19 / 37
1-6: 伝い手(Contezio)
1. 流星の日の夜
しおりを挟む
その日、リベルとルミニタは二人で連れ立ってオルダーウィックを散歩していた。川沿いに近づくと、虫の鳴き声と水の流れる音が少しずつ大きくなっていく。夕食を終え、辺りはすっかり暗くなっていた。
「昨日より少しだけ日が長かった気がするね」
ルミニタが夜空を見上げて歩きながら言った。
「あと2週間もすれば繁緑の月だからね」
リベルはその少し後ろを歩きながら答えた。
この時間になると通りに人の出はほとんどない。静かな中、夕食を終えたであろう家庭から、食器を片付ける音が聞こえた。ほとんど散りかけた桜の花びらが、時折空を泳いでいた。
二人はそのまま丘の上まで歩いた。以前、ルミニタと師匠が精霊術の訓練をしていた場所だった。
「きっとこの場所が、一番綺麗に見えるよ。一人の時、こうやって夜ここに来ていたからね」
ルミニタはそう言って、柔らかいスカートが皺にならないよう伸ばし、芝生に座った。
「どれくらい経ったら流星が見えるのかな?」ルミニタがわくわくしたように言った。
「どうだろう……そういえば彼は、日にちと、夜ということしか言っていなかった。学者だと言うからにはそういう所は正確にして欲しいね」
リベルが、ポケットから取り出した懐中時計を眺めながら言った。
「リベルはサイラスさんのこと嫌いなの?」
「そういう訳じゃないけど。まあ、学者と言うだけあって、そこそこ勉強はしているようだしね」
「珍しいね」ルミニタは口に手を当てて笑った。手に着いていた草が自然に落ち、夜風に吹かれてどこかへ舞っていった。
その風に釣られて、ルミニタは丘の上から村を見下ろした。暗闇の中、無数の家から漏れる、光だけが明るくかった。住人の動きで遮られるのか、その灯りが時々揺れている。それを見ると、こんな暗い夜の中でも、確かに人が生きていて、世界が動いていることを感じさせる。小さな時からルミニタが見てきた光景だった。
「この光景もしばらく見られないのかな」
ルミニタは自分の膝を抱えて呟いた。
明後日、二人はオルダーウィックを出る。平野の国の首都、ランディニウムへ行き、ホシワタリの訓練生として、学校に通うことになっていた。
ルミニタは見下ろした村の中から、オルダーウィック唯一の宿、「小鳥の泊まり場」を見つけた。その窓から漏れる灯りを物憂げに眺めながら、あの日の事を思い返した。
「昨日より少しだけ日が長かった気がするね」
ルミニタが夜空を見上げて歩きながら言った。
「あと2週間もすれば繁緑の月だからね」
リベルはその少し後ろを歩きながら答えた。
この時間になると通りに人の出はほとんどない。静かな中、夕食を終えたであろう家庭から、食器を片付ける音が聞こえた。ほとんど散りかけた桜の花びらが、時折空を泳いでいた。
二人はそのまま丘の上まで歩いた。以前、ルミニタと師匠が精霊術の訓練をしていた場所だった。
「きっとこの場所が、一番綺麗に見えるよ。一人の時、こうやって夜ここに来ていたからね」
ルミニタはそう言って、柔らかいスカートが皺にならないよう伸ばし、芝生に座った。
「どれくらい経ったら流星が見えるのかな?」ルミニタがわくわくしたように言った。
「どうだろう……そういえば彼は、日にちと、夜ということしか言っていなかった。学者だと言うからにはそういう所は正確にして欲しいね」
リベルが、ポケットから取り出した懐中時計を眺めながら言った。
「リベルはサイラスさんのこと嫌いなの?」
「そういう訳じゃないけど。まあ、学者と言うだけあって、そこそこ勉強はしているようだしね」
「珍しいね」ルミニタは口に手を当てて笑った。手に着いていた草が自然に落ち、夜風に吹かれてどこかへ舞っていった。
その風に釣られて、ルミニタは丘の上から村を見下ろした。暗闇の中、無数の家から漏れる、光だけが明るくかった。住人の動きで遮られるのか、その灯りが時々揺れている。それを見ると、こんな暗い夜の中でも、確かに人が生きていて、世界が動いていることを感じさせる。小さな時からルミニタが見てきた光景だった。
「この光景もしばらく見られないのかな」
ルミニタは自分の膝を抱えて呟いた。
明後日、二人はオルダーウィックを出る。平野の国の首都、ランディニウムへ行き、ホシワタリの訓練生として、学校に通うことになっていた。
ルミニタは見下ろした村の中から、オルダーウィック唯一の宿、「小鳥の泊まり場」を見つけた。その窓から漏れる灯りを物憂げに眺めながら、あの日の事を思い返した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
約束の子
月夜野 すみれ
ファンタジー
幼い頃から特別扱いをされていた神官の少年カイル。
カイルが上級神官になったとき、神の化身と言われていた少女ミラが上級神官として同じ神殿にやってきた。
真面目な性格のカイルとわがままなミラは反発しあう。
しかしミラとカイルは「約束の子」、「破壊神の使い」などと呼ばれ命を狙われていたと知る事になる。
攻撃魔法が一切使えないカイルと強力な魔法が使える代わりにバリエーションが少ないミラが「約束の子」/「破壊神の使い」が施行するとされる「契約」を阻む事になる。
カタカナの名前が沢山出てきますが主人公二人の名前以外は覚えなくていいです(特に人名は途中で入れ替わったりしますので)。
名無しだと混乱するから名前が付いてるだけで1度しか出てこない名前も多いので覚える必要はありません。
カクヨム、小説家になろう、ノベマにも同じものを投稿しています。

秋月の鬼
凪子
ファンタジー
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる