ムゲンセカイ - 異世界ゲームでサポートジョブに転生した俺の冒険譚 -

ろうでい

文字の大きさ
上 下
1 / 80
一章『ゆめの はじまり』

『ぷろろーぐ』

しおりを挟む
――― …

「もう、駄目だ…」
「おしまいだ俺達…きっと、あの魔物に喰われちまう…!」

レンガ造りの街の裏路地。
なにかから隠れるように、二人の男兵士は震えながらそこに座り込んでいた。
青銅の鎧は仲間の返り血に染まり、持っている槍をお守りのように必死に抱え込み、震えを抑えようとしている。

そこへ。

「ギィギギギギ!! 見つけたぞォ~!!」

「!!」
「ああああ…ッ!!」

裏路地の塀の上。
人間より少しだけ小さい背丈をしているが、その爪は鋭く、牙には血の赤がついていた。
ほとんど白目の瞳を二人の兵士に向けると、塀の上から飛び降り、そちらへゆっくりと近づいていった。

この世界では『ゴブリン』と呼ばれるモンスターは、醜い顔に満面の笑みを浮かべる。

「た、た、助けてくれ…!」
「俺達に戦う意思はもうない!降伏する!い、命だけは…!」

「… … …」

ゴブリンは笑みを浮かべたまま二人の兵士をしばらく見る。
少し経った後、先ほど飛び降りた塀の方へ視線を向け、大声をあげた。

「降伏するってよォ~ッ!どうする、兄弟達~~ッ!!」

「え…!?」

ゴブリンのその声に応えるように、再び塀の上に、二匹のゴブリンが現れる。

「なんだなんだ~ッ!?人間ってのも情けねェ生き物だなァ~ッ!!」
「降伏~ッ!?おいどうするのよ兄弟~~ッ!!」

同じ顔。同じ笑み。塀の上のゴブリンも兵士達の前に飛び降りてくる。合計、三匹。じりじりと、状況を楽しむように二人の兵士との距離を詰めていく。

「ひ、ひぃぃぃぃ…ッ!!」

二人は尻もちをつきながら後ずさりしていくが…その先は、行き止まりだった。高い壁に助けを求めるように身体をつけ、ゴブリン達の方を涙を流しながら見て、震える。

「ん~~~…」

先頭のゴブリンは歩みを止めると、頭を掻いてじーっと人間の方を見る。

「… … … 降伏、ねぇ」

「そ、そうだ。今後魔物には一切手出しをしないし、食料だって謙譲する!な、なんでもするから…」

「食料を、けんじょう、だってよ~~」
「おいおい、そりゃあ聞き捨てならねェなぁ~~」
「そうだなァ~兄弟」
「命乞いまでして、こんな情けない姿見せられちゃあなァ~」

ゴブリン三匹は楽しそうにそんな会話をして、ニヤリと笑みを浮かべた。

「それじゃあ… 食料、いただこうかなァ~!!」
「… ただし…」
「それは…」

「… え?」


「「「 今すぐだァ~~~~ッ!!! 」」」

「「うわぁぁぁぁーーー!!」」

ゴブリン三匹が、一斉に兵士二人に喰いつこうと飛びかかった。
兵士は目をつぶり、必死に恐怖に耐える。今にも襲い掛かるであろう、ゴブリンの爪に、牙に。

…しかし。

それは、いつまで経っても、襲ってはこなかった。

「… … … あ、れ…?」


目をゆっくりと開く。

そこには、吹き飛ばされ、情けなく地面に転がって唸っているゴブリンが三匹。

そして…いつの間にか、自分たちの前にいる、一人の青年の姿があった。

「グ、ギギギギ…」
「き、貴様は…何者だァ…!?」

青年はピクリとも反応せず、ゴブリンの方へ向けてゆっくりと歩んでいく。
右手に持った銀の杖をゆっくりと天に向け、静かに、詠唱を始めた。

青年の詠唱に合わせて、頭上に光の矢のようなものが出現する。一本、二本と瞬く間にそれは増えていき… 気付けば無数の矢が三匹のゴブリンを取り囲んでいた。

「ギィィッ!?」
「な、ま、魔法…ッ!?そんな、こんな強力な魔法をどうして人間が…!?」

詠唱を終えた青年は地面に転がるゴブリンに向けて冷たい声を放つ。

「どうした。命乞いはしないのか?」

その言葉にゴブリンは怒り立ち上がり、戦闘態勢をとる。

「き、貴様ァ…!」
「図に乗るなよ、人間風情がァ…!」

「別に図に乗っちゃあいないさ。ただ一つ、お前らに教えておいてやる」

青年は銀の杖の先をゴブリンの方へ向けて、告げた。

「命乞いしてまで、命を守りたいと思うのは情けない事じゃない」
「相手と自分との実力の差を見定め、脅え、逃げ、震える事は…決して恥ずべき事ではない。どんな事があっても、自分の身を守る事は生物のすべき行動なんだ」
「間抜けなのは… 相手との実力の差も見定められず、無駄死ににくる馬鹿だ」

「「「 ほざけェ~~~ッ!!! 」」」


「 消えろ 」

爪を振りかぶり、口を開け、青年に一斉に襲い掛かる三匹のゴブリン。
それと同時に、青年は銀の杖を強く、空に薙ぎ払った。
それに呼応して光の矢はゴブリン達に向けて勢いよく飛んでいく。

「ギャアアアアアア!!」

矢がゴブリンに刺さる。何十もの矢を顔に、身体に浴びたゴブリンはその場に倒れる。
刺さった無数の光の矢は重なるように大きな光となり三匹のゴブリンを包み…そして、共に消滅した。


「…ふう」

青年は杖を置き、自分の後ろにいる二人の兵士の方を少し見た。無事を確認すると、再び視線を前に戻す。

「早く逃げた方がいい。戦域はもうすぐこの辺りまで拡大する。なるべく街の中心部まで逃げるんだ」

「は、はいッ…」
「あの、ありがとうございます!あの、貴方は…」

「名乗っている暇はないさ。早く行くんだ。…生きていたらまた会おう」

二人の兵士にそう告げて、青年は銀の杖を肩に担ぎ、前へと歩んでいった。


街に攻め込んだ魔物を倒すため。この街に住む人々を守るため。…大切な人達を、救うため。

青年『マコト』は、戦っていた。

――― …

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星
ファンタジー
魔力の溢れる世界。記憶を失った少女は最強魔導士に弟子入り! いずれ師匠を超える魔導士になると豪語する少女は、魔導を極めるため魔導学園へと入学する。しかし、平穏な学園生活を望む彼女の気持ちとは裏腹に様々な事件に巻き込まれて…!? 初めて出会う種族、友達、そして転生者。 思わぬ出会いの数々が、彼女を高みへと導いていく。 その中で明かされていく、少女の謎とは……そして、彼女は師匠をも超える魔導士に、なれるのか!? 最強の魔導士を目指す少女の、青春学園ファンタジーここに開幕! 毎日更新中です。 小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...