ムゲンセカイ - 異世界ゲームでサポートジョブに転生した俺の冒険譚 -

ろうでい

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四章『獣人の むら』

四十二話『漂う ふおん』

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――― …

「まあ、モミジとカエデちゃん。また一緒に木の実採りにいったのね。まったく、守護剣士様のお弟子さんに遠慮しないんだからあの子は…」

エプロンをつけた猫の女性の獣人は、そう言ってぷりぷり怒っている。クヌギさんはその様子を可笑しそうに微笑んだ。

「モミジにはお礼を言わないといけないくらいだ。カエデにも、とても良い息抜きになっている。感謝するよ」

「クヌギさんがそう言ってくれればいいんだけどねぇ…。 …あ、そちらがクヌギさんのトコに来た、ニンゲンさん?」

「ど、どうも…」

思っていたリアクションと違う反応をされて、俺は驚きながら頭を下げた。
モミジちゃんの母親のテントは、クヌギさんのテントのすぐ近くにあった。洗濯物を干していたモミジちゃんの母親はクヌギさんの報告を受けて、そんな風に笑いながら怒っている。

てっきりカエデや俺に対してもっと不信感があると思っていたけれど、この獣人さんは違うらしくキチンと俺を会話の出来る人物として扱ってくれていた。

「マコトさんって言ってたわね。ごめんなさいね、村の中には貴方に警戒する人も多いのだけれど… アタシはそうは思っていないから安心して頂戴」
「空から落ちてきて、森で迷子なんですって?詳しくは知らないけれど、色々と大変ね。何もないところだけど、十分に休んでいってくださいな」

「お世話になってます…。あの、貴方は、大丈夫なんですか?人間のコト」

俺の言葉にモミジちゃんの母親はケラケラと笑った。

「アタシらと顔は少し違うけれど、生きて話ができるのなら表情でなんとなく分かるわ。貴方が悪い人じゃないコトくらいね」
「ま、お喋りできるお猿さんくらいに考えてれば気楽なものよ。ニンゲンに迫害されたのなんて昔話のコトだしね。そんな過去に未だに囚われている奴らがおかしいの」

「… おしゃべりできる猿…」

その例えはどうなのだろう、と思いつつ、俺はモミジちゃんの母親の暖かな反応に嬉しい気持ちになった。



「色々な獣人さんがいるんですね」

俺はせめてものお礼にと、クヌギさんのテントの前で、斧で薪割りを手伝わせてもらっていた。
大きな薪を、大きな斧で勢いよく割る。…初めての経験だったが、一発でスパッと綺麗に割れるのはとても気持ちのいいものだった。
…現実世界のステータスじゃ、斧どころか薪を持ち上げるのも無理なんだろうな。
クヌギさんはその横で、カタナの手入れをしながら俺と会話をしてくれている。

「集落自体は100人いるかいないかの獣人達が暮らしている小さなところだが…ニンゲンに対する見解も様々だな。警戒する者、敵対心を持つ者、興味深く見る者、温かく迎える者…」
「過去が過去だけに、年寄連中はマコトくんに警戒しているようだが、モミジの母親くらいの年代から下ならそんな心もないだろうな。ニンゲンを初めて見るというヤツも珍しくないだろう」

「そういうもんですか」

「ああ。…モミジのように、純粋に、人として…物事を見れるヤツがもっと多ければな。情けない話だ」

「…そんなこともないですよ」

暖かく迎えてくれる人がいてくれるだけマシなのだろう。

…人間の社会だったら。例えば、ある日急に俺の学校にカエデやクヌギさんが現れたら… きっと、今のクヌギさんのような対応は出来ないだろう。
それを思うとクヌギさんとカエデには、そしてモミジちゃんや母親には、感謝せずにはいられなかった。

俺は次の質問をする事にした。

「ポポンの実ってなんですか?」

「ああ。珍しい木の実で、この辺りじゃなかなか見かけられないのだが…非常に美味でな。赤くて小さな、サクランボのような実に甘みが詰まっている」
「果物とは思えないほど甘くてな。乾燥させてすり潰して、砂糖の代用ができるくらいの実だ。見つければ重宝されるな」

「へー…」

敬一郎が聞いたら、喜んで採りにいくだろうな。俺はふとそんな事を考えた。

「… でも、この村の外にあるんでしょ?大丈夫なんですか?魔物とか」

「昼間のうちは魔物の動きも鈍っていてな。夜に活性化する。それに、この村の周辺には昨日のキラーコングも滅多に顔を出さない。危険区域なのが分かっているからな」

…なるほど。そのための、クヌギさんの役割…守護剣士がいるのだな。キラーコングくらいなら倒せていて…魔物を村の周辺に近づけないようにしているのか。
昨日の川辺はこの村から大分離れていたし、この村の周辺なら安全なワケか。

「なら安心ですね」

「まあ、想定外の事も起こり得るからな。カエデには常にカタナを携帯するように言ってある。…戦えるかどうかは別だが、ないよりはマシだろう」

「はははは…」

…カエデ。

強くなりたいのに、どうして…戦えないんだろう。俺はその事を少し疑問に思ったが… まあ、誰だって怖いことだしな。しかもまだ小さい女の子だし、仕方ないだろう。

一抹の不安を覚えながら、俺は薪割りにまた専念した。



――― …

クン、クンクン。

昼だというのに、キラーコング達は密林の中を、何かを嗅ぎまわりながら動いていた。

昨日の夜のニンゲンとの襲撃で殺気立った魔物達は、その復讐のためか、殺気立っていつもとは違う習性を見せている。

「…! ギャギャギャーッ!!」

何かの足跡を見つけた1匹のキラーコングは、その匂いを嗅いで騒ぐ。
そこへ、数匹…数十匹のキラーコングが集まる。昨日倒された者を除いて、この界隈に生息するキラーコング、そのすべてが集結していた。

足跡、そしてその周辺の空気に僅かに残る匂いを、獣は鋭敏に感じ取る。
それは…昨日同胞を殺した獣人のハーフの、女の匂いだった。

獣と魔物の違いは、強さだけではない。そこに知能が備わっているという事だ。

復讐をする、知能が。そして感情が、キラーコングにはあった。

獣人の村の場所は知ってはいるが… そこにいる守護剣士や戦士たちの存在もキラーコングは熟知している。みすみすその場所には近づかない。

だが、村を出て孤立をした獣人であれば…殺せる。復讐ができる。そして…自分たちの、餌にできる。そう考えているのだ。

縄張りではないその場所にわざわざ全員が集まり、こうした索敵をしているのもそういう理由を持っているからであった。

「ギャッギギャギャ!!」
「キキキィーッ!!」

キラーコング達は復讐のタイミングを見つけ、おおいに喜び…そして闘志を湧き上がらせた。

そして…その奥から。
密林の木々をなぎ倒すように、大型のキラーコングが、ノシノシと歩いてくる。

まるで、王が道を歩くように、悠然と。その威厳を見せつけるように、草を、木を踏みつけながら。

体長5mを超すであろう、超大型のキラーコングは… 匂いを発見したキラーコングを見下ろし… 命令した。


「… ギギギ、ィ。 ケモノビト… コロセ…」

その命令に、キラーコング達は決意の雄叫びをあげるのだった。

――― …
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