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1-5: サイラス・ヴァロ(Report)
4. 想い
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ルミニタは助けを求めるように振り返った。
リベルの考えを知りたいという気持ちと、知らずに終わらせてしまいたいという気持ちが葛藤した。
もしも彼まで、本当はルミニタを信じていなかったとしたら?
優しいリベルは、ただルミニタのわがままに付き合っていただけであって、こんな荒唐無稽な話が通じる訳無いと、最初から思っていたのだとしたら……。
さきほどまでとは違う、もっと深く恐ろしい気持ちが、ルミニタの心を掴んだ。
指先が冷たくなって、視界がどんどん狭くなっていくようだった。
目を瞑ってしまいそうになる恐怖に必死に抵抗し、ルミニタは瞼を上げた。
ルミニタの視線に気が付いたリベルが、静かに微笑んでいた。
そして、先ほどのサイラスの質問に回答した。
「彼女、ルミニタが言ったことが全ての真実です。証拠が必要というなら、私たちでもう一度調べに行きます」
その瞬間ルミニタは、狭まっていた視界が広がって、体の先まで感覚が戻って行くような、暖かさを感じた。
まるで遠ざかっていた世界が帰ってくるような感覚だった。
リベルは二人で積み上げたものを信じてくれている。
ルミニタは、崩れかけた気持ちが立て直っていくのを感じた。
子どもの頃の辛い日々、なぜそこでも笑って暮らせていたのか。それはリベルやクララが一緒だったからだ。
ルミニタは森で見た精霊達のことをもう一度思い出した。大小の精霊達が、震えながら寄り添って、手を繋いでいた。その姿は子どもの頃の自分たち兄妹と同じだった。
そう思うと、力が沸いてくるように思えた。できるところまでやってみよう。
ルミニタは心を決めた。
「あの子達は、森の四季の精霊さんたちは、私たちに助けを求めていました。最初は震えて……きっと怖かったんだと思います。子どものような精霊も居ました。親子かもしれませんし、同郷の仲間かもしれません。私たちは確かに精霊と上手く交信できたことはありません。……でも、家族や仲間を守ろうとする気持ちはきっと同じです。できることはしてあげたい。セロン長老、国へ正式に調査を依頼したいです!そうでなければ私たちが森をもう一度調査します!」
ルミニタの言葉に、セロンは「ふむ」と顎を撫でた。
「分からないな、何故そこまで拘る?」
サイラスはあくまで冷静だった。ルミニタは彼へ向き直り答えた。
「私たちは小さな頃、兄と妹と共に、遺物の国からこの国に連れられてきました。孤児の保護のためでした。しかし、50年前の戦争を引き起こした遺物の国の出身者であること、精霊術が使えないこと、様々な理由から、私たちの引取先は見つかりませんでした。この国には邪魔な存在として扱われてきました。そんな時、私たちを助けてくれた人がいます。この村に引き取り先を見つけてくれたのもその人です」
「それまで私は、自分たちがそんな風に扱われても仕方が無いことだと思っていました。だって遺物の国人だし、精霊も見えないし……。辛い思いをするのは、私自身、私の運命なんだ。私の魂みたいなものに、欠陥があるからだと思っていました。でも、その人はそうじゃないと言います。大事なのは、私たちが世界をどう見るかだ、その人はそう言いました。魂や運命なんてものに自分を預けて楽をしてはいけない、誰かと分かち合えるものを大切にして、歩み寄るんだ、って……。私には少し難しかったし、うまくいえないけど、きっと、正しい知識と心を持って物事をみることが大事なんだと思っています。彼女はホシワタリであると言っていました」
ルミニタは話しながら、自分の心の重荷が楽になるのを感じた。
「私は彼女のような人間になりたいと思っています。だから、私たちが聞いた精霊さんたちの言葉と気持ちを、伝える努力をすべきだと考えています」
「君たちはホシワタリになりたいのか?」
「はい」
少しの沈黙があった。言うべき事を全部言えたのか、ルミニタが迷っていると、突然笑い声が聞こえた。サイラスだった。師匠はぎょっとしてサイラスを睨んだ。
ひとしきり笑い終わると、サイラスは口元を緩ませ、小さく「若いな」と呟いた。咳払いをしてから話し始めた。
「いや、失礼。脅かし過ぎたね。あらためて自己紹介をさせてほしい。私の名前はサイラス・ヴァロ。首都ランディニウムから派遣された、精霊現象専門の調査官兼学者だ」
リベルの考えを知りたいという気持ちと、知らずに終わらせてしまいたいという気持ちが葛藤した。
もしも彼まで、本当はルミニタを信じていなかったとしたら?
優しいリベルは、ただルミニタのわがままに付き合っていただけであって、こんな荒唐無稽な話が通じる訳無いと、最初から思っていたのだとしたら……。
さきほどまでとは違う、もっと深く恐ろしい気持ちが、ルミニタの心を掴んだ。
指先が冷たくなって、視界がどんどん狭くなっていくようだった。
目を瞑ってしまいそうになる恐怖に必死に抵抗し、ルミニタは瞼を上げた。
ルミニタの視線に気が付いたリベルが、静かに微笑んでいた。
そして、先ほどのサイラスの質問に回答した。
「彼女、ルミニタが言ったことが全ての真実です。証拠が必要というなら、私たちでもう一度調べに行きます」
その瞬間ルミニタは、狭まっていた視界が広がって、体の先まで感覚が戻って行くような、暖かさを感じた。
まるで遠ざかっていた世界が帰ってくるような感覚だった。
リベルは二人で積み上げたものを信じてくれている。
ルミニタは、崩れかけた気持ちが立て直っていくのを感じた。
子どもの頃の辛い日々、なぜそこでも笑って暮らせていたのか。それはリベルやクララが一緒だったからだ。
ルミニタは森で見た精霊達のことをもう一度思い出した。大小の精霊達が、震えながら寄り添って、手を繋いでいた。その姿は子どもの頃の自分たち兄妹と同じだった。
そう思うと、力が沸いてくるように思えた。できるところまでやってみよう。
ルミニタは心を決めた。
「あの子達は、森の四季の精霊さんたちは、私たちに助けを求めていました。最初は震えて……きっと怖かったんだと思います。子どものような精霊も居ました。親子かもしれませんし、同郷の仲間かもしれません。私たちは確かに精霊と上手く交信できたことはありません。……でも、家族や仲間を守ろうとする気持ちはきっと同じです。できることはしてあげたい。セロン長老、国へ正式に調査を依頼したいです!そうでなければ私たちが森をもう一度調査します!」
ルミニタの言葉に、セロンは「ふむ」と顎を撫でた。
「分からないな、何故そこまで拘る?」
サイラスはあくまで冷静だった。ルミニタは彼へ向き直り答えた。
「私たちは小さな頃、兄と妹と共に、遺物の国からこの国に連れられてきました。孤児の保護のためでした。しかし、50年前の戦争を引き起こした遺物の国の出身者であること、精霊術が使えないこと、様々な理由から、私たちの引取先は見つかりませんでした。この国には邪魔な存在として扱われてきました。そんな時、私たちを助けてくれた人がいます。この村に引き取り先を見つけてくれたのもその人です」
「それまで私は、自分たちがそんな風に扱われても仕方が無いことだと思っていました。だって遺物の国人だし、精霊も見えないし……。辛い思いをするのは、私自身、私の運命なんだ。私の魂みたいなものに、欠陥があるからだと思っていました。でも、その人はそうじゃないと言います。大事なのは、私たちが世界をどう見るかだ、その人はそう言いました。魂や運命なんてものに自分を預けて楽をしてはいけない、誰かと分かち合えるものを大切にして、歩み寄るんだ、って……。私には少し難しかったし、うまくいえないけど、きっと、正しい知識と心を持って物事をみることが大事なんだと思っています。彼女はホシワタリであると言っていました」
ルミニタは話しながら、自分の心の重荷が楽になるのを感じた。
「私は彼女のような人間になりたいと思っています。だから、私たちが聞いた精霊さんたちの言葉と気持ちを、伝える努力をすべきだと考えています」
「君たちはホシワタリになりたいのか?」
「はい」
少しの沈黙があった。言うべき事を全部言えたのか、ルミニタが迷っていると、突然笑い声が聞こえた。サイラスだった。師匠はぎょっとしてサイラスを睨んだ。
ひとしきり笑い終わると、サイラスは口元を緩ませ、小さく「若いな」と呟いた。咳払いをしてから話し始めた。
「いや、失礼。脅かし過ぎたね。あらためて自己紹介をさせてほしい。私の名前はサイラス・ヴァロ。首都ランディニウムから派遣された、精霊現象専門の調査官兼学者だ」
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