上 下
52 / 67
七話 『風来の、猫』

(7)

しおりを挟む

――

「……猫だ」

翌日。
学校帰り、坂道を自転車を押して帰る私は……猫を見た。

白黒模様の、でっぷりした体格の猫。
やや年老いて見えるのんびりした様子のその猫は……。


ポン、だった。


「…………は?」

ポンと思わしき猫……というか、ポンは……民宿から数十メートル離れた民家の庭にのんびりと座り込んでいる。
視線は、民家の中。家の大きな窓からは…… 美しい、ペルシャ猫がソファーの上でポンを眺めていた。

お互いに視線を交わす、オスとメス。
窓ガラスに隔てられた二匹の視線は……まるで、恋をしているような、そんな様子だったのだ。

「……まさか。ポン、キミ……この家に居座ってずっとこの子のところにいたとか、そういうオチ……!?」

「うなー」

自分の背後にいる人間に気付いたポンは「そうだが何か問題でも?」という様子で私に鳴き声を浴びせる。

思わずその態度に、私は声を荒げた。

「ふ……ふざけんじゃないわよーーっ!!昨日、悠と夏とキミのこと心配してたんだからねっ!?こっちはもうキミにお別れまで言ってるんだから!」

「……」

私の様子をポンはじーっと見て……。やがて、「やれやれ」という感じで私の元へゆったりと歩んでくる。
猫の癖に、溜息を吐いているようだ。

そして、ポンは……私の足元にぴったりとくっついた。

「…………は?」

「なー」

「……まさか、キミ……それで諦めがついて、民宿に帰ろうってつもりじゃないでしょうね……!?」

「にゃ」

こ……この、猫……!!

「さ、さすがに許さないからね!?今更どんな顔して家に戻ってくるっていうのよ!彼女猫たちだってキミのこと心配してたんだから!キミみたいな浮気者に貸す敷地なんて……」

物言わぬ相手に、説教をしていた、その時。


「あ、柚子ちゃん」

「あ、悠」


小学校帰りの悠が、私を見つけて道の反対側から声をかけていた。
そして、私の足元にいる生物を見つけ……喜びの声をあげる。

「……!ポン!ポン!柚子ちゃん、見つけてくれたの!?」

「あー、まぁ……見つけたというか、なんというか……」

「すごい、柚子ちゃん!ありがとう!ポン、心配したんだからね」

「にゃー」

私では埒があかないと悟ったのだろう。ポンは悠の元へと歩んでいき、足元に擦り寄るのだった。

「ウチに帰ってきてくれるんだね。じゃ、ポン、一緒にかえろ」

「にゃ」

そうして……純粋無垢な我が妹と、狡猾な浮気猫は、二人仲良く、数十メートル先の我が家の敷地へと、入っていくのだった。

「……」

虚しさ。苛立ち。虚脱感。悲哀。
様々な感情が私の中に渦巻き……。


「……おそれ、いりました……」

あんなに上手く世渡りをする猫に、感服をするのだった。

――

こうして、我が家の庭には時々、白黒の年を取った猫がたまに居座るようになっていた。
その時によって寝床は変えているようで、たまに数日帰って来ない時がある。しかし恐ろしいことに、またいつの間にか我が家に帰ってきているのだ。
我が民宿ヤマガミは、風来坊の浮気者猫の拠点として、活用されることになってしまったのだった。
たまに違う猫を連れてきているようだけれど……基本的にお客さんに迷惑はかけていないし、餌も欲しがらない。ただただ、傍観するしかなかいのだ。

人懐っこい猫が、良い猫だとは限らないのだ。
しかし……彼にとってはきっと、最高の余生の過ごし方を、しているのだろう。


もしも、貴方の庭先に白黒のデブ猫がいたら……。

それは、ひょっとして……。

――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

処理中です...