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六章『魔力列車は きたへ』
七十三話『森の えきへ』
しおりを挟む――― …
「な、なにか… いますよ…!みなさん…!」
フードを被った赤髪の女性は震えて辺りを見回す。
此処は、神樹の森。
昼間だというのに日光は背の高い木々に囲まれて塞がれ、夕闇のような薄暗さと不気味さを演出している。
ガサガサと揺れる葉の音は風によるものではない。
何者かがこちらの様子を伺いながら、隠れて移動をしている音だ。
俺は杖を構えて、辺りを警戒した。
「… 俺達が四方を囲みます。クリスさんは中心でジッとしてて…!」
「は、はいぃぃ…!!」
クリスと俺が呼んだ女性は足早に俺の背中に隠れる。
俺、悠希、敬一郎、カエデの4人で東西南北からの敵の襲来に備えて陣形を作る。
敬一郎はメルコンの拳を装着しながらニヤリと笑った。
「丁度いいじゃねーか。新技の実験台だ」
俺は背中越しにカエデに問いかける。
「… キラーコングかな?」
カエデは首を振った。
「葉が揺れているのは地面の方です。キラーコングは地面以外にも木の上からも奇襲をしかけてくるので、地面で固まって行動している事は少ないかと…」
「おそらくですが…魔獣。ゾルダートウルフの可能性が高いかと」
「規律のとれた兵士のように集団で行動し襲撃をしてくる厄介な相手です」
悠希が辺りを見回しながら警戒して言った。
「狼系… しかもこの数、10は超えてるっスよ、センパイ…!!」
「… … …」
俺は息を吸い込んで、大声で叫ぶ。
「周囲からくる敵を迎撃!! 一匹たりともクリスに近づけるな!!」
「おうよ!」
「了解っス!」
「分かりました!」
その叫びと同時に、茂みから魔獣が飛び出してきた。
体長は人間と同じくらいの、大きな魔物。灰と茶の迷彩のような身体と、まるで刃物のように研ぎ澄まされた牙。そして赤く光る瞳をギラギラとこちらに向ける、魔獣 ゾルダートウルフ。
疾風のような素早い身のこなしと統率のとれた動きで、こちらに向けて10匹が一斉に四方から襲い掛かってくる!
「 竜巻の術ッ!! 」
悠希が素早く印を組む。
自分に牙を食い込ませようとするゾルダートウルフ2頭は、あっという間に… 空中に浮かび上がる。
「ガルルルゥ!!?」
困惑する魔獣。
一瞬で発生したのは、悠希の周囲を取り巻く『竜巻』だった。
地面から上へと噴き上がる突風は、大きな2匹の魔獣を一瞬で悠希の頭上へ。
空中に浮かび上がり無防備な2頭の魔獣に、悠希は正確に1本ずつ、クナイを投げ、突き刺した。
「ギャウッ!?」
「 … 爆裂クナイッ!!! 」
紅蓮の炎の爆発がゾルダートウルフを包み、消滅させた。
「… すぅ」
カエデもまた、ゾルダートウルフが接近するギリギリのタイミングを狙う。
恐怖心はそこにない。
瞳を閉じ、息を吸い込み… 2頭の魔獣が自分のカタナの範囲に入り込むギリギリのところを狙う。
地面を駆ける獣の足音。
自分に襲い掛かろうと地面を蹴った音を聞き… 瞳を開いた。
「 ――― 必殺剣ッ!! 『断空』 !!」
反撃の一閃。
もっとも2頭と自分の距離が縮まり、もっとも無防備になるその状態を狙いすましたカタナの一振り。
自分の周りを円を描くように広範囲に斬りつけたその一撃は、2頭のゾルダートウルフの腹を斬り裂き、消滅させた。
「っしゃッ!新技のお披露目会ってワケだな!いいぜ!」
敬一郎も張り切って、自分の方向へ走り寄る二体の狼に構えをとる。
「――― スゥ」
お茶らけた空気を一変させ、深く息を吸う。
そして敬一郎は… 自らの左腕を、まるでゾルダートウルフに差し出すように、前にだした。
格好の獲物を見つけた二体のゾルダートウルフは敬一郎に飛びかかり… その腕に、食らいつく!
「ッ!? け、敬一郎!?」
俺はその様子に心配し、敬一郎に叫んだ。
しかし、当の本人は… ニヤリとした表情を浮かべている。
「… これぞ、奥義…。 鹿角体復…!!」
見れば敬一郎の身体には、まるで膜を張るようにうっすらとオーラのベールが包んでいる。
魔獣に喰いつかれた腕はみるみるうちに回復し、その様子にゾルダートウルフは戸惑う。
そして、腕に喰らいついて無防備になった魔獣に、敬一郎の右腕の必殺技が飛ぶ!
「虎王撃ィィ!!」
ゼロ距離で放たれる必殺技に魔獣は消滅した。
「… まったく、心配させやがって…!」
俺は溜息をついて、杖を地面につける。
仲間達が始末したゾルダートウルフは2体ずつ。残りは… 4体。それぞれに散開しながらこちらの方向へ向かってくる。
「ま…マコトさん!残りがこっちにきますぅぅ!!」
フードを深くかぶって、クリスさんは恐怖を隠そうとした。
俺はそんなクリスさんの隣にいき、肩に杖を持っていない方の手を置いた。
「大丈夫です。…ただし、俺から離れないで…!!」
「わ… 分かりました…ッ!!」
散開しながら、ゾルダートウルフ達は俺とクリスさんの方向へと向かってくる!
3m、2m…! 的を絞らせないように円を描くように動き、接近する相手。だが…。
「… 無駄だ」
「――― 炎の神よ。怒りで敵を焼き尽くせ…!!」
「 火炎の 神域 ッ!!」
魔法陣が地面に展開する。
瞬間、俺の周りは、赤色に染まった。
俺とクリスさんには、その熱は感じない。しかし… 魔法陣の上にいるゾルダートウルフ達にはその熱が感じられるはずだ。
「!!??」
「ギャィイイイッ!!?」
気付いた時には、もう遅い。
既に四体のゾルダートウルフの身体は、炎で覆われている。
炎はその圧倒的な熱で、動きを奪う。五感を封じ、やがては相手を焼き尽くす。
弱い敵ならその炎で焼き尽くし、強敵であれどこの火炎でただでは済まないだろう。
そして、いつの間にか炎の神域は周りのゾルダートウルフ全てを包み、焼き尽くした。
黒こげになる前に消滅をし、俺達を囲んでいた魔獣たちはすべて倒されていた。
――― …
「す…」
「すごいです!! さすがルーティア様の見込んだ4人の勇者様たち!!
フードをとったクリスさんは赤い髪を振り乱しながら飛び跳ね、俺達を輝いた瞳で見つめる。
「は… はは。勇者様、だなんて…」
「なんか、照れるっスね…」
俺達が顔を赤くしている様子も意に介さず、クリスさんは燥いでいる。
この人は、クリス・イルマ・ヤークさん。女性だ。
イオットの村の住人であり、駆け出しの魔法使い。ルーティアさんに任せられ、俺達を『魔力列車』の駅まで案内してくれている。
次元障壁の研究をしているという魔科学研究所。そこへの道は例の魔力列車で行くしかないという。
その駅は神樹の森の中にあり、そこまでの案内をこのクリスさんがしてくれるというワケだ。
俺はクリスさんに謝る。
「すいませんクリスさん。危険な目にあわせてしまって…」
しかしクリスさんはぶんぶんと首を横に振った。
「だ、だ、大丈夫です!むしろお礼を言うのはこっちのほうです!生であんなにすごい魔法や奥義を見られるなんて… あああ、なんとかあの様子を瞳に焼き付ける方法とかないのかしら…!」
… ビデオカメラでもあればよかったのにね、この世界。
そしてなんだか、変わっている女性のようだ。
クリスさんは燥いでいた様子を変え、あごに手を当てて考える。
「でも… おかしいです。魔力列車の駅までは私も何度も行っているのに、ゾルダートウルフが…しかもあんなに大量に襲ってくるなんて、今までにないコトです」
「ルーティアさんが言ってたじゃないですか。魔物の動きが活発になってるって。その影響ですよね」
「ううーん…」
敬一郎がそう言っても、クリスさんはまだ考え込んでいる。
「もしくは、こちらの動きを何らかの動きで察知されているんじゃあ…?」
「え、魔王がですか?」
「… … …」
完全に自分の世界に入って考え込んでしまうクリスさんに、悠希が声をかけた。
「あ、あの… クリスさん?とにかく駅まで向かいませんか?まだあるんスよね?」
「… … …」
「お、おーい…。あのう…」
顔の周りで悠希が手を振っても、クリスさんは考え込んで俯いたままだ。
「うううう… か、カエデちゃん、お願い…」
「ぼ、ボクですか?え、えーと、どうしましょう…」
2人の女の子は、その様子に戸惑っている。
… 一応あっちも女性だし、ここは悠希とカエデに任せたほうがいいのだろう。俺と敬一郎は、しばらくその様子を静観することにした。
「… 敬一郎」
「ん?なんだ?」
「警戒しながら行こう。森の中は安心できないし… ひょっとしたら、列車だって、一息つける場所ではないかもしれない」
「… ああ。言われなくてもそうするつもりだぜ」
俺達男2人は、とにかく、仲間を守る事に専念しよう。
これからの旅も… まだまだ気の抜けるものではないようだ。
――― …
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