ホシワタリのあなたへ

Kotoh

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1-7: 星の夜の告白(Magianicus)

1.家族の形(1)

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サイラスとの話が終わり,「小鳥の泊まり場」を出たルミニタは家へ向かった。ヘステルの力を借りなくてはならない書類がたくさんあった。

しかしルミニタは,なぜかこのまままっすぐに自宅へ向かう気にならなかった。道の真ん中で止まって方向転換すると,彼女のブラウンの三つ編みが弧を描いた。そのままルミニタは川沿いへ向かった。

オルダーウィックの昼下がり,川沿いの道はいつものように賑やかだった。

絵描きのサディアスは,花壇の花に向かってキャンバスを構えていた。桜がほとんど散ってしまったためだろう。彼の視線の先では,繊細な白さを持つ木蓮が大きな花を咲かせ,紫のチューリップが風に揺れていた。

子どもたちは川には入らず,その周囲を駆け回っていた。微笑ましい光景にルミニタは思わず笑顔になった。ふと顔を上げると,川の主であるマーラが,子どもたちに目を光らせていた……。

ルミニタは,通りすがりのフェントン夫妻に会釈をして歩みを進めた。もし自分も誰か素敵なパートナーを見つけたら,彼らのようにいつまでも夫婦仲良くしていたい,ルミニタはいつもそう思っていた。

(素敵なパートナー……)

ルミニタの空想の中に,一人の男性の姿が現れた。急に恥ずかしくなって,ルミニタは早足で歩き出した。

川沿いを進みやがて桜が並ぶ通りへ差し掛かった。地面の上には,ここ数日で散ってしまった桜の花びらが敷き詰められ,まるでピンク色のカーペットのようだった。

ルミニタはこの村に来たばかりの頃を思い出した。この国の料理や風土に馴染めず,兄妹三人はいつも元気が無かった。見かねたヘステルが三人を連れだし,桜の木の下で一緒にお弁当を食べたものだった。

ヘステルは,ルミニタ達の出身地遺物の国サブスタニアの料理を再現すべく,ゆでたジャガイモや酢漬けのキャベツをだしてくれたこともあった。料理の見た目がそっくりで,クララは特に喜んで食べた。しかしいざ食べてみると味が全然違ったので,彼女は眉を寄せて複雑な顔をした。ヘステルはそれを見て「お腹に入ればどうせ何も変わらないんだから,一緒一緒!」と笑っていた。

果たしてこの家でやっていけるのだろうか?ルミニタはそんな不安を感じていたのを覚えている。
だが何日か後,ヘステルが再チャレンジした遺物の国料理は,前よりももっと美味しかった。

彼らはこうやって,少しずつ四人家族の形を作ってきたのだった。

ルミニタは自宅の庭先までやってきた。ラベンダーやローズマリーの香りがした。ヘステルが育てているハーブ園だった。雑草はきちんと抜かれ,丁寧に選剪定されていた。普段はいい加減なのに,こういう所はしっかりしているのが,ルミニタの知っているヘステルだった。

ドアを開けると,板の上部に着けてあったベルがくぐもった音を鳴らした。少し前からベルの立て付けが悪くなり,前のように良い音が鳴らなくなっていた。リベルが居てくれるうちに,修理をお願いしなくちゃいけない,ルミニタはそんなことを思い出した。

「おかえり!お昼の準備を終わらせちゃうから,ルミニタも手伝うんだよ!まったく,クララはまた逃げ出しちゃったよ!」
ヘステルは大きな体を揺らしながらフライパンを木製のお玉で軽く叩いた。

ルミニタにふと疑問が沸いた。

(あれ?私,ヘステルに,ランディニウムへ行こうとしていること……ホシワタリの試験を受けること……ちゃんとお話ししたっけ?)
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