ホシワタリのあなたへ

1-4: 現れ（phenomenon）

1. 友人としての

「もう一つ、ルミニタのことだがな……」
師匠は白石を盤面の隅に差しながら言った。
「ホシワタリは諦めろ。無理だ」

リベルは次の一手を返した。
「精霊術の五大能力については、学院でもう習っているだろ？」
「ええ……。発信、受信、強化、現象、貸借の五つですね」
「そう。このうち最も重要なものが受信だ。なぜならば、そもそも精霊の存在を知覚できなければ、私たちは彼らに働きかけることも危険から身を守る事もできない。私の目から見て、お前達兄妹が最も不得意とするのも受信だ。特にルミニタは絶望的。精霊術を使う以前の問題として、平野の国プラトーでどう生きるか考えるのが先だ。だが……」

ゲームは着々と進行した。
「実を言うと現代において精霊術が苦手な者は少なくない。古代アルマトリアでは、今とは及びも着かないほど強力な精霊術が使われていたという。しかし人類は都合二度、精霊術を失いかけている。およそ1700年前の大融合戦争と、50年前のアルマトリア連合戦争の後だ。それは人類が精霊術を戦争の武器として利用したためだと言われている。精霊を一方的に利用しようとした人間は手痛い反撃を受けた。今の人類は、道具や儀式を利用してなんとか関係できているだけだ。これから先、人類は精霊術を取り戻していくのだろうか？　そうかも知れないし、そうでは無いかもしれない。どう生きるか考えなくてはならないのは、私たち皆同じだ」
「分相応に生きろということですか？」
言葉にしたすぐ後、リベルは自らの暗い気持ちをぶつけてしまったことに気が付いた。
「すみません」
「現状を受け入れるのも大切だという話だ。ただしこれは、精霊術ファズマニクスの師匠としての意見」

盤面は終盤にさしかかっており、残りはお互いの陣地を整理し、勝敗を決める段階だった。
「そしてこれは同じ村にいる友人としての意見だ。……どうせ皆何が正しいかなんて分からない。だったらリベル、お前だけは彼女を信じてやれ」