ムゲンセカイ - 異世界ゲームでサポートジョブに転生した俺の冒険譚 -

ろうでい

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外伝

外伝『宮野沙也加の 疑問』

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――― …

秋風が、窓から入り込んでくる。

冷たさを含んだその風の温度と匂いは、季節の移り変わりを予感させた。

私は乱れた前髪を掻き分けて、友人との話を再開させる。


「それで… 沙也加は、気になっている人とかいないわけなの?」

「あははは… ノーコメントで」

「えー、気になるー。っていうかアレでしょ?もうこの学校入って何人付き合ったのよ?お誘いだって相当受けてるでしょ?」

「いないいない。付き合ったことだってないんだってば」

「うわー、駄目だね。モテる女の嘘ついてる口調だもん」

「ホントだってばー」


本当だ。というのは、まあそこまで強調して伝えることもないだろう。嘘をついていると思われていれば嘘をついていると思ってくれていればいい。

人と人との付き合いには『曖昧さ』が必要とされる…というのが、私の、宮野沙也加のこれまでの生き方だった。

容姿に自信がないわけではない。これまでの人生で何度も男の子からアプローチは受けてきたし、その中で自分の容姿については大体理解をしてきていた。

しかし、それを口に出してはお終いなのだ。

『私は可愛い』『私は美人だ』『私はモテる』
こんなことを言われて気持ちのいい同性はいない。異性からだって敬遠をされるだろう。

それを、意識してはいる。しかし、それを意識してはいけない。その矛盾が幾度となく私を苦しめた。

そしてそれを繰り返してきた私の生き方は…結局のところ、全てを有耶無耶にするという『曖昧さ』を他人に見せることで成り立っていた。

自分の容姿など、どこ吹く風。知らない。分からない。異性に興味はない。そうやって恋愛などとは無関係な自分を作りあげてきたことで、私は友達を作り、無難にクラスの中に溶け込めている。

…人間って、メンドくさい。それは自分に対して一番思う事だった。
ここまで自分を偽って作り上げ…どれが本当の自分か分からなくなっても、それでも、友達と群れていたいと思う。
生き物の摂理なのだろうか。一人では生きていけない事が分かっているから、どうしても友達を作りたい。友達と過ごしていたい、と思ってしまう。その思いが私を形成しているのだった。

…しかし、どうしてこう… 女の子って恋愛の話が好きなのかな。


「沙也加から押し掛ければこの学校の男子なら誰でもイケるよ?大手の企業に内定貰ってるセンパイとか狙ったほうがいいんじゃない?」

「あはは…。アタックする気もないし、いきなり見知らぬ女子から声かけられたら怖いだけだと思うよ…?」

「いや、でもさー。そろそろ女の方も、経済力のある男子を狙っといたほうがいいと思うよー?アタシなんかこの間さー」

「あ、うんうん!聞かせて聞かせて!」

…助かった。自分の事を話すより、友達の話を聞くほうが、ボロが出にくい。
恋愛なんて、興味がない。自分の容姿にも興味はない。でも、人並みにオシャレもしている。でも、友達の恋愛には大いに興味がある。

…結局、どれが本当の私だっけ?

それが私の、一番の悩みだった。


「さー、チャイム鳴ってるぞー。早く席に戻れー」

担任の安田先生が手を叩きながら教室に入ってきた。
いつの間にか始業のチャイムが鳴っていたらしい。次の時間は現国の安田先生の時間だった。

「やばっ。じゃあ、また後で続き話そうね、沙也加」

「あ、うん。楽しみにしてる」

そう言って友人は、私の隣の席から離れ、自分の席へと戻っていった。

… … …。

私の、隣の席。

そこは、いつも空席だった。

誰が座るわけでもない、空席。休み時間には私の隣に友人が来て先ほどまでのようにお喋りをしたり、お弁当を食べたりしている。
誰かが座っているわけではない。ここには、いつも誰も座らないのだ。

… なんで?

それなら、こんな席必要ないはずなのに。
どうして私の隣には、机と椅子があるのだろう。

それを考えようとすると、私の頭にはいつも靄がかかってしまう。その事が考えられなくなるように、深い靄が。

ここは、空席。

その事実だけが、思考の中に押し込まれるように入ってくる。


でも… たまに、ふと思い出す。

私はここにいた誰かと会話をしていたような気がしている。

なんの変哲もない話。

お互いの今日の出来事。昨日の出来事。明日の予定の事。
そんななんでもない話をするのが… なんだかとても楽しみだった気がする。

何も気を遣う必要もない。ただただ…あった事だけを話して、感想を言って、笑いあう。それが… 私にとっての何よりの楽しみだったのだ。

(… 妄想、なのかな)

隣にこんな人がいて、そんな普通の会話ができれば、きっと楽しいだろうという、私の妄想なのだろうか。

… それにしては随分、はっきりした妄想だ。でも…。


そんな人が、いてくれたらいいなぁ。


「…ん?宮野、どうした。先生に何かついてるか?」

「…え?え、え…?」

…しまった。ついにやついてしまっていたらしい。

「な、な、なんでもない、です…。ゴメンナサイ…」

「ん、それならいいんだがな。…じゃあ宮野、なんだか嬉しそうだから14ページから読んでみろ」

「えー、なんですかソレ…」

私は顔を赤くしながら立って、国語の教科書を咳払いして読み始めた。


… チラリ、と私は隣の空席を見た。

そこは、なんの変哲もない空席。でも、不思議な空席。

私はその存在を気にするたび…なんだか不思議で、奇妙な感覚に囚われる。

でも…。

なんだか、その席に座る人の事を思うと、心の何処かが湧き上がるような気持ちになるのだった。


――― …

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