ホシワタリのあなたへ

1-7: 星の夜の告白（Magianicus）

4．特別

唐突な言葉に，ルミニタの心臓が大きく鳴った。顔が熱くなり足元がふらついた。リベルの上着が肩から落ちた。しかし寒さは感じなかった。

リベルが言葉を探していることがルミニタに分かった。それにも関わらず，彼の青い瞳の奥には深くまっすぐな感情が宿っているようだった。
心に決めた決意と迷いが必死にせめぎ合っている，そんな緊張感が彼女にも伝わった。

（大事な話？何？ヘステルのこと？クララの墨のこと？それとも……）
ルミニタの中でいくつもの言葉が駆け巡った。そのまま目を回しそうになった。

「ルミ」リベルがもう一度名前を呼んだ。
「はい，ルミニタです」彼女は緊張の中，良く分からない返事をした。何日か前に，クララとこっそり読んだロマンス小説の一場面が頭の中に広がった。自分たちには無縁だと思っていたようなときめく場面が，いくつも頭に浮かんだ。

「君は特別なんだ」
リベルの背後で星が流れるのが見えた。次々と現れる流星が，空を光で埋めていくようだった。

「と，『特別』というのは……『特別』だということでしょうか？」
ルミニタは必死だった。足の力が抜けてそのまま倒れてしまいそうになった。それをリベルが優しく抱きかかえた。

リベルの顔がルミニタの目と鼻の先にあった。もう流星は見えなかった。

ルミニタの頭の中を，手続きや手順があるのではとか，血の繋がりはなくとも兄妹なのではとか，今日の夕食はなんだったかとか，様々な疑問が沸いては消えた。
しかし何も言葉にできなかった。

ただ目を閉じて，待った。

ルミニタの聞き慣れた声がした。彼の優しさと緊張が，耳を通して伝わってくるようだった。

「ルミの……きみの力は，魔術マギアニクスと呼ばれる。落ち着いて効いて欲しい。君はノクタ神の力が顕現した，現代の魔術士だ」

流星はいつ終わるとも知れず降り続けていた。終わることの無い光の雨が，地上にまで達しようとしている。空は光で塗りつぶされ，地上との境目まで飲み込んでいく。
その瞬きは，別だと思われていた二つの世界を一つにするかのうように，いつまでもいつまでも続いていた。