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1-8: スヴィリタリフの雨(Rain of "Sebewitalif")(前編)
5.ルミニタ・ユミス
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自身の記憶の不確かさに疑問を持ったこと、そしてすでに多くの話を聞き過ぎて、ルミニタは思考することが難しくなっていた。ただ、子どもの頃の楽しかった日や辛かった日々の思い出が、ぐるぐると回っていた。だが、魔術という言葉を耳にしたとき、名状しがたい恐怖に襲われた。
リベルから聞いたたくさんの言葉や伝承。それらについて、もう考えたくなかった。私はそんな怖いもの関わりたかったわけじゃない。
ただ、世界の美しいものや、人の優しさに触れたかっただけ。誰かの役に立ちたいと思っているだけ。そんな優しい人間に、なれたら良いなと思っていただけ。それなのになぜ、なぜ私だけ……。
「分からない。魔……そんな怖いことば聞きたくない。もしうまくいかなかったら……私たち、精霊術すら使えないのに。魔術士って、昔、世界を壊そうとした人たちなのでしょう?蘇った魔術士は使徒様に倒されるって、聖典に書いてあった。私、悪者になるの?全部、忘れてしまうのが怖いよ、リベル……」
ルミニタが言い終えるその瞬間だった。
ルミニタは目の前が見えなくなり、温かいぬくもりに包まれた。
リベルだった。
ルミニタを腕の中で優しく抱き締めたまま、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「たとえ世界中がルミの敵になっても僕が側にいる。たとえ全てを忘れても、僕が君を覚えている。その時はもう一度、楽しい思い出を作ろう。何度だっていい。忘れる度に繰り返そう。そうすればルミも、一緒に笑っていられるだろう?」
それは、かつて四つ葉遺跡で、ルミニタ自身が述べた言葉だった。
「ルミ、怖かったらいいんだ。ルミが良ければ、どこか遠くの誰も知らない場所に行って、クララと三人で生活を始めるのもいいかもしれない。師匠やヘステルにはちゃんと事情を話さなきゃならないけど……」
リベルの体は暖かかった。心臓の音が聞こえる。鼓動を通して、まるで一つの存在になったかのような温かさを感じた。
しかしすぐに気が付いた。リベルの心臓は、とても早く鳴っている。よく知っている感情だった。不安、恐れ、緊張……。
私は間違っていた。私だけじゃない。リベルだって怖いんだ。怖いけど、頑張って調べた。私のために。
ルミニタはリベルの言葉をよく考えた。これは、さっきの質問の答えでもある。この力は危険を及ぼすかもしれない。それも周りに対して。
自分とは一体、ルミニタとは一体、何?遺物の国からやってきた孤児?精霊術の使えない、かわいそうな弱者?邪悪な魔術士?記憶を信じられない私は、何を持って『私』なのだろう。
ルミニタの中に恐怖があった。自分自身、魔術、『喪失の呪い』。
それとは別の、小さいが暖かい灯火もあった。リベル、クララ、ヘステル、師匠、オルダーウィックの町の人々、森で見た精霊たち、平野の国に来た頃に出会ったホシワタリの女性。
いくら考えても、答えに結びつく気がしなかった。それは、これらが『私』の一部にしか過ぎないからかもしれない。バラバラの『私』をつなぎ合わせるには、別の何かが必要なのだ。
「リベル、私は皆と笑顔で生きていたい。精霊術が使えなくても、国が違っても、前を向いて生きていたい。誰かの役に立ちたい。『呪い』なんてものに奪われたくない。ランディニウムへ行く。私たちはホシワタリになって、世界中のかけらを集める」
ルミニタが答えると、リベルはもう一度彼女を抱きしめた。強く、優しく。
『私』をつなぎ合わせるもの。それはきっと、信じて選択すること。私の中の暖かい光を守ること。ルミニタはそう誓った。
夜空を覆っていた流星は、今や数える程だった。小さな光の滴が、時折静かに流れている。
静寂を取り戻しつつある夜。しかし昨日までの夜とは、別のような深さと昏さをたたえていた。数刻もすれば夜が明け、陽が昇るであろう。その陽もきっと、これまでの朝とは異なる光を放つには違いない。
それがどんな世界であるのか、彼らに知る由もなかった。
リベルから聞いたたくさんの言葉や伝承。それらについて、もう考えたくなかった。私はそんな怖いもの関わりたかったわけじゃない。
ただ、世界の美しいものや、人の優しさに触れたかっただけ。誰かの役に立ちたいと思っているだけ。そんな優しい人間に、なれたら良いなと思っていただけ。それなのになぜ、なぜ私だけ……。
「分からない。魔……そんな怖いことば聞きたくない。もしうまくいかなかったら……私たち、精霊術すら使えないのに。魔術士って、昔、世界を壊そうとした人たちなのでしょう?蘇った魔術士は使徒様に倒されるって、聖典に書いてあった。私、悪者になるの?全部、忘れてしまうのが怖いよ、リベル……」
ルミニタが言い終えるその瞬間だった。
ルミニタは目の前が見えなくなり、温かいぬくもりに包まれた。
リベルだった。
ルミニタを腕の中で優しく抱き締めたまま、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「たとえ世界中がルミの敵になっても僕が側にいる。たとえ全てを忘れても、僕が君を覚えている。その時はもう一度、楽しい思い出を作ろう。何度だっていい。忘れる度に繰り返そう。そうすればルミも、一緒に笑っていられるだろう?」
それは、かつて四つ葉遺跡で、ルミニタ自身が述べた言葉だった。
「ルミ、怖かったらいいんだ。ルミが良ければ、どこか遠くの誰も知らない場所に行って、クララと三人で生活を始めるのもいいかもしれない。師匠やヘステルにはちゃんと事情を話さなきゃならないけど……」
リベルの体は暖かかった。心臓の音が聞こえる。鼓動を通して、まるで一つの存在になったかのような温かさを感じた。
しかしすぐに気が付いた。リベルの心臓は、とても早く鳴っている。よく知っている感情だった。不安、恐れ、緊張……。
私は間違っていた。私だけじゃない。リベルだって怖いんだ。怖いけど、頑張って調べた。私のために。
ルミニタはリベルの言葉をよく考えた。これは、さっきの質問の答えでもある。この力は危険を及ぼすかもしれない。それも周りに対して。
自分とは一体、ルミニタとは一体、何?遺物の国からやってきた孤児?精霊術の使えない、かわいそうな弱者?邪悪な魔術士?記憶を信じられない私は、何を持って『私』なのだろう。
ルミニタの中に恐怖があった。自分自身、魔術、『喪失の呪い』。
それとは別の、小さいが暖かい灯火もあった。リベル、クララ、ヘステル、師匠、オルダーウィックの町の人々、森で見た精霊たち、平野の国に来た頃に出会ったホシワタリの女性。
いくら考えても、答えに結びつく気がしなかった。それは、これらが『私』の一部にしか過ぎないからかもしれない。バラバラの『私』をつなぎ合わせるには、別の何かが必要なのだ。
「リベル、私は皆と笑顔で生きていたい。精霊術が使えなくても、国が違っても、前を向いて生きていたい。誰かの役に立ちたい。『呪い』なんてものに奪われたくない。ランディニウムへ行く。私たちはホシワタリになって、世界中のかけらを集める」
ルミニタが答えると、リベルはもう一度彼女を抱きしめた。強く、優しく。
『私』をつなぎ合わせるもの。それはきっと、信じて選択すること。私の中の暖かい光を守ること。ルミニタはそう誓った。
夜空を覆っていた流星は、今や数える程だった。小さな光の滴が、時折静かに流れている。
静寂を取り戻しつつある夜。しかし昨日までの夜とは、別のような深さと昏さをたたえていた。数刻もすれば夜が明け、陽が昇るであろう。その陽もきっと、これまでの朝とは異なる光を放つには違いない。
それがどんな世界であるのか、彼らに知る由もなかった。
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