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二章『まおうぐんとの たたかい』

二十六話『終わりと はじまり』

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――― …

… … …。

いい夢だった。

この数週間の中で、一番のいい夢。

俺はベッドから起き上がり、カーテンを開けて朝の光を部屋の中に入れる。


街は、今日も生きていた。
俺が住む現実の街も。そして夢の中の街も。

普段は聞こえない、小鳥のさえずりが耳に入る。家の前を通る小学生の笑い声が聞こえる。窓を開ければ、心地よい秋風も。

街だけではない。

俺も… 生きているのだ。今、ここに。無事に生還したのだ。


「はぁ… っ」

思いきり息を吸い込んで、窓の外に白い息を解き放った。


俺は、名雲真は、生きている。
そして… 浅岡敬一郎も、長谷川悠希も、宮野沙也加も、安田昭雄も、柊宗司も… 夢現世界にいた人達は、イベントに全員生還したはずだ。
はっきりとした記憶の中のその事実を、改めて思い出して確認した。

もう、犠牲は出さない。その誓いを…俺は僧侶として、守れたのだ。それが何より嬉しかった。


夢は、人々の歓声と共に途切れた。
次にログインをした時は、パレードか何かの最中かもしれないな。魔王軍から街を守った暁の。

夢現世界は、まだ続くのだろう。イシエルは、魔王を倒すゲームだと言っていた。
だが…きっと出来る。俺にはその確信があった。
今回のイベントを、仲間と乗り越えられたのだ。敬一郎と悠希となら、どんな苦難も越えていける。その自信が心に満ち溢れていた。
そうすれば…夢現世界に囚われているプレイヤーも、モブも、解放できるはずだ。今はそれを信じてあのゲームをプレイし続けるしかない。

ほんの少し前までは、その事実に対してネガティブな思いしかなかった。どうして、なぜ、どうすれば、と。

しかし、今は違う。俺が。俺達が。 あの世界を終わらせてみせる、という決意が、この胸にしっかり宿っている。


「… よし、行こう」

まずは、学校に行こう。
敬一郎に会って、悠希にあって… 柊先輩にもしっかりお礼を言わなければいけない。それに…防衛にあたってくれたプレイヤーの生徒達にも。

…己惚れてはいない。いないのだが… どうしても、俺達『文芸同好会』が、街を守ったという自負がある。
少し他のプレイヤーと会うのも照れくさいなぁ… なんて思いがどうしても浮かんできてしまい、ニヤニヤしてしまう。
いかんいかん。テングになっていいことはないぞ。ゲームはコツコツと。慢心が事故を生むのだ。
俺は浮ついた気持ちを抑えながら窓を閉め、自分のクローゼットに制服を取りに行こうと…。

… … …。

… … …。


浮ついた気持ちは、一気に冷たく、凍り付いた。


『やあ、マコト。イベントお疲れ様だったね』


いるはずのない存在が、俺の勉強机の上に立っていた。

羽を折りたたみ… 紅に光る瞳を、こちらに向ける、黒い凶鳥。

それは…。


「イシ、エル …」


どうして。

夢からは覚めたはずだ。ここは現実の俺の部屋で、外には現実の街の景色が広がっている。夢現世界では決してないはずだ。
それなのに… どうして…。

疑問と恐怖で後ずさる俺に、イシエルはいつもと同じ、感情のない声で語り掛けた。その声が、頭に響き渡る。

『出れるようになったのさ』
『君達がイベントを達成してくれたおかげで… ボクの力も、増してきたからね。こうして現実世界にも干渉が出来るようになった』
『もっとも、ボクは分身だけどね』
『今、同時に… 99人のプレイヤーの前には分身のボクが語り掛けている。ある選択をしてもらうために』
『ありがとう、マコト。ここまで力を蓄えることが出来たのも… 君達のおかげだ』

何を言っているのかがさっぱり分からない。相変らずの独りよがりの言葉だ。

だが… コイツは、俺の前に出てきた理由を、言った。

「選択…?」

俺の疑問府にイシエルは答えた。

『そう。夢現世界は、今回のイベントでかなりの力を得ることができた。おかげで… 夢現世界は更に広がって・・・・いくことができる』
『だから、プレイヤー諸君にはボクから、お礼として素晴らしい『選択肢』を与えたいと思ったんだ。だからこうして、現実世界に出てきている』

「なにを… なにをさせようっていうんだ… これ以上…!」

コイツの言うことだ。ロクな事を言うはずがない。
夢現世界に俺達を閉じ込め。イベントで俺達を殺そうとして…。… 冴木勇馬をみすみす殺させた、この鳥が…まともなことを言うはずがない。

しかし、俺に対して黒い小鳥は首を傾げて言う。

『疑うのは、ボクの言葉を聞いてからにしてほしいな』

『ボクは君に対して嘘や偽りを述べたことはない。事実は事実としてしっかり伝えている。ゲームを楽しんでくれるための…ね』

『だけれど… このゲームを楽しめないプレイヤーがいるのも事実だろう?』

…ゲームを楽しめないプレイヤー。
俺達のように今回のイベントに積極的に参加をしないで、隠れていたプレイヤーの事を言っているのだろうか。

「それは…お前のせいだろ!?望みもしない生徒を勝手に夢現世界に巻き込んだ、お前の…!!」

『そうだよね』

俺の狼狽を、小鳥は遮断して語り続けた。

『さっきも言ったように、夢現世界は十分な力を得ることができた。だから…邪魔になったんだ』

『このゲームの世界を広げられない・・・・・・プレイヤーの存在が、ね』

…コイツ、本当に何を言っているんだ…?
力を得たとか、広げるとか…ワケの分からない事をさっきから…。

恐怖がイラつきに変わり始めてきたその時。小鳥は羽を広げて俺の部屋に飛んだ。
俺の目の前に滞空して、横にターンをするように一回転をする。

そして…俺の目の前に。

夢現世界の、ウインドウが一つ、広がった。


「… … … !!!」

現実の世界に、何故ウインドウが開く…!?

いや、その疑問の前に。

俺はそこに書いてある文字に、驚愕した。


小鳥の声に感情はない。

だが… 心の底では、笑っているように思えた。 どうだい、素晴らしい選択肢だろう、と。


イシエルは、言った。

『どうだい。確かに、良い選択肢だろう?』

『プレイヤーにとってのこれからの運命を決める… 素晴らしい、選択肢が』


俺の目の前のウインドウには、こう書かれていた。


【夢現世界を 続けますか?続ける場合 貴方はゲームクリアまで夢現世界から戻ることは できません】

【それとも… ここで夢現世界を終わらせて 現実の世界に戻りますか?戻る場合 二度と夢現世界に行くことは できません】

【 →  夢現世界の住人になる  現実世界の住人になる 】


『さあ、プレイヤーのみんな。決めておくれ』


『 君達の、運命を 』


――― …
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