23 / 37
1-7: 星の夜の告白(Magianicus)
1.家族の形(1)
しおりを挟む
サイラスとの話が終わり,「小鳥の泊まり場」を出たルミニタは家へ向かった。ヘステルの力を借りなくてはならない書類がたくさんあった。
しかしルミニタは,なぜかこのまままっすぐに自宅へ向かう気にならなかった。道の真ん中で止まって方向転換すると,彼女のブラウンの三つ編みが弧を描いた。そのままルミニタは川沿いへ向かった。
オルダーウィックの昼下がり,川沿いの道はいつものように賑やかだった。
絵描きのサディアスは,花壇の花に向かってキャンバスを構えていた。桜がほとんど散ってしまったためだろう。彼の視線の先では,繊細な白さを持つ木蓮が大きな花を咲かせ,紫のチューリップが風に揺れていた。
子どもたちは川には入らず,その周囲を駆け回っていた。微笑ましい光景にルミニタは思わず笑顔になった。ふと顔を上げると,川の主であるマーラが,子どもたちに目を光らせていた……。
ルミニタは,通りすがりのフェントン夫妻に会釈をして歩みを進めた。もし自分も誰か素敵なパートナーを見つけたら,彼らのようにいつまでも夫婦仲良くしていたい,ルミニタはいつもそう思っていた。
(素敵なパートナー……)
ルミニタの空想の中に,一人の男性の姿が現れた。急に恥ずかしくなって,ルミニタは早足で歩き出した。
川沿いを進みやがて桜が並ぶ通りへ差し掛かった。地面の上には,ここ数日で散ってしまった桜の花びらが敷き詰められ,まるでピンク色のカーペットのようだった。
ルミニタはこの村に来たばかりの頃を思い出した。この国の料理や風土に馴染めず,兄妹三人はいつも元気が無かった。見かねたヘステルが三人を連れだし,桜の木の下で一緒にお弁当を食べたものだった。
ヘステルは,ルミニタ達の出身地遺物の国の料理を再現すべく,ゆでたジャガイモや酢漬けのキャベツをだしてくれたこともあった。料理の見た目がそっくりで,クララは特に喜んで食べた。しかしいざ食べてみると味が全然違ったので,彼女は眉を寄せて複雑な顔をした。ヘステルはそれを見て「お腹に入ればどうせ何も変わらないんだから,一緒一緒!」と笑っていた。
果たしてこの家でやっていけるのだろうか?ルミニタはそんな不安を感じていたのを覚えている。
だが何日か後,ヘステルが再チャレンジした遺物の国料理は,前よりももっと美味しかった。
彼らはこうやって,少しずつ四人家族の形を作ってきたのだった。
ルミニタは自宅の庭先までやってきた。ラベンダーやローズマリーの香りがした。ヘステルが育てているハーブ園だった。雑草はきちんと抜かれ,丁寧に選剪定されていた。普段はいい加減なのに,こういう所はしっかりしているのが,ルミニタの知っているヘステルだった。
ドアを開けると,板の上部に着けてあったベルがくぐもった音を鳴らした。少し前からベルの立て付けが悪くなり,前のように良い音が鳴らなくなっていた。リベルが居てくれるうちに,修理をお願いしなくちゃいけない,ルミニタはそんなことを思い出した。
「おかえり!お昼の準備を終わらせちゃうから,ルミニタも手伝うんだよ!まったく,クララはまた逃げ出しちゃったよ!」
ヘステルは大きな体を揺らしながらフライパンを木製のお玉で軽く叩いた。
ルミニタにふと疑問が沸いた。
(あれ?私,ヘステルに,ランディニウムへ行こうとしていること……ホシワタリの試験を受けること……ちゃんとお話ししたっけ?)
しかしルミニタは,なぜかこのまままっすぐに自宅へ向かう気にならなかった。道の真ん中で止まって方向転換すると,彼女のブラウンの三つ編みが弧を描いた。そのままルミニタは川沿いへ向かった。
オルダーウィックの昼下がり,川沿いの道はいつものように賑やかだった。
絵描きのサディアスは,花壇の花に向かってキャンバスを構えていた。桜がほとんど散ってしまったためだろう。彼の視線の先では,繊細な白さを持つ木蓮が大きな花を咲かせ,紫のチューリップが風に揺れていた。
子どもたちは川には入らず,その周囲を駆け回っていた。微笑ましい光景にルミニタは思わず笑顔になった。ふと顔を上げると,川の主であるマーラが,子どもたちに目を光らせていた……。
ルミニタは,通りすがりのフェントン夫妻に会釈をして歩みを進めた。もし自分も誰か素敵なパートナーを見つけたら,彼らのようにいつまでも夫婦仲良くしていたい,ルミニタはいつもそう思っていた。
(素敵なパートナー……)
ルミニタの空想の中に,一人の男性の姿が現れた。急に恥ずかしくなって,ルミニタは早足で歩き出した。
川沿いを進みやがて桜が並ぶ通りへ差し掛かった。地面の上には,ここ数日で散ってしまった桜の花びらが敷き詰められ,まるでピンク色のカーペットのようだった。
ルミニタはこの村に来たばかりの頃を思い出した。この国の料理や風土に馴染めず,兄妹三人はいつも元気が無かった。見かねたヘステルが三人を連れだし,桜の木の下で一緒にお弁当を食べたものだった。
ヘステルは,ルミニタ達の出身地遺物の国の料理を再現すべく,ゆでたジャガイモや酢漬けのキャベツをだしてくれたこともあった。料理の見た目がそっくりで,クララは特に喜んで食べた。しかしいざ食べてみると味が全然違ったので,彼女は眉を寄せて複雑な顔をした。ヘステルはそれを見て「お腹に入ればどうせ何も変わらないんだから,一緒一緒!」と笑っていた。
果たしてこの家でやっていけるのだろうか?ルミニタはそんな不安を感じていたのを覚えている。
だが何日か後,ヘステルが再チャレンジした遺物の国料理は,前よりももっと美味しかった。
彼らはこうやって,少しずつ四人家族の形を作ってきたのだった。
ルミニタは自宅の庭先までやってきた。ラベンダーやローズマリーの香りがした。ヘステルが育てているハーブ園だった。雑草はきちんと抜かれ,丁寧に選剪定されていた。普段はいい加減なのに,こういう所はしっかりしているのが,ルミニタの知っているヘステルだった。
ドアを開けると,板の上部に着けてあったベルがくぐもった音を鳴らした。少し前からベルの立て付けが悪くなり,前のように良い音が鳴らなくなっていた。リベルが居てくれるうちに,修理をお願いしなくちゃいけない,ルミニタはそんなことを思い出した。
「おかえり!お昼の準備を終わらせちゃうから,ルミニタも手伝うんだよ!まったく,クララはまた逃げ出しちゃったよ!」
ヘステルは大きな体を揺らしながらフライパンを木製のお玉で軽く叩いた。
ルミニタにふと疑問が沸いた。
(あれ?私,ヘステルに,ランディニウムへ行こうとしていること……ホシワタリの試験を受けること……ちゃんとお話ししたっけ?)
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
約束の子
月夜野 すみれ
ファンタジー
幼い頃から特別扱いをされていた神官の少年カイル。
カイルが上級神官になったとき、神の化身と言われていた少女ミラが上級神官として同じ神殿にやってきた。
真面目な性格のカイルとわがままなミラは反発しあう。
しかしミラとカイルは「約束の子」、「破壊神の使い」などと呼ばれ命を狙われていたと知る事になる。
攻撃魔法が一切使えないカイルと強力な魔法が使える代わりにバリエーションが少ないミラが「約束の子」/「破壊神の使い」が施行するとされる「契約」を阻む事になる。
カタカナの名前が沢山出てきますが主人公二人の名前以外は覚えなくていいです(特に人名は途中で入れ替わったりしますので)。
名無しだと混乱するから名前が付いてるだけで1度しか出てこない名前も多いので覚える必要はありません。
カクヨム、小説家になろう、ノベマにも同じものを投稿しています。

秋月の鬼
凪子
ファンタジー
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。
あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。
だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。
ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。
オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。
そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。
【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。
よければ参考にしてください。
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる