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一章『ゆめの はじまり』
『ぷろろーぐ』
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――― …
「もう、駄目だ…」
「おしまいだ俺達…きっと、あの魔物に喰われちまう…!」
レンガ造りの街の裏路地。
なにかから隠れるように、二人の男兵士は震えながらそこに座り込んでいた。
青銅の鎧は仲間の返り血に染まり、持っている槍をお守りのように必死に抱え込み、震えを抑えようとしている。
そこへ。
「ギィギギギギ!! 見つけたぞォ~!!」
「!!」
「ああああ…ッ!!」
裏路地の塀の上。
人間より少しだけ小さい背丈をしているが、その爪は鋭く、牙には血の赤がついていた。
ほとんど白目の瞳を二人の兵士に向けると、塀の上から飛び降り、そちらへゆっくりと近づいていった。
この世界では『ゴブリン』と呼ばれるモンスターは、醜い顔に満面の笑みを浮かべる。
「た、た、助けてくれ…!」
「俺達に戦う意思はもうない!降伏する!い、命だけは…!」
「… … …」
ゴブリンは笑みを浮かべたまま二人の兵士をしばらく見る。
少し経った後、先ほど飛び降りた塀の方へ視線を向け、大声をあげた。
「降伏するってよォ~ッ!どうする、兄弟達~~ッ!!」
「え…!?」
ゴブリンのその声に応えるように、再び塀の上に、二匹のゴブリンが現れる。
「なんだなんだ~ッ!?人間ってのも情けねェ生き物だなァ~ッ!!」
「降伏~ッ!?おいどうするのよ兄弟~~ッ!!」
同じ顔。同じ笑み。塀の上のゴブリンも兵士達の前に飛び降りてくる。合計、三匹。じりじりと、状況を楽しむように二人の兵士との距離を詰めていく。
「ひ、ひぃぃぃぃ…ッ!!」
二人は尻もちをつきながら後ずさりしていくが…その先は、行き止まりだった。高い壁に助けを求めるように身体をつけ、ゴブリン達の方を涙を流しながら見て、震える。
「ん~~~…」
先頭のゴブリンは歩みを止めると、頭を掻いてじーっと人間の方を見る。
「… … … 降伏、ねぇ」
「そ、そうだ。今後魔物には一切手出しをしないし、食料だって謙譲する!な、なんでもするから…」
「食料を、けんじょう、だってよ~~」
「おいおい、そりゃあ聞き捨てならねェなぁ~~」
「そうだなァ~兄弟」
「命乞いまでして、こんな情けない姿見せられちゃあなァ~」
ゴブリン三匹は楽しそうにそんな会話をして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「それじゃあ… 食料、いただこうかなァ~!!」
「… ただし…」
「それは…」
「… え?」
「「「 今すぐだァ~~~~ッ!!! 」」」
「「うわぁぁぁぁーーー!!」」
ゴブリン三匹が、一斉に兵士二人に喰いつこうと飛びかかった。
兵士は目をつぶり、必死に恐怖に耐える。今にも襲い掛かるであろう、ゴブリンの爪に、牙に。
…しかし。
それは、いつまで経っても、襲ってはこなかった。
「… … … あ、れ…?」
目をゆっくりと開く。
そこには、吹き飛ばされ、情けなく地面に転がって唸っているゴブリンが三匹。
そして…いつの間にか、自分たちの前にいる、一人の青年の姿があった。
「グ、ギギギギ…」
「き、貴様は…何者だァ…!?」
青年はピクリとも反応せず、ゴブリンの方へ向けてゆっくりと歩んでいく。
右手に持った銀の杖をゆっくりと天に向け、静かに、詠唱を始めた。
青年の詠唱に合わせて、頭上に光の矢のようなものが出現する。一本、二本と瞬く間にそれは増えていき… 気付けば無数の矢が三匹のゴブリンを取り囲んでいた。
「ギィィッ!?」
「な、ま、魔法…ッ!?そんな、こんな強力な魔法をどうして人間が…!?」
詠唱を終えた青年は地面に転がるゴブリンに向けて冷たい声を放つ。
「どうした。命乞いはしないのか?」
その言葉にゴブリンは怒り立ち上がり、戦闘態勢をとる。
「き、貴様ァ…!」
「図に乗るなよ、人間風情がァ…!」
「別に図に乗っちゃあいないさ。ただ一つ、お前らに教えておいてやる」
青年は銀の杖の先をゴブリンの方へ向けて、告げた。
「命乞いしてまで、命を守りたいと思うのは情けない事じゃない」
「相手と自分との実力の差を見定め、脅え、逃げ、震える事は…決して恥ずべき事ではない。どんな事があっても、自分の身を守る事は生物のすべき行動なんだ」
「間抜けなのは… 相手との実力の差も見定められず、無駄死ににくる馬鹿だ」
「「「 ほざけェ~~~ッ!!! 」」」
「 消えろ 」
爪を振りかぶり、口を開け、青年に一斉に襲い掛かる三匹のゴブリン。
それと同時に、青年は銀の杖を強く、空に薙ぎ払った。
それに呼応して光の矢はゴブリン達に向けて勢いよく飛んでいく。
「ギャアアアアアア!!」
矢がゴブリンに刺さる。何十もの矢を顔に、身体に浴びたゴブリンはその場に倒れる。
刺さった無数の光の矢は重なるように大きな光となり三匹のゴブリンを包み…そして、共に消滅した。
「…ふう」
青年は杖を置き、自分の後ろにいる二人の兵士の方を少し見た。無事を確認すると、再び視線を前に戻す。
「早く逃げた方がいい。戦域はもうすぐこの辺りまで拡大する。なるべく街の中心部まで逃げるんだ」
「は、はいッ…」
「あの、ありがとうございます!あの、貴方は…」
「名乗っている暇はないさ。早く行くんだ。…生きていたらまた会おう」
二人の兵士にそう告げて、青年は銀の杖を肩に担ぎ、前へと歩んでいった。
街に攻め込んだ魔物を倒すため。この街に住む人々を守るため。…大切な人達を、救うため。
青年『マコト』は、戦っていた。
――― …
「もう、駄目だ…」
「おしまいだ俺達…きっと、あの魔物に喰われちまう…!」
レンガ造りの街の裏路地。
なにかから隠れるように、二人の男兵士は震えながらそこに座り込んでいた。
青銅の鎧は仲間の返り血に染まり、持っている槍をお守りのように必死に抱え込み、震えを抑えようとしている。
そこへ。
「ギィギギギギ!! 見つけたぞォ~!!」
「!!」
「ああああ…ッ!!」
裏路地の塀の上。
人間より少しだけ小さい背丈をしているが、その爪は鋭く、牙には血の赤がついていた。
ほとんど白目の瞳を二人の兵士に向けると、塀の上から飛び降り、そちらへゆっくりと近づいていった。
この世界では『ゴブリン』と呼ばれるモンスターは、醜い顔に満面の笑みを浮かべる。
「た、た、助けてくれ…!」
「俺達に戦う意思はもうない!降伏する!い、命だけは…!」
「… … …」
ゴブリンは笑みを浮かべたまま二人の兵士をしばらく見る。
少し経った後、先ほど飛び降りた塀の方へ視線を向け、大声をあげた。
「降伏するってよォ~ッ!どうする、兄弟達~~ッ!!」
「え…!?」
ゴブリンのその声に応えるように、再び塀の上に、二匹のゴブリンが現れる。
「なんだなんだ~ッ!?人間ってのも情けねェ生き物だなァ~ッ!!」
「降伏~ッ!?おいどうするのよ兄弟~~ッ!!」
同じ顔。同じ笑み。塀の上のゴブリンも兵士達の前に飛び降りてくる。合計、三匹。じりじりと、状況を楽しむように二人の兵士との距離を詰めていく。
「ひ、ひぃぃぃぃ…ッ!!」
二人は尻もちをつきながら後ずさりしていくが…その先は、行き止まりだった。高い壁に助けを求めるように身体をつけ、ゴブリン達の方を涙を流しながら見て、震える。
「ん~~~…」
先頭のゴブリンは歩みを止めると、頭を掻いてじーっと人間の方を見る。
「… … … 降伏、ねぇ」
「そ、そうだ。今後魔物には一切手出しをしないし、食料だって謙譲する!な、なんでもするから…」
「食料を、けんじょう、だってよ~~」
「おいおい、そりゃあ聞き捨てならねェなぁ~~」
「そうだなァ~兄弟」
「命乞いまでして、こんな情けない姿見せられちゃあなァ~」
ゴブリン三匹は楽しそうにそんな会話をして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「それじゃあ… 食料、いただこうかなァ~!!」
「… ただし…」
「それは…」
「… え?」
「「「 今すぐだァ~~~~ッ!!! 」」」
「「うわぁぁぁぁーーー!!」」
ゴブリン三匹が、一斉に兵士二人に喰いつこうと飛びかかった。
兵士は目をつぶり、必死に恐怖に耐える。今にも襲い掛かるであろう、ゴブリンの爪に、牙に。
…しかし。
それは、いつまで経っても、襲ってはこなかった。
「… … … あ、れ…?」
目をゆっくりと開く。
そこには、吹き飛ばされ、情けなく地面に転がって唸っているゴブリンが三匹。
そして…いつの間にか、自分たちの前にいる、一人の青年の姿があった。
「グ、ギギギギ…」
「き、貴様は…何者だァ…!?」
青年はピクリとも反応せず、ゴブリンの方へ向けてゆっくりと歩んでいく。
右手に持った銀の杖をゆっくりと天に向け、静かに、詠唱を始めた。
青年の詠唱に合わせて、頭上に光の矢のようなものが出現する。一本、二本と瞬く間にそれは増えていき… 気付けば無数の矢が三匹のゴブリンを取り囲んでいた。
「ギィィッ!?」
「な、ま、魔法…ッ!?そんな、こんな強力な魔法をどうして人間が…!?」
詠唱を終えた青年は地面に転がるゴブリンに向けて冷たい声を放つ。
「どうした。命乞いはしないのか?」
その言葉にゴブリンは怒り立ち上がり、戦闘態勢をとる。
「き、貴様ァ…!」
「図に乗るなよ、人間風情がァ…!」
「別に図に乗っちゃあいないさ。ただ一つ、お前らに教えておいてやる」
青年は銀の杖の先をゴブリンの方へ向けて、告げた。
「命乞いしてまで、命を守りたいと思うのは情けない事じゃない」
「相手と自分との実力の差を見定め、脅え、逃げ、震える事は…決して恥ずべき事ではない。どんな事があっても、自分の身を守る事は生物のすべき行動なんだ」
「間抜けなのは… 相手との実力の差も見定められず、無駄死ににくる馬鹿だ」
「「「 ほざけェ~~~ッ!!! 」」」
「 消えろ 」
爪を振りかぶり、口を開け、青年に一斉に襲い掛かる三匹のゴブリン。
それと同時に、青年は銀の杖を強く、空に薙ぎ払った。
それに呼応して光の矢はゴブリン達に向けて勢いよく飛んでいく。
「ギャアアアアアア!!」
矢がゴブリンに刺さる。何十もの矢を顔に、身体に浴びたゴブリンはその場に倒れる。
刺さった無数の光の矢は重なるように大きな光となり三匹のゴブリンを包み…そして、共に消滅した。
「…ふう」
青年は杖を置き、自分の後ろにいる二人の兵士の方を少し見た。無事を確認すると、再び視線を前に戻す。
「早く逃げた方がいい。戦域はもうすぐこの辺りまで拡大する。なるべく街の中心部まで逃げるんだ」
「は、はいッ…」
「あの、ありがとうございます!あの、貴方は…」
「名乗っている暇はないさ。早く行くんだ。…生きていたらまた会おう」
二人の兵士にそう告げて、青年は銀の杖を肩に担ぎ、前へと歩んでいった。
街に攻め込んだ魔物を倒すため。この街に住む人々を守るため。…大切な人達を、救うため。
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