刑事たちの余談

江木 三十四

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14.不審者と話そう

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高齢の男性が自宅で庭の手入れをしていると見知らぬ男が訪ねてくる。
「こんにちは、ご精が出ますね」
男は人懐こそうな笑顔で話しかけてきた。
「まあ、趣味みたいなものですから」
愛想のいい男なので老人も気を許す。
「ご主人は女崎メザキさんというんですね」
「ああ、玄関の表札ね」
男はその表札を話題にする。
「立派な表札ですね」
「ありがとう。ちょっと良い木を使ったんだ」
「そうでしょう。ぼくは木にはちょっと詳しいんです」
老人は男のその言葉に嬉しくなる。
ところが、次に男はこう言った。
「でも、この彫りってどうなんでしょうね」
「そうかな」
老人は、今度はちょっとがっかりする。 
「それと画数も、この数でどんなものですか?」
男から出たセリフはこんなものだった。
「私の名前の画数ってこと?」
しかし、それには答えずこんなことを畳みかける。
「男性なのに姓に女という字が入るってのも、う~ん」
さすがに老人はムッとする。
「あなた、何言ってんの?」
しかし、老人の言葉を男は全く意に介さず、自分の言いたいことを続ける。
「第一、この家の方位っていかがなものなんでしょう」
老人は怒鳴ってやろうと思ったが男の口の方が早かった。
「さっきから吠えてるこれ。うるさい生き物ですね」
するとそのうるさい犬がいきなり男の右足に齧りつく。
「あっ、申し訳ない。大丈夫ですか?」
老人は犬の突然の行動にびっくりする。
「すぐ噛みつくのも犬の仕事なんですかね」
顔に苦痛の表情を浮かべながらも男は穏やかに話し続ける。
老人は大いにあわててしまう。
「すみません。けがの手当てをしないと、血が出てますよ」
男は犬に噛みつかれたまま続ける。
「とにかく、ずいぶんとまあ・・」
(難癖をつけて、慰謝料を請求するつもりか?)
しかし、男は穏やかに微笑している。
(霊感商法?開運グッズでも売りつけるのか?次に何を言い出すのか?)
老人は緊張し身構える。
「それで、何を言いたいんだ?」
「いえ、お幸せそうで、いいですな。全部、素晴らしいです。うらやましい」
そう言うと右足を引きずりながら去って行く。
「なんだ、あれ?警察呼んだ方が良いのか?」

福田君「それで、警官が男に職務質問したんだ」
みさとさん「その人、何だったの?」
福田君「ただの話し好きで、なんでもほめるのが趣味のおじさんなんだって」
みさとさん「ほめてたの?変なの」

おしまい

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