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四話 『不思議な、お姉さん』

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「……それで、ここが浴室です。伴野さんが泊まってる新館の方に大浴場もあるのでそちら使っても大丈夫ですよ。使う時は使用中の札かけてくれればオッケーです」

「ふむ、なるほどなるほど。…ほー、改装はしてあるけど、周りは元の民家のままなんだな。なるほど、古い古い」

「……それ、褒めてるんですよね?」

「勿論」

旧館にある少人数用の浴室を紹介したところで、民宿内の場所をあらかた説明し終えた。
説明をするたび「古くて良い」と嬉しそうにシャッターを切る伴野さんを見ていると、私まで嬉しくなる。
それは決して馬鹿にした言い方ではなく、昔ながらの民家の面影を見るのが好きな人の言い方だということが分かるからだ。

伴野さんは場所の写真を撮り終えると、上着の胸ポケットからメモ帳を取り出してなにかをサラサラと書いていた。

私はその様子が気になって、伴野さんに聞いてみる事にする。

「あの、なにを書いているんですか?」

「写真だけだとどうしても、記録できないコトがあるだろ?その時に感じた匂いとか、音とか、写真の外の物とか。そういうのを逐一記録するようにしてるんだ」

「……へー」

変わった人だな、というのが正直な感想だ。
今までも何度か民宿の中を案内して欲しいというお客さんはいたが、ここまで熱心に『記録』をしてくれる人は初めてだった。

……観光の人だって勝手に解釈していたけれど、本当は違うのかな?ひょっとしたら、何か取材してるとか……?

そんな疑問が、少しずつ私の中で大きくなっていく。

そして、頭に「?」マークをつけた私の表情に気付いたのだろう。伴野さんはメモを胸ポケットにしまうと、私に向けて少し微笑んだ。

「変だろ」

「い、いえ、そんなコト……すいません」

「はは、素直に言えよ。大丈夫だから」

「……そこまで熱心にこの民宿のコト記録してくれる人、見たことないです」

「だろーな。私もそうだろうなと思うよ」

ショートヘアの髪をかきあげて、伴野さんは笑った。

「仕事柄、な。見たものとか経験したことを細かく記録するクセがあるんだよ。気を悪くしないでくれ」

「わ、悪くなんて思ってないですよ。むしろこんなところのコト沢山書いてくれるなんて、うれしいなーって」

「良かった。じゃあ、また紹介してくれると助かるよ」

「いえ、ここで民宿の中はあらかた見終わりましたよ。あとは私達の住んでる家があるくらいでして」

「ふーん。そっちは見られないのかな」

「一応、そっちは民家ですので……」

「残念。田舎少女の生活が垣間見えると思ったのに」

「我慢してください」

もう既に、伴野さんの冗談がすっかり通じるようになってきている。気が合うのだろうか、こんなにフランクにお客さんと接せるのが、私も嬉しかった。
不思議なお姉さん、だけど、かっこよくてステキなお姉さん。それが伴野さんの印象になった。

旧館のお風呂を紹介し終えて、私はそのまま玄関に行き、靴を脱いで上にあがる。

「まだ時間も早いですし、お茶でも飲みますか?お部屋の方にお持ちしますけど」

「ああ、いや、なにからなにまで有難う。部屋の方までじゃ大変だから、そこの食堂で飲ませてもらうよ」

「分かりました。それじゃ、座ってお待ちください」

「……あー、柚子、だっけ?暇だってさっき言ってたよね?」

「あ、はい、一応」

「じゃあ、お茶、付き合ってくれないかな。この民宿のコトとか色々聞きたいし」

「……」

勿論オッケーだった。伴野さんと話すのは既に楽しいし、なんだかこの人を見ているとワクワクする。

でも、私からも一つ……。

「いいですけど……一つだけ条件が」

「ん?なんだ?」

「伴野さんのお仕事、教えてくださいね」

「……ま、気になるよな。分かった。別に隠すつもりもないよ」

「良かった。それじゃお茶淹れてきますね。お漬物もあるからつまみながらお話しましょう!」

私は、軽い足取りで、キッチンへと向かった。

――
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