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六章『魔力列車は きたへ』

七十二話『魔科学研究所への みち』

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――― …

「着きました、此処です」

フードを深く被って瞳を隠した女性が静かに言う。

一歩、その場所に踏み入れると… そこに突如として、場所が出現する。

その場所は… 深い森林の中に現れた、駅のホーム。そして…。

巨大な、機関車の悠然とした姿であった。

「… これが… 魔力、列車…!!」

俺達は、何両も繋がった魔力列車を見上げ、感嘆の声を漏らしたのだった。

――― …

話は、少し前に遡る。

イオットの村の入り口で、俺達はルーティアさんに話を聞いていた。
イシエルが消え去った後。ルーティアさんが突然話した… 『研究所』の存在について。

「… 魔王の居場所を探るための、研究所…?」

突然話題に上がったその場所の存在を、改めて俺はルーティアさんに尋ねた。

「そ。…ま、あくまで魔王の居城探しは魔法研究の一部なんだけどね。アンタ達よりはずっと魔王について詳しく知っている連中がいると思うよ」
「正式な目的は『次元障壁の研究及びその突破方法を魔法的観点で追及する研究』ってトコかな」

ルーティアさんは大きなトンガリ帽子をクルクルと手で回しながらのんびりと答えた。
その様子に敬一郎がたまらずに聞く。

「そ、そんな場所があるなら早く俺達に教えてくれれば…!」

「だってケーイチロー達は、ムークラウドを奪還するのが先決だったワケでしょ?教えるならこのタイミングしかないじゃん」

「そ… それも、そうか…」

一瞬で納得してしまった。
しかし… 聞き慣れない言葉があったな。俺はその事について聞いてみる事にした。

「『次元障壁』って、なんですか?」

「うーん。まあ、ざっくり言っちゃうとね。魔王は『この世界』にはいないワケなのよ」

「…へ?だって、いなかったらゲームがクリアできないじゃないっスか…??」

「ゲーム?」

ルーティアさんが不思議そうな目で悠希を見つめる。慌てて悠希は訂正した。

「え、えーと…。その… 魔王がいなかったら、魔物もこのセカイに存在しないワケっスよね?それなのに、どうしてこのセカイがいない、って…?」

「まあ、要するにそこを研究するための組織なワケよ。『魔科学研究所』っていうんだけどね」
「魔王の居場所はこのセカイの隅から隅を探しても存在しないの。何処にあるかっていうとね…」

ルーティアさんは、イオットの村の上に広がる大空を指さした。

「空の上」

「そらの、うえ…?」

腕組みをして天を仰ぎながら、ルーティアさんは続けた。

「この世界はね。要するに『ドーム』みたいなモンなのよ」
「ガラスで出来たドームみたいなのを想像してもらうと分かりやすいかな。そこにアタシ達人間やら動物やらが仲良く暮らしている、と」
「魔王はね。その中を安全なドームの外から常に見下ろしてるワケなの。そのドームを構成している部分が『次元障壁』。さっきの例えでいうガラスね」

「… なるほど」

ムゲンセカイの中に身を置いていては危険なのは、魔王も同じ事なわけか。壁を作って、その外に身を隠している、と。

「巨大な魔力を持つ魔王は、その障壁をすり抜けてこの世界に魔物を産み落としているわけ。まあ障壁がある分、生み出せる魔物の強さや数に限りがあるんだと思うんだけど」
「何百年も続いてる事だからね。魔王が障壁を乗り越えて生み出せる魔物の量と、この世界の平和のパワーバランスがすっかり平衡を保っちゃってるってワケ」

魔物がいるのが当たり前の世界になっているって事だな。
スライミーだらけだったムークラウドを考えるとなんとなくバランスがとれているという事が分かる。

…しかし。

「だったら、どうして研究所があるんですか?魔王がいて当たり前の世界なら、魔王の居場所を知る必要もないんじゃ…?」

俺達の使命は魔王を倒す事ではあるが、このセカイの住人に魔王の研究をする事や、倒す道理はあるのだろうか。それが気になった。

俺の疑問にルーティアさんは首を横に振った。


「ここ何年か、そのバランスが少しずつ崩れてきているの」

「…え…?」

「何日か前に、ムークラウドの街にゴブリン達の襲撃があったじゃん?あんな事は、アタシが生きていたこの百年で起きた事はなかった」

…ゴトー町長も同じ事を言っていたな。もっとも…『そういう設定を知っている』に過ぎないんだろうけれど…。だって、校長だし。

ルーティアさんは今度はカエデの方に視線をやった。

「獣人の集落にキラーコングの群れが襲ったでしょ。アレだって、そういうパワーバランスの崩壊の一種なワケよ」

カエデは驚いた。

「え…?る、ルーティアさん、ボク達の村のこと、知ってるんですか?」

ふふん、と得意気にルーティアさんは鼻を鳴らした。

「大魔導士様に分からない事はないのよ。アタシの魔法ならこの辺一体の情報なんざ筒抜けなんだから」

… そういう水晶でも持ってるんだろうな、きっと。

「魔物の活動が活発になってきている。次いで… 『3つの盾』なる、魔王の側近までこの世界に現れる始末だ。あんなのは今まで見たこともなかった」
「でも…憶測だけれどあのグランドスとかいう骸骨剣士… この世界にそう長く留まれるワケではないみたいだね。アンタらの魔力船を墜落させてから、この近辺には姿を現していないから」

どこまで知っているんだろう、この人は。

しかし… それもそうなのだろう。あのグランドスが暴れでもしたら、この世界は崩壊に近い状態になってしまうかもしれないのだから。
あれ以来姿を現していないのは、きっと『3つの盾』も次元障壁の外にいると考えた方がいいのか。

それなら少し安心はできるけど…。

ルーティアさんは咳払いをして話をした。

「話が少し逸れたね。まあ要するに、この数年で急速に世界のパワーバランスの乱れが出てきている。そんなワケで、切迫して魔王の居場所を探す必要が出てきたワケさ」
「そして、その研究を行っている第一線が、さっき言った『魔科学研究所』。そして… アタシ達は、『次元』という存在を掴んだの」

「アタシ達?」

「あ、言い忘れてたね。一応アタシ、その研究所の設立に携わってるから。大魔導士だし」

… 自慢げに腰に手を当て始めた。

「今はアタシの一番弟子が所長をしてるよ。アタシほどじゃないけれど相当な魔力の使い手さ。きっと、アンタ達の知りたい情報を知っていると思うよ」

「じゃ、じゃあそこに行ってそのお弟子さんに聞いてみれば…」

「魔王の居場所も掴めるだろうね」

…なんてこった。
話が一気にゲームクリアまで見えてきた。

倒せる、倒せないは一先ず置いておくにしても、魔王の居場所を掴むというのはこれ以上ない重大な事だ。

居場所さえ知っていれば、対策は幾らでもとれる。
レベルを上げるのでも、軍備を整えるのでも…敵の事を知りさえすれば、作戦はいくらでもあるのだ。まして、その研究所にいる人は、その道のプロなワケだし…!

「…敬一郎、悠希…!!」

俺が希望をもって振り返ると、2人も俺と同じ表情をしていた。

「お前に任せるよ、リーダー。どうせレベルもジョブランクもお前の方が高いんだ」

「行きましょう、センパイ!一気にこのゲームを終わらせるチャンスっス!!」

2人の答えに、俺も頷く。
続いて俺はカエデの方を見る。

「カエデ… すまないけど、カエデの剣術を頼る時があるかもしれない。…同行してくれるかな?」

俺の質問にカエデは力強く頷いた。

「勿論です!魔王討伐に少しでもご協力できれば、ボクの剣の腕だって、きっと…! ご一緒させてください!」

「… ありがとう」

3人のプレイヤー。1人のゲームキャラ。

俺達は 『魔科学研究所』を目指す事にした。

ルーティアさんは俺達の様子を見て、満足そうに腕組みをした。

「それじゃ、魔科学研究所へ行くための手段を教えてやるよ。場所が複雑だから、途中までは村の者に案内させるから」

「場所が、複雑…? どうやって研究所まで行くんですか?」

ルーティアさんがまた、自慢をするように高らかに言う。


「聞いたら驚くよ? 『列車』さ」

「…れ… 列車…!?」

「大陸を横断して走り、何者にも姿が見えない、幻の列車…。 『魔力列車』さ!!」

――― …
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