」

そう言われても、結局辺りには先ほどまでと同じように森の木々が鬱蒼と広がっているだけだ。

駅はおろか、線路も、汽車の車体すらどこにも見えない。

「… ルーティアさんにからかわれてる、なんて事ないよな」

「流石にそんな事をする人には思えないけど… まあ、気持ちは分かるよ…」

敬一郎の疑問ももっともだ。

かれこれ、神樹の森に入ってから二時間くらい。
いくら魔王や魔物から身を隠すためといえど… ここまで影も形もないと、疑う気持ちがどうしても強くなってしまう。

「… センパイ、聞いてみてくださいっス」

「なにをだよ」

「クリスさんに。まだ時間かかるんですか、って」

「なんで俺が。悠希がやれよ」

「だってあんなに一生懸命なのに聞きづらいじゃないっスか…!センパイレベル一番高いんだしお願いします…!」

「レベル関係ねーだろ…!…はぁ」

悠希に言われ、俺は仕方なく先頭を歩くクリスさんの方へ早足で近づいていく。

「――― すいません。クリスさん…! まだ… …」


クリスさんに近づいた、その時。

目の前が白く光る。

まるで、違う空間に吸い込まれるように。
森林の景色が、一瞬で移り変わる。

一歩、その場所に踏み入れると… そこに突如として、場所が出現する。

その場所は… 深い森林の中に現れた、駅のホーム。そして…。

巨大な、機関車の悠然とした姿であった。

鈍い銀色に光る、その車体。森の中の駅へ姿を現したその機関車は、まるでこちらを見下ろすように線路の上に佇んでいた。

「… す、げぇ…」

「こ… こんなものが、ボクのいた神樹の森の中に、あったなんて…!!」

どうやら、みんなにもその姿が見えたらしい。

クリスさんはニヤリと笑うと駅の階段を一歩上り、俺達に向けて告げた。


「さあ、みなさん! これが我らイオットの村の民の誇り!そして…希望へと皆さんを運ぶクロガネの汽車!! 『魔力列車』でございます!!」

――― …

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