50 / 80
四章『獣人の むら』
四十七話『終わりと さいかい』
しおりを挟む――― …
「… ふうッ」
カエデは、刀身を鞘に納め、張りつめていた息をふう、と吐き出した。
両断した首から血が噴き出る前にカエデは魔獣の身体から跳躍し、地に降り立った。
そして、ボスキラーコングの身体は、岩盤が倒れるようにその場に倒れる。
「… … …」
「まごどざぁぁぁん、ご、ごわがったよぉぉぉ… !!」
まるで別人になったようなカエデが、俺の所へ涙と鼻水を垂らしながら近づいてきた。
「あ、あははは… カエデ…よく、がんばったよ…! 本当に…」
俺はその小さな身体を抱きとめて、頭を支える。
力を溜め込んだ、斬撃。隙の大きい技だが、威力は抜群… あの大きい魔獣を、一撃で倒す程の技だ。
やはり、カエデの才能はクヌギさんが見込んだ通り… …。
「… あ」
俺も、カエデも勝利で我を忘れていたが、もっと大事な事を思い出した。
振り返って、その場に座り込んでいるクヌギさんに慌てて近づく。
「し、師匠! 大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい、クヌギさん!今、回復魔法をかけますから… 待っていてください」
「…ふ、ふふ… 有難う。助かるよ」
クヌギさんは疲れ切った笑顔を俺達に向けた。だが、その笑顔は心底楽しそうな表情だった。
「… 似ているな。カエデも、マコトくんも」
「… カエデ。本当に、成長したな。…恐怖心を捨て去ったかと思えば、もう巨大な敵にも怯まないようになってきた」
「もうお前は、私を超えているのかもしれない」
「そ、そんな事ないです!ボク、ようやくスタートラインに立っただけで… 師匠やマコトさんが居なければ、ボク…!」
「… 少なくとも、これだけは言っておいてやろう」
クヌギさんはふっと優しい笑顔を見せて、跪いてクヌギさんの心配をしているカエデの頭に、ポン、と手を置いた。
「お前は 剣士になったんだ」
「… … …!」
その言葉に、カエデの瞳から涙が一筋落ちた。
「――― ッ。 有難う、ございます…ッ! 師匠…!!」
カエデは跪いたまま頭を下げて… 心からの感謝を、自分の師に述べた。
「… … …」
俺はクヌギさんの回復をしながら、なるべく息を殺していた。
せめて、この場の邪魔をしないように…!
… なんというか。
とても、回復しづらい…!!
――― …
「すごいすごい!! カエデおねーちゃん、しゅごけんしさまみたいだったよー!!」
「あ、あはは… ありがとう、モミジちゃん。モミジちゃんも無事で良かったよ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてカエデの周りを駆けるモミジちゃんに、カエデは照れくさそうに頬を掻きながら言った。
「アタシもぜったい、クヌギさまやカエデおねーちゃんみたいなけんしになるんだー!もう決めたもん!!」
「そ、それは… なによりで…。 も、もういいから、ね?」
興奮冷めやらぬモミジちゃんを、カエデは恥ずかしさを隠すように抱きかかえた。
「… 大丈夫ですか?クヌギさん」
「ああ。さすが、僧侶だな。さっきまでの痛みが嘘のように引いていて… 腕も動かせる。…本当に、恩に着る。マコトくん」
クヌギさんは立ち上がり、自分の身体を確認するように腕をブンブンと振ってみせた。
猫の顔を笑わせて、気持ちのいい笑顔を俺に見せてくれる。
「お礼を言うのは俺の方です。恩返しが少しでも出来ていれば…」
「これで、長老のキミに対する考えも少しは変わってくれただろう。村の危機を救ってくれた英雄なんだ。私がしっかりと説得に当たるからな」
「あ、ありがとうございます。でも… 英雄は、カエデの方ですよ」
「… … …」
クヌギさんと俺は、モミジちゃんと楽しそうにはしゃいで、照れているカエデの表情を見つめた。
「あの子に戦いは、向いていないかもしれない」
「血生臭い戦の場にあの少女を置くことは、正しくないのかもしれない」
「でも、キミとカエデが居なければ… 私やモミジが、どうなっていたか、分からない」
「だから… これで良かったのかも、な」
「… … … はい。俺も、そう思います」
クヌギさんとモミジちゃんを、助けられた。
そして、カエデの… 剣士になる、道しるべを与えるきっかけになれた。
今回の出来事の主人公は、他でもない、獣人達だ。
だが、そこに… プレイヤーで、現実世界の人間である俺が介入して… そして、無事にこの出来事を、乗り越えられた。
俺だけが強くて、何かが成り立つワケじゃない。
人が。プレイヤーが、モブキャラが… たくさんの人達が、このセカイを形成している。
俺は、僧侶として… 誰かが強くなるサポートをしていくべきなのかもしれない。
そして、人と一緒に、強く、逞しくなれる。
それはきっと… すべてのセカイで、共通して言える事なのだろう。
「 マコトおにーちゃん!クヌギさま! ポポンの実、たくさんとれたんだよ! おいわいにたべよーよ! 」
俺が考え事をしていると、モミジちゃんが籠いっぱいの実を持って近づいてきてくれた。
サクランボより一回り大きい、真っ赤な実。つやつやと光沢を放ち、甘い匂いがこちらにまで伝わるほどだった。
「おお、モミジ。ありがとう。 マコトくんも食べてみるといい。初めてだろう?」
「は、はい。こんなに美味しそうなものだったとは…」
「たべてみてたべてみて! ほっぺがおちちゃうんだからぁ~!」
ごくり。
戦いで疲れ切った頭と身体に、この果物の甘さは至高のご褒美だろう。
俺は遠慮なく籠からその実を一つ手に取った。
「そ、それじゃあ遠慮なく。 いただきま――― 」
「!!!!」
口に、その実を運ぼうとした瞬間。
俺は慌ててその実を戻して、『それ』の方向へ走った。
「え…?マコト、さん…?」
カエデ達はその様子に、目を丸くした。
――― …
「… … …」
それは、木の枝に止まり、こちらをじっと伺っていた。
いつからそこに居たのだろう。どこまで、俺達を監視していたのだろう。
… いや、そんな事はどうでもいい。
「… 久しぶりだな。 …会いたかったよ」
「ま、マコトさ~ん! ど、どうしたんですか…!?」
カエデ、クヌギさん、モミジちゃんがこちらに近づいてくる足音がした。
そして俺の後ろで立ち止まり… 俺と同じ方向へ、顔を上げた。
「… マコトくん? なんだ…?」
「マコトさん… なんですか、あの… 鳥…。 マコトさん、知ってるんですか…?」
「… ああ」
「ずっと探していた… 俺の運命を決める、凶鳥だよ」
「 … イシエル…!! 」
その黒い身体の鳥は、半透明の身体をこちらに向けて、紅い瞳を光らせた。
『久しぶりだね、マコト』
『ゲームを楽しんでいてくれて、何よりだよ』
『そして… 生き延びていてくれて、本当に嬉しいよ ―――』
イシエルは、感情のない声で、そう喜んだ。
――― …
0
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
愛すべき『蟲』と迷宮での日常
熟練紳士
ファンタジー
生まれ落ちた世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界。だが、現実は非情で夢や希望など存在しないシビアな世界だった。そんな世界で第二の人生を楽しむ転生者レイアは、長い年月をかけて超一流の冒険者にまで上り詰める事に成功した。
冒険者として成功した影には、レイアの扱う魔法が大きく関係している。成功の秘訣は、世界でも4つしか確認されていない特別な属性の1つである『蟲』と冒険者である紳士淑女達との絆。そんな一流の紳士に仲間入りを果たしたレイアが迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟で過ごす物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる