上 下
11 / 80
一章『ゆめの はじまり』

十話『いつも通りの 朝』

しおりを挟む

――― …

… … …。

カーテン越しに太陽の光が見える。眩しいので俺はいつもカーテンは開かないが、今日ばかりは確認しておきたかった。
俺はカーテンを開けて、窓を開けて外の空気を部屋の中に入れる。秋も深まり、肌寒さを感じた。

朝だ。いつも通りの、朝だ。

夢の内容はしっかりと覚えていた。夢現世界、ムークラウド、僧侶、時計塔広場、スライミー、魔王軍の侵攻…。キーワードを幾つも頭の中で反芻はんすうして事実を認識する。

紛れもなくアレは、現実に見た夢だった。
夢というのは見て10秒ほどしか記憶として留まる事ができない、とどこかで聞いたことがある。しかし起きてからもう5分以上、俺は窓から外の景色をぼんやり見ているのに夢の事はしっかりと記憶している。

そして、重大な事実もしっかりと覚えている自分に安心と不安を感じた。
これから毎晩、夢現世界に入って冒険をするという事。
そして俺は僧侶という職業を選択してしまったという事。
夢の中で敬一郎と出会ったという事。そして…

三日後に『イベント』として、魔王軍がムークラウドの街に侵攻してくる。俺達はレベルを上げて街を守る。
推奨レベルは… 10。

「… … …」

身体は疲れを覚えていない。少なくとも眠って、休息はとれていたようだった。もっとも…精神的な疲労は感じるが。
これから毎日、こんな生活を…。

一人で考えていても仕方のないことだ。
今はとにかく、情報を共有しておきたい。

俺はさっさと着替えて学校に行くことにした。

――― …

「昨日みた夢?」

宮野沙也加は首を傾げて俺の方を見た。

夢現世界で出会ったシャーナとは、やっぱり似ている。というか、どう見ても本人だ。つまりは宮野さんもあの世界に呼び出されていたと考えるのがいいだろう。
夢の中で会ってあんな風に会話して…なんだか現実と入り混じって変にドギマギしてしまうのを何とか抑えながら、俺は宮野さんに夢の事を聞いてみた。

「そう。なんでもいいから覚えてたりしない?」

「変な事聞くね、名雲くん。なにかあったの?」

「い、いや…ちょっと最近、夢占いにハマっててさ。試しに人の夢で占ってみたいなー…とか」

適当に誤魔化したが、宮野さんはノッてくれたようだ。こちらに椅子を向けて目を輝かせている。

「夢占い!?私占い好きなんだよねー!え、名雲くんがやってくれるの!?面白そう!」

「は、ははは… えーと、それで、どんな夢見たの…?」

「… … …」

宮野さんは顎に手を当てて俯き、むむむ…と唸っている。
少し考えた後。

「… 覚えてない…」

「ああ…」

やっぱりか。プレイヤー以外は夢の記憶がないらしい。

「でも変な夢だったのかもね。普通なら、楽しい、とか悲しい、とか夢がどういう内容だったか感情だけでも覚えてる事が多いでしょ?なのに、本当に何も覚えてないなんて…」

「あー、まぁ…忘れてるんなら仕方ないよ」

「ごめんね名雲くん。せっかく名雲くんから話し掛けてくれたのに」

「え?」

「だっていつも私から声かけてたでしょ?初めてじゃない?隣の席なのに、名雲くんから話し掛けてくれたの。なんだか嬉しいな」

「… … …」

惚れてしまうだろ。
って、いやいや。夢でも現実でも、二重にときめいてどうする。今の俺はそんな恋愛イベントにうつつを抜かしている場合ではない。

「またの機会によろしくね、宮野さん」

「うん。楽しみにしてるね」

宮野沙也加の笑顔に三重に惚れてしまいそうになるのを必死に抑えて、俺は席を前に向けた。

丁度そのタイミングで安田先生が教室に入ってくる。

「揃ってるかー。出席とるぞー」

…安田先生。…夢では、キオ。僧侶である俺の師匠、か。先生とも長い付き合いになりそうだな。

「…ん?珍しいな、名雲。えらく真面目そうな顔で先生の顔見て。勉強する気にでもなったか?」

「あ、いえ、違います」

「そこは嘘でもハイと言いなさい。まったく」

安田先生の言葉にクラスのみんなが笑った。俺は恥ずかしくなって頭を掻いて視線を窓の外に向ける。

「さ、それじゃあ出席とるぞー」

こうして、特に何も収穫なく学校のいつもの時間は過ぎ去っていった。

あとは…放課後。うまく敬一郎に会えるといいけど…。

今日は部室にちゃんといるだろうな、アイツ。俺は放課後をひたすら待った。

――― …
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...