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1-4: 現れ(phenomenon)
2. 必要なもの
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辺りの冷気は更に強まり、次第に指先が震え始めた。リベルは残された時間が少ないことを自覚した。
「リベル、ありがとう。もう一度だけ、私やってみるよ」
ルミニタはリュックを下ろして香炉や道具を取り出そうとしたが、リベルはその手を止めた。そしてルミニタを抱き寄せ、毛布でくるんだ。同時にこれまで師匠や学院から教わった知識を高速で振り返った。精霊術、特に受信能力が苦手な者は少なくはない。そうした彼らは、外部の力を借りてその弱点を補う。重要なのは道具、場所、精神……。どれも時間と準備を必要とする。
凍えるような空気の中、リベルの脳裏には師匠の言葉と、先ほどのルミニタの言葉が蘇った。「今だからじゃないの?」。発想の逆転。弱点を補うのではなく、ルミニタの力を信じるのだとしたら。
「ルミニタ、道具はやめよう。気持ちだ。ルミニタの心。精霊に対する思い、ルミニタがどう感じているか」
「私の気持ち……」
「精霊の存在を知って、この国に来て、それらとルミニタがどのような関係を築きたいか。それをイメージして、語りかけるんだ」
リベルはオルダーウィックで見かけた老婆マーラやフェントン夫妻を思い返した。川を綺麗にすること、社へ毎日礼拝すること、彼らが持っている感情、それは"敬意"だ。敬意を持つことで"可能になる"のではないか? 人類は精霊術を失いかけた。二つの大きな戦争によって。精霊を破壊へ利用したため。精霊は人間を憎み、呪ったのだろう。そうだ、現に僕たちは竜巻で切り裂かれそうになったり、森の中で凍死させられそうになっているじゃないか。精霊と人間との関係は新たに時代に入ったという。その通りだろう。これは戦いなのだ。人間と精霊、利用するものと利用されるものの! 見せかけでもよい、精霊へ敬意を見せることで、人類は"可能になる"のだ。精霊を"道具として"より上手く支配"することが!
「リベル、私ね」
ルミニタの言葉でリベルは我に返った。
「私ね、精霊と友達になってみたい。友達になって、皆で一緒に歌を歌ったり、絵を描いたり、おしゃべりをしたり……。春の桜の木の下で、ヘステルと作ったお弁当を食べて、クララはお絵かきをいつまでも止めなくて、リベルは本を読みながらうたた寝をしている。流れる風の声を聞いて、花びらの舞いに目を奪われるの。そして、旅に出る。世界の美しい光景と、人の優しさにたくさん触れるの。その思い出を、皆とお話するの。そうすれば」
ルミニタはリベルの頬に手を触れた。そのまま冷たくなった指で、リベルの頬を左右に伸ばした。
「そうすればリベルも、こんな怖い顔をしないで、もっと一緒に笑っていられるでしょ?」
ルミニタはリベルの眼を見つめて微笑んで見せた。冬の夜空に咲き落ちる花のような、美しい笑顔だと、リベルはそう思った。それは水に落とされた水彩の絵の具のように拡散した。彼女の優しさによって,自身の暗く後ろめたい気持ちが、暖かい色で塗り替えられていくように感じた。
ルミニタは目を閉じて何かを歌い始めた。くじら歌、孤児院にいた頃からルミニタが歌っていた歌。
「リベル、ありがとう。もう一度だけ、私やってみるよ」
ルミニタはリュックを下ろして香炉や道具を取り出そうとしたが、リベルはその手を止めた。そしてルミニタを抱き寄せ、毛布でくるんだ。同時にこれまで師匠や学院から教わった知識を高速で振り返った。精霊術、特に受信能力が苦手な者は少なくはない。そうした彼らは、外部の力を借りてその弱点を補う。重要なのは道具、場所、精神……。どれも時間と準備を必要とする。
凍えるような空気の中、リベルの脳裏には師匠の言葉と、先ほどのルミニタの言葉が蘇った。「今だからじゃないの?」。発想の逆転。弱点を補うのではなく、ルミニタの力を信じるのだとしたら。
「ルミニタ、道具はやめよう。気持ちだ。ルミニタの心。精霊に対する思い、ルミニタがどう感じているか」
「私の気持ち……」
「精霊の存在を知って、この国に来て、それらとルミニタがどのような関係を築きたいか。それをイメージして、語りかけるんだ」
リベルはオルダーウィックで見かけた老婆マーラやフェントン夫妻を思い返した。川を綺麗にすること、社へ毎日礼拝すること、彼らが持っている感情、それは"敬意"だ。敬意を持つことで"可能になる"のではないか? 人類は精霊術を失いかけた。二つの大きな戦争によって。精霊を破壊へ利用したため。精霊は人間を憎み、呪ったのだろう。そうだ、現に僕たちは竜巻で切り裂かれそうになったり、森の中で凍死させられそうになっているじゃないか。精霊と人間との関係は新たに時代に入ったという。その通りだろう。これは戦いなのだ。人間と精霊、利用するものと利用されるものの! 見せかけでもよい、精霊へ敬意を見せることで、人類は"可能になる"のだ。精霊を"道具として"より上手く支配"することが!
「リベル、私ね」
ルミニタの言葉でリベルは我に返った。
「私ね、精霊と友達になってみたい。友達になって、皆で一緒に歌を歌ったり、絵を描いたり、おしゃべりをしたり……。春の桜の木の下で、ヘステルと作ったお弁当を食べて、クララはお絵かきをいつまでも止めなくて、リベルは本を読みながらうたた寝をしている。流れる風の声を聞いて、花びらの舞いに目を奪われるの。そして、旅に出る。世界の美しい光景と、人の優しさにたくさん触れるの。その思い出を、皆とお話するの。そうすれば」
ルミニタはリベルの頬に手を触れた。そのまま冷たくなった指で、リベルの頬を左右に伸ばした。
「そうすればリベルも、こんな怖い顔をしないで、もっと一緒に笑っていられるでしょ?」
ルミニタはリベルの眼を見つめて微笑んで見せた。冬の夜空に咲き落ちる花のような、美しい笑顔だと、リベルはそう思った。それは水に落とされた水彩の絵の具のように拡散した。彼女の優しさによって,自身の暗く後ろめたい気持ちが、暖かい色で塗り替えられていくように感じた。
ルミニタは目を閉じて何かを歌い始めた。くじら歌、孤児院にいた頃からルミニタが歌っていた歌。
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