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「声を聞いた」後日談
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殺人犯の逮捕後、刑事の福田君と益子君は事件に追われ、みさとは占い師としてお客さんの相談にのるという生活が続いた。
そして、福田君とみさとはつきあいを始め、二人の関係は周りがうらやむほどだった。
食事をして、映画を見て、テーマパークで遊んだり、それぞれのアパートに行ったりと二人だけの楽しい時間を過ごし、はた目に見ても結婚は間近と思われた。
二人も当然結婚を意識していた。特にみさとは福田君のプロポーズを待っているようだったし、福田君もそれをいつ言おうかという段階だった。
みさとはその夜も、いつものように占いの店を出したがお客は少なかった。
「そろそろ帰ろうかな」
そんなことを考えていると、その男の客は突然現れた。そして唐突にこう言った。
「あなたの占いは当たると聞いてやって来た」
みさとはその男性をまじまじと見つめる。
「私の頼み事も分かるかな?」
(いきなりやって来て。そんなの、分かるわけないでしょ)
そう思ったが一応客だと思い椅子をすすめる。
みさとは居住まいをただすと60代と思われる男性に質問する。
「すみません。ご用向きを教えてください」
「そうですね。私が言わないと分からないですよね」
しょっぱなから面倒くさい客かなと思った男性の相談は意外にもありふれたものだった。
「引っ越すので方位を調べて欲しい」
一通り占うと客は満足してお金を払って帰っていった。
(あの人、私の頭から足の先までジーっと見ていたな。でも、いやらしい視線じゃなかったし、なんか懐かしい感じがしたな。それとも私の美貌から目が離せなかったとか。イヤー、まいったなぁ)
時計を見ると11時近かった。
(もう帰ろ。ラーメンでも食べてくかな)
その男性は、次の日もやってきて「転職」について相談した。
その次の日は、行方不明になった猫の安否が話題だった。
(やっぱり私をナンパしようと考えているみたいね)
(でもさ、ストーカーだったら困るし、福田さんに相談した方が良いかな?)
福田君は、電話口でこう答えた。
「ぼく、殺人事件にかかりきりでみさとちゃんを守れないんだ。ごめんね。とりあえず、仕事には行かないで」
みさともそう思い、2・3日は家でじっとしていたが、4日目には仕事に行ってしまった。
「あれから、毎日、待っていたんですよ」
男はニコニコしながらみさとを眺める。
(まずい、本物のヤバイおじさんだ)
みさとは、エヘラエヘラするが心の中ではあせりまくる。
「はは・・。して、今日は何のご相談ですか?」
「今日は、今後の人生についての相談です」
相変わらず、質問はシンプルだった。最初のころのようにみさとを見つめることもなくなっていた。
男性客が帰り、ほっとして店じまいをしているとお客用の椅子に目が行く。
そこには小箱が残されていた。
(さっきのお客さんの忘れ物?)
(毒虫や爆弾が入っていたらどうしよう!)
福田君に電話するとすぐにこう言ってくれた。
「これから行く!」
駆けつけた福田君は険しい表情をしていた。
「どんな人だった?」
「ごくありふれたおじいちゃん」
「みさとちゃん、箱をいじったり、開けようとしたりしてないよね」
「うん」
「その箱見せて」
みさとが箱をおそるおそる出す。
その小箱を見た福田君の顔色が変わる。
「何回も来てくれたのよ」
みさとの説明にますます表情が険しくなる。
「これは、ぼくに預からして」
「それから、みさとちゃんはすぐに家に帰るんだ」
そう言うと、慌てふためいて走って行く。
二十分後、福田君は男性と対峙していた。
小箱を机の上に置くと詰問する。
「これ、あなたが置いていったものですね」
「そうだよ」
「困るじゃないか。こんなことして」
「だって、お前がはっきりしないから俺が手助けしたやったんだ」
「自分のことは自分でするよ。時機を見ていたんだ」
「何が時機を見るだ。こんな物まで用意しておいて、肝心の彼女はほっぽらかしか?もう、することは一つだろ」
「だから、それはぼくが決めると言ってんだろ」
「そんなことしてたら、彼女はばあさんになっちまうぞ」
「余計なお世話だよ。これはぼくたちの問題だからね。口も手も出さないでくれよ」
「分かった、分かった。もう何もしない」
「いくら親父でもやっていいことと悪いことがあるんだよ」
すると、小箱を福田君の目の前に突き付けてこう言った。
「いいか、これだけは父親として言っとくぞ。早くこの指輪を渡してプロポーズしろ。優柔不断息子め」
父親のその言葉で頭に血が昇った福田君は、その勢いでみさとの家に行く。
福田君の形相に、あっけにとられているみさとにプロポーズした。
こうして、二人は友人たちに祝福されてめでたく結婚した。
「お父さん、ありがとうございました。これからよろしくお願いします」
みさとがウェディングドレスをきらめかせながら義父に挨拶する。
「みさとさん、幸せになりなさい」
おわり
そして、福田君とみさとはつきあいを始め、二人の関係は周りがうらやむほどだった。
食事をして、映画を見て、テーマパークで遊んだり、それぞれのアパートに行ったりと二人だけの楽しい時間を過ごし、はた目に見ても結婚は間近と思われた。
二人も当然結婚を意識していた。特にみさとは福田君のプロポーズを待っているようだったし、福田君もそれをいつ言おうかという段階だった。
みさとはその夜も、いつものように占いの店を出したがお客は少なかった。
「そろそろ帰ろうかな」
そんなことを考えていると、その男の客は突然現れた。そして唐突にこう言った。
「あなたの占いは当たると聞いてやって来た」
みさとはその男性をまじまじと見つめる。
「私の頼み事も分かるかな?」
(いきなりやって来て。そんなの、分かるわけないでしょ)
そう思ったが一応客だと思い椅子をすすめる。
みさとは居住まいをただすと60代と思われる男性に質問する。
「すみません。ご用向きを教えてください」
「そうですね。私が言わないと分からないですよね」
しょっぱなから面倒くさい客かなと思った男性の相談は意外にもありふれたものだった。
「引っ越すので方位を調べて欲しい」
一通り占うと客は満足してお金を払って帰っていった。
(あの人、私の頭から足の先までジーっと見ていたな。でも、いやらしい視線じゃなかったし、なんか懐かしい感じがしたな。それとも私の美貌から目が離せなかったとか。イヤー、まいったなぁ)
時計を見ると11時近かった。
(もう帰ろ。ラーメンでも食べてくかな)
その男性は、次の日もやってきて「転職」について相談した。
その次の日は、行方不明になった猫の安否が話題だった。
(やっぱり私をナンパしようと考えているみたいね)
(でもさ、ストーカーだったら困るし、福田さんに相談した方が良いかな?)
福田君は、電話口でこう答えた。
「ぼく、殺人事件にかかりきりでみさとちゃんを守れないんだ。ごめんね。とりあえず、仕事には行かないで」
みさともそう思い、2・3日は家でじっとしていたが、4日目には仕事に行ってしまった。
「あれから、毎日、待っていたんですよ」
男はニコニコしながらみさとを眺める。
(まずい、本物のヤバイおじさんだ)
みさとは、エヘラエヘラするが心の中ではあせりまくる。
「はは・・。して、今日は何のご相談ですか?」
「今日は、今後の人生についての相談です」
相変わらず、質問はシンプルだった。最初のころのようにみさとを見つめることもなくなっていた。
男性客が帰り、ほっとして店じまいをしているとお客用の椅子に目が行く。
そこには小箱が残されていた。
(さっきのお客さんの忘れ物?)
(毒虫や爆弾が入っていたらどうしよう!)
福田君に電話するとすぐにこう言ってくれた。
「これから行く!」
駆けつけた福田君は険しい表情をしていた。
「どんな人だった?」
「ごくありふれたおじいちゃん」
「みさとちゃん、箱をいじったり、開けようとしたりしてないよね」
「うん」
「その箱見せて」
みさとが箱をおそるおそる出す。
その小箱を見た福田君の顔色が変わる。
「何回も来てくれたのよ」
みさとの説明にますます表情が険しくなる。
「これは、ぼくに預からして」
「それから、みさとちゃんはすぐに家に帰るんだ」
そう言うと、慌てふためいて走って行く。
二十分後、福田君は男性と対峙していた。
小箱を机の上に置くと詰問する。
「これ、あなたが置いていったものですね」
「そうだよ」
「困るじゃないか。こんなことして」
「だって、お前がはっきりしないから俺が手助けしたやったんだ」
「自分のことは自分でするよ。時機を見ていたんだ」
「何が時機を見るだ。こんな物まで用意しておいて、肝心の彼女はほっぽらかしか?もう、することは一つだろ」
「だから、それはぼくが決めると言ってんだろ」
「そんなことしてたら、彼女はばあさんになっちまうぞ」
「余計なお世話だよ。これはぼくたちの問題だからね。口も手も出さないでくれよ」
「分かった、分かった。もう何もしない」
「いくら親父でもやっていいことと悪いことがあるんだよ」
すると、小箱を福田君の目の前に突き付けてこう言った。
「いいか、これだけは父親として言っとくぞ。早くこの指輪を渡してプロポーズしろ。優柔不断息子め」
父親のその言葉で頭に血が昇った福田君は、その勢いでみさとの家に行く。
福田君の形相に、あっけにとられているみさとにプロポーズした。
こうして、二人は友人たちに祝福されてめでたく結婚した。
「お父さん、ありがとうございました。これからよろしくお願いします」
みさとがウェディングドレスをきらめかせながら義父に挨拶する。
「みさとさん、幸せになりなさい」
おわり
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