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八話 『民宿小話』
(7)???
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出会いは、突然やってきた。
「……猫だ」
「にゃ」
少女は、ある日、その猫と出会った。
白の身体に黒模様、パンダのようにも見えるその猫はやや歳をとった様子のオス猫。
その猫は、少女の方を向いて立ち止まり、横向きに少女を見ている。
「アンタ、あたしに向かって鳴いてるの?」
「にゃ」
「ほかに誰がいるのか?って? あはは。確かにね」
「……」
猫は少女の方を向いたままその場に腰を下ろし、不審そうな表情でじーっとそちらを向いている。
何かを言いたげな様子だ。
その様子を見て、少女は一歩、猫の方へ歩み寄って腰を下ろした。
「名を名乗れ、ってこと?っていうか、キミ、ここに住んでる猫なの?前はいなかった気がするけれど」
「にゃ」
「ふーん……。……ま、いっか。それじゃ、お互い自己紹介しようよ」
「あたしは……まあ、一応。ナナって呼ばれてるかな。ホントの名前は分からないけど、ナナでいいわよ。……そっちは?」
「……うなー。にゃ、にゃ」
「……へえ。アンタも、ホントの名前は違うんだ。ここに来てからの名前は……ポン、っていうのね」
「にゃー」
「よろしくね、ポン」
白いワンピースの、まだ幼さを残した少女は、年寄猫の右足をとり、握手をした。
――
民宿ヤマガミの一角。本館と新館の間の渡り廊下にはログハウス調の大浴場があるほかに、その隣に庭園のような場所がある。
庭園とは名ばかりで、実際は祖父の恒靖がどこぞから貰ってきた大岩を置いただけの場所なのだが、やがて草木が生えはじめたその場所は見栄えのよい庭園のようなスペースになっている。
その岩の一つに、少女と猫は腰かけている。
夏の昼。空は少し曇り、この時期にしては過ごしやすい気温。
何をするわけでもなく、一人と一匹はその先にある民宿の景色を眺めていた。
少女が口を開いて、猫に話し掛ける。
「不思議な場所だよね、ここ。アンタはなんでここにきたの?」
「うなー」
「流れ着いた、って感じなのね。かわいそうに」
「うな?」
「あたし?あたしは……どうしてなんだろうな。あはは、あんまりその辺はわかんないのよねぇ」
「にゃー」
「変よね。多分、アンタが見えるから、あたしもここに今いるんだろうしさ。あたしもどうしてこうして話ができてるのか、分からないのよ」
「……なー」
「……ははは。何話してるか分からない、って感じだよね。あたしも分かんないや」
少女は笑いながら、大岩にゴロンと横になる。
大きな入道雲は、太陽をすっぽりと隠し、しばらくは日の光は拝めないだろう。
山から風がそよぎ、民宿の周りの木々を、少女の髪を、猫の毛を揺らす。
「似てるわね、あたし達」
「うにゃ」
「そうよ。この場所に、お互いに流れ着いたんだもの。普通の人間とはお喋りできないけれど……なにか、不思議な事が起きて、この場所にいることができる。それって、素敵なことだと思うわよ」
「なー」
「一緒にするな、って……そ、そんな言い方ないでしょ。似たもの同士、お互いに助け合わない、っていう提案よ」
「ふるるる」
「うわ、首振った。……え?なに?俺は俺で生きているんだから、手出し無用?」
「にゃ」
そう話し……ているであろう猫の目線の先には、メスの猫が数メートル離れてじっとこちらの様子を見ている。
「あー……。なるほど。半分ここは、アンタの愛の巣ってわけなのね」
「にゃ」
「わかったわかった。邪魔しないようにするわよ」
「うなー。にゃー」
「……まあ、たまにはこうして話でも聞いてやる、ですって?……ね、猫のクセに、生意気ね、アンタ」
「うな」
少女は寝ている態勢から身体を起こして、笑顔で猫を見つめる。
猫も、顔だけ少女の方を向いてじっとその顔を見つめた。
「それじゃ、よろしくね。ポン」
「にゃ。うな、うな」
「……あれ?ポン。珍しいところにいるね」
自転車を押しながら、この民宿の長女、柚子が帰ってくる。
「にゃ」
「お連れさん、さっきあっちの方にいたよ?そっちには行かないの?」
「にゃ」
「ふーん……。誰かに撫でてもらってたとか?お母さんとか?」
「うな」
「……ま、いっか。暑くなるかもしれないから、涼しいとこにいるんだよ?水なら飲んでっていいからね」
「なー」
柚子はそう言って、本館の奥に自転車を止め、民宿の調理場の方へと入っていく。
先ほどの少女の姿はなかった。
きっとどこか、見えないところに行ったのだろう。
……まあ、いい。
流れ着いた者同士、居るも自由、居なくなるも自由。
お互い、気ままに生きていくことにしようではないか。
猫は、そう思い、岩から下りて歩んでいくのであった。
――
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