ホシワタリのあなたへ

Kotoh

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1-5: サイラス・ヴァロ(Report)

1. 進言

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「四つ葉遺跡についても調べました」
ルミニタの言葉をリベルが引き継いだ。
「生活品や副葬品の出土記録が無いため、住居や墓地では無いでしょう。装飾の細かさや部屋の造りから、宗教施設が妥当だと考えます。四つの部屋と四種の外見の精霊、そして"四つ葉遺跡"という名称、四という数字におけるこの関連性は見逃すべきではありません」

「つまり四季の祭事場だったと?」サイラスは試すような口調で尋ねた。

「学院の図書館で周辺の郷土史を調べたことがあります。過去に何度か、森林の減少による木材の不足や生態系の変化があったとの記録がありました。理由は火災や土壌汚染等、様々でしたが。察するにこの地は、気候や環境の変化を受けやすく、古来より生活環境の変化が起きやすい土地だったのではないでしょうか」

「なるほどな、それでこの土地の人々は四季の循環が好調であることを祈るようになったと。過去に四つ葉遺跡が作られた背景になったと言いたいわけか」
師匠の助け船にリベルは頷いた。

「今回現れた謎の精霊たちは、森に変化が起きた際に精霊の警告が現れるよう、過去の偉大な精霊術士が術をかけた可能性もあります」

「この子達は私に『土が流れる』、『寒い』と言っていました。これはきっと言葉通りの意味です。遺跡の周辺の森のどこかで、土が失われているのではないでしょうか」ルミニタが続けた。

「原因とは」

「例えば伐採です。木材の獲得のために大量の伐採を行えば、土壌の露出が起こります」
「伐採により土壌が露出し、雨季に浸食され表土が流出する。それが秋期の植物の成長の遅れに繋がり、冬眠機の動物の食料不足へと至る。土壌汚染の一般的なシナリオではあるが」サイラスはあくまで論理的に議論に参加した。

それまで沈黙して話を聞いていたセロン長老が、ゆっくりと口を開いた。
「過剰な伐採は如何なる理由からと考える? 確かにこの冬は寒かったが、周辺の住人が薪を採った程度で土壌の露出は起こるまい」

「オルダウィックの人口規模を考えても、生活資源としての伐採ではとても及びません。だとすれば外部による影響しかありません。ここで私が思い出すのは、遺跡の森周辺で目撃されたという集団です。……つまり違法伐採が行われている可能性です。50年前の戦争以降、平野の国プラトーの各地では戦後復興のため大量の資材が消費されました。特に首都ランディニウムでは急速に復興が進み建物や公共施設の建築が進んでいます。こうした需要に乗じ、無許可で伐採を進める違法集団がいるのでは? 首都へ報告し、調査隊を派遣していただくことを進言します」
リベルの説明が終わると、ルミニタは呼吸を整えできるだけ冷静に結論づけた。

「以上が私たちの報告です」
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