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1-5: サイラス・ヴァロ(Report)
3. 迷い
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ルミニタは不意に、自分たちがまだ小さかった頃のことを思い出した。施設で他の子どもたちと一緒に暮らして居たときのことだ。
あの頃、精霊を見える他の子達は、日々新しいことを発見し、自分たちの感じる未知の世界について目を輝かせていた。
野山に行けば珍しい植物や虫と出会い、雨でぬかるんだ崖や深い川は少し見て避けることができた。
畑に行けば元気な野菜とそうでないものをすぐに判別できた。
馬ともすぐに仲良くなり、少しの訓練で大人のように乗馬できるようになる者もいた。
座学ではその日見た新しい精霊や現象について話し合い、日々成長していく自分たちの力について楽しそうに議論していた。
だがルミニタとクララは別だった。
ルミニタは最初、精霊を見えないことを周囲に打ち明けられなかった。妹のクララがいじめられるかも知れない、そう考えたからだった。
ルミニタは周囲に話を合わせようとして過ごした。昼間は周りの顔色ばかりを伺って、夜は疲れてすぐに寝てしまった。目が覚めると憂鬱だった。また一日、嘘をついて過ごさなければいけないのかと思うと、朝が怖くなった。
そんな時に声をかけてくれたのはリベルだった。
リベルは、自分も精霊が見えないということを打ち明けてくれた。そして、お世話係の大人に三人の現状を話してくれた。そうしなければ、ルミニタはもっと多くの時間、一人で悩んでいたことだろう。
三人が精霊を見られないことは、すぐに周囲へ伝わった。
無理からぬことだろう。彼らは、山へ行けばいちいち地図を見て周囲を観察し、危険な生き物が居ないか、その先に道があるのか確かめながらでないと、先に進めなかった。
美味しい食べ物かどうかは自分で食べたり試したりする必要があった。
馬の気持ちが分からずに後ろから近づき、足で蹴られそうになったこともあった。
他の子は笑っていたが、彼らは必死だった。
ルミニタたちは、傷付いたり怪我をしたり、他の子の倍の時間をかけて生活を学んで行く必要があった。やればやるほど周りから置いて行かれるような気持ちになって、ルミニタは夜のベッド中で静かに泣いた。クララの前では涙を見せないようにしていた。不安にさせるかもしれないと考えたからだった。
幼い頃の思い出は、彼女の心を揺らした。ルミニタは急に、自分たちのやっていることが取るに足らない事に思えてきた。周りよりも劣る自分の程度の存在が、一体何をやっているのだろうか。
偶然森で精霊に接触できたことに興奮して、彼らを救えるのは自分たちだけなのではないかと、思いこんでいた。物語の中の主人公のように、自分にも何かを果たせるのではないかと……。
だがサイラスの言うとおりで、客観的な根拠は何も無かった。そもそも精霊達が助けを求めているというのも、本当のことなのだろうか?こんなにはっきりした精霊との交信は初めてだった。経験の無い出来事に対して、自分の思い込みを一方的に投影させていただけではないのか?自分たちなりに理屈を組み立ててみたが、大人から見ればこれはただの真似事なのだろう。
ルミニタの頭の中に、不安な思考が次々と浮かび上がった。さっきまで整然と報告していた自分が、まるで遠い昔の別人のように感じられた。恥ずかしさや不安が入り交じり、顔が熱くなってくるのが分かった。
すぐにでも話を切り上げて、急いでこの場を離れよう、ルミニタはそう思った。少なくとも、精霊たちがいるであろうことだけは大人に伝えたのだ。サイラスの言うとおり、これで二人の役目は終わりだ。自分たちは所詮は脇役であって、これ以上周りの人達を困らせる前に、舞台から降りるべきだ……。
不安定なルミニタの心の中に、ふと一人の人物の顔が現れた。
優しい笑顔の大切な人。
(リベルは……どう考えているのだろうか?)
あの頃、精霊を見える他の子達は、日々新しいことを発見し、自分たちの感じる未知の世界について目を輝かせていた。
野山に行けば珍しい植物や虫と出会い、雨でぬかるんだ崖や深い川は少し見て避けることができた。
畑に行けば元気な野菜とそうでないものをすぐに判別できた。
馬ともすぐに仲良くなり、少しの訓練で大人のように乗馬できるようになる者もいた。
座学ではその日見た新しい精霊や現象について話し合い、日々成長していく自分たちの力について楽しそうに議論していた。
だがルミニタとクララは別だった。
ルミニタは最初、精霊を見えないことを周囲に打ち明けられなかった。妹のクララがいじめられるかも知れない、そう考えたからだった。
ルミニタは周囲に話を合わせようとして過ごした。昼間は周りの顔色ばかりを伺って、夜は疲れてすぐに寝てしまった。目が覚めると憂鬱だった。また一日、嘘をついて過ごさなければいけないのかと思うと、朝が怖くなった。
そんな時に声をかけてくれたのはリベルだった。
リベルは、自分も精霊が見えないということを打ち明けてくれた。そして、お世話係の大人に三人の現状を話してくれた。そうしなければ、ルミニタはもっと多くの時間、一人で悩んでいたことだろう。
三人が精霊を見られないことは、すぐに周囲へ伝わった。
無理からぬことだろう。彼らは、山へ行けばいちいち地図を見て周囲を観察し、危険な生き物が居ないか、その先に道があるのか確かめながらでないと、先に進めなかった。
美味しい食べ物かどうかは自分で食べたり試したりする必要があった。
馬の気持ちが分からずに後ろから近づき、足で蹴られそうになったこともあった。
他の子は笑っていたが、彼らは必死だった。
ルミニタたちは、傷付いたり怪我をしたり、他の子の倍の時間をかけて生活を学んで行く必要があった。やればやるほど周りから置いて行かれるような気持ちになって、ルミニタは夜のベッド中で静かに泣いた。クララの前では涙を見せないようにしていた。不安にさせるかもしれないと考えたからだった。
幼い頃の思い出は、彼女の心を揺らした。ルミニタは急に、自分たちのやっていることが取るに足らない事に思えてきた。周りよりも劣る自分の程度の存在が、一体何をやっているのだろうか。
偶然森で精霊に接触できたことに興奮して、彼らを救えるのは自分たちだけなのではないかと、思いこんでいた。物語の中の主人公のように、自分にも何かを果たせるのではないかと……。
だがサイラスの言うとおりで、客観的な根拠は何も無かった。そもそも精霊達が助けを求めているというのも、本当のことなのだろうか?こんなにはっきりした精霊との交信は初めてだった。経験の無い出来事に対して、自分の思い込みを一方的に投影させていただけではないのか?自分たちなりに理屈を組み立ててみたが、大人から見ればこれはただの真似事なのだろう。
ルミニタの頭の中に、不安な思考が次々と浮かび上がった。さっきまで整然と報告していた自分が、まるで遠い昔の別人のように感じられた。恥ずかしさや不安が入り交じり、顔が熱くなってくるのが分かった。
すぐにでも話を切り上げて、急いでこの場を離れよう、ルミニタはそう思った。少なくとも、精霊たちがいるであろうことだけは大人に伝えたのだ。サイラスの言うとおり、これで二人の役目は終わりだ。自分たちは所詮は脇役であって、これ以上周りの人達を困らせる前に、舞台から降りるべきだ……。
不安定なルミニタの心の中に、ふと一人の人物の顔が現れた。
優しい笑顔の大切な人。
(リベルは……どう考えているのだろうか?)
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