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1-3: 四つ葉遺跡(Fourfold Grove)
2. ユニフロルムと、繋がれた手
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「それは採らない方がいいよ」
リベルが触れようとした草を見て、男の子が言った。
「それはハナニラというんだって。良く似た植物で食用のものがあるけど、ハナニラを食べるとお腹を壊しちゃうんだって」
男の子の口調は落ち着いており、不思議な程に利発さが感じられた。リベルは先ほど摘もうとしていた植物をもう一度観察した。独特の香りがする長い葉が伸びており、先端には薄い青紫の花が咲いていた。
「どうしてそんなことを知っているの?」
リベルが尋ねた。その男の子は5歳か6歳か。リベルと同い年か、一つくらいしか違わなかったはずだ。その上、この施設に置いてある本はリベルも一通り読んでいたはずだった。しかし、ハナニラについて書かれた本を読んだ記憶は無かった。
「教えてくれたよ」
男の子はことも無げに言った。
「誰が?」
リベルが問うと、男の子はハナニラを指で差した。
リベルが精霊という存在を知り始めたのは、彼がまだ6歳程の頃だった。
その頃リベルが過ごしていた施設では、同年代の子どもたちと一緒に共同生活をしていた。子どもたちは5人くらいのグループに分かれ、グループ内で読み書きを教え合ったり、協力して過ごしていた。ここに居る子どもたちは、リベルを含め皆、親がいないようだった。何人かの大人たちが交代でやってきて、リベル達の世話をしてくれた。
施設には時々外から新しい子どもがやってくるがあった。その度にグループを組み直したり、新たにメンバーを加えたりする。その日、リベルの所属していたグループに女の子が二人加わった。話を聞くと、二人は姉妹で、姉の方はリベルの二つ下、妹の方はその更に一つ下のようだった。年齢が上だから「リベルが姉妹の面倒をみるように」と、二人を連れてきた男性が言った。
面倒ごとが押しつけられたと考えたリベルは、二人を無視したり、食器や寝具の使い方をわざと教えないで、意地悪をした。二人の姉妹はそれでもリベルの後を着いて回った。リベルはそれが余計腹立たしくなり、二人を嫌った。
姉妹が来てから少し経った頃、リベルらが過ごす施設のプログラムの一環で、近所の野山に山菜を採りに行くことになった。そこは遺物の国の国外の動植物が住まう珍しい場所だった。
二人の姉妹は相変わらずリベルの後をついて回って、リベルが収穫するのと同じ植物を採って回った。リベルが食用のニラだと思って収穫したハナニラも、姉妹は同じように収穫していた。
午前の山菜採りが終わり、植物を収穫した篭を引率の大人たちへ報告する時だった。
「ハナニラはニラに良く似た植物だけど、食べることはできないの。誰も教えてくれなかった?」
引率の女性は皆の前で姉妹を注意した。
姉妹の姿を見て、リベルはそのうちに背中が冷たくなるような気持ちに襲われ始めた。ハナニラは遺物の国では珍しい植物であるし、姉妹がそれを知らなくても不思議ではない。まして彼女らは初めて山菜採りだ。つまり、この場合の責任は、彼女たちの世話をするはずの自分にあったはずだ。この場で姉妹がリベルのことを言いつけたらどうなるだろう? すぐに自分から言うべきだろうか。いや、姉妹に意地悪していたことや、黙って見ている現状をなんと言われるか……。
姉妹は最後まで弁明をしなかった。姉の方は背筋を伸ばし、大人の顔をまっすぐ見たまま「ごめんなさい、知りませんでした」と述べた。妹はその姉の服の裾を掴んで寄り添っていた。
物怖じしているようには見えなかった。彼女は大人に怒られることなどなんとも思わない性格なのだろうか。一瞬そう思ったリベルだがすぐに気が付いた。姉は、妹の手をしっかりと握っており、妹もその手を強く握り返していた。まるで二つの木の根が絡み合い、お互いを心から支えるように。
リベルは二人の姿を見て、先ほどのまでの不安が恥ずかしさに変わるのを感じた。そして二人の姉妹の名を調べ、改めて記憶した。姉はルミニタといい、妹はクララという名だった。
それからまた少し経った。リベルはあの時の「誰も教えてくれなかった?」という言葉を忘れることができなかった。自分の感情をどのように受け止めればよいのか理解できず、その代わりに知識を求めるようになった。施設にあったたくさんの本を読み、世話係の男性に頼んで大人向けの本も読ませてもらうようになっていた。
そうやって過ごす内、あの言葉には別の含意があること理解しはじめた。あれは、分からないことを周囲の大人や友人に聞きなさいという意味だけでは無いようだった。身の回りの現象や自然物との安全な付き合い方や、それらの危険性を教えてくれる、目に見えない何者かが、この世界に存在しているようなのだ。
それらの存在は、例えばカビの生えしまったパンを気づかずに食べようとした時に、それとなく注意してくれたり、飲もうとした井戸水が飲用に適しているかどうかを聞くと教えてくれるらしい。薪を集めていれば、竈で火を起こすのに適した乾いた木の在処や見分け方を教えてくれるという。
"それら"はどこにでも居て、草や木や食物だけでは無く、石や鉄等の鉱石の他、風や火などの形の曖昧なものからも現れて、我々に関与してくるのだという。
リベル達は施設の大人から、この世界、アルマトリアではそれを精霊と呼ぶのだと教わった。
精霊は何かを教えるだけではない。精霊を敬えば、火事の火が広がらないように風を弱めたり、土壌の栄養を高めて小麦の生長を促進する。反対に、我々が彼らを傷つければ災害や不作で脅かしてくる。
「精霊を扱う術……精霊術は、私たちと世界を繋ぎ、生きるための最も基礎的な力の一つ。あなたたちはここでその力について知り、身につけるの」
女性は子どもたちの成長を心から歓迎しているようだった。
子どもたちは、喜びや驚き、納得等様々な反応を見せていた。自分たちのこれまでの経験と精霊の存在との実感を、思い思いに受け入れていた。
リベルはできるだけ平静を努めて、同じように頷いて見せた。自分と同じような反応と顔色を周囲から懸命に探した。隣では、リベルより小さい子どもたちが空中や花壇を指さし、はしゃぎ合っていた。そこに加わることはできなかった。精霊の姿形や痕跡、それらからの発信も、リベルは今まで一度何も見たことがないからだ。
精霊が見えないのは、アルマトリアでは何を意味するのだろうか? それは珍しいことなのだろうか。人によって成長に差があったり、訓練で改善することなのだろうか。これまでリベルが見てきたものと、周囲の仲間たちが見ていた光景が、まったく異なる現実だったのかもしれない。そしてこれからも同じになることないのだとしたら。
様々な疑問がリベルの頭を巡る中、二人の少女の姿がリベルの目に止まった。ルミニタは背筋を伸ばし、クララはそんな彼女に寄り添って、手を繋いで精霊の説明を聞いていた。山菜執りのあの時と同じように。だが、その手は微かに震えていたように見えた。
リベルが触れようとした草を見て、男の子が言った。
「それはハナニラというんだって。良く似た植物で食用のものがあるけど、ハナニラを食べるとお腹を壊しちゃうんだって」
男の子の口調は落ち着いており、不思議な程に利発さが感じられた。リベルは先ほど摘もうとしていた植物をもう一度観察した。独特の香りがする長い葉が伸びており、先端には薄い青紫の花が咲いていた。
「どうしてそんなことを知っているの?」
リベルが尋ねた。その男の子は5歳か6歳か。リベルと同い年か、一つくらいしか違わなかったはずだ。その上、この施設に置いてある本はリベルも一通り読んでいたはずだった。しかし、ハナニラについて書かれた本を読んだ記憶は無かった。
「教えてくれたよ」
男の子はことも無げに言った。
「誰が?」
リベルが問うと、男の子はハナニラを指で差した。
リベルが精霊という存在を知り始めたのは、彼がまだ6歳程の頃だった。
その頃リベルが過ごしていた施設では、同年代の子どもたちと一緒に共同生活をしていた。子どもたちは5人くらいのグループに分かれ、グループ内で読み書きを教え合ったり、協力して過ごしていた。ここに居る子どもたちは、リベルを含め皆、親がいないようだった。何人かの大人たちが交代でやってきて、リベル達の世話をしてくれた。
施設には時々外から新しい子どもがやってくるがあった。その度にグループを組み直したり、新たにメンバーを加えたりする。その日、リベルの所属していたグループに女の子が二人加わった。話を聞くと、二人は姉妹で、姉の方はリベルの二つ下、妹の方はその更に一つ下のようだった。年齢が上だから「リベルが姉妹の面倒をみるように」と、二人を連れてきた男性が言った。
面倒ごとが押しつけられたと考えたリベルは、二人を無視したり、食器や寝具の使い方をわざと教えないで、意地悪をした。二人の姉妹はそれでもリベルの後を着いて回った。リベルはそれが余計腹立たしくなり、二人を嫌った。
姉妹が来てから少し経った頃、リベルらが過ごす施設のプログラムの一環で、近所の野山に山菜を採りに行くことになった。そこは遺物の国の国外の動植物が住まう珍しい場所だった。
二人の姉妹は相変わらずリベルの後をついて回って、リベルが収穫するのと同じ植物を採って回った。リベルが食用のニラだと思って収穫したハナニラも、姉妹は同じように収穫していた。
午前の山菜採りが終わり、植物を収穫した篭を引率の大人たちへ報告する時だった。
「ハナニラはニラに良く似た植物だけど、食べることはできないの。誰も教えてくれなかった?」
引率の女性は皆の前で姉妹を注意した。
姉妹の姿を見て、リベルはそのうちに背中が冷たくなるような気持ちに襲われ始めた。ハナニラは遺物の国では珍しい植物であるし、姉妹がそれを知らなくても不思議ではない。まして彼女らは初めて山菜採りだ。つまり、この場合の責任は、彼女たちの世話をするはずの自分にあったはずだ。この場で姉妹がリベルのことを言いつけたらどうなるだろう? すぐに自分から言うべきだろうか。いや、姉妹に意地悪していたことや、黙って見ている現状をなんと言われるか……。
姉妹は最後まで弁明をしなかった。姉の方は背筋を伸ばし、大人の顔をまっすぐ見たまま「ごめんなさい、知りませんでした」と述べた。妹はその姉の服の裾を掴んで寄り添っていた。
物怖じしているようには見えなかった。彼女は大人に怒られることなどなんとも思わない性格なのだろうか。一瞬そう思ったリベルだがすぐに気が付いた。姉は、妹の手をしっかりと握っており、妹もその手を強く握り返していた。まるで二つの木の根が絡み合い、お互いを心から支えるように。
リベルは二人の姿を見て、先ほどのまでの不安が恥ずかしさに変わるのを感じた。そして二人の姉妹の名を調べ、改めて記憶した。姉はルミニタといい、妹はクララという名だった。
それからまた少し経った。リベルはあの時の「誰も教えてくれなかった?」という言葉を忘れることができなかった。自分の感情をどのように受け止めればよいのか理解できず、その代わりに知識を求めるようになった。施設にあったたくさんの本を読み、世話係の男性に頼んで大人向けの本も読ませてもらうようになっていた。
そうやって過ごす内、あの言葉には別の含意があること理解しはじめた。あれは、分からないことを周囲の大人や友人に聞きなさいという意味だけでは無いようだった。身の回りの現象や自然物との安全な付き合い方や、それらの危険性を教えてくれる、目に見えない何者かが、この世界に存在しているようなのだ。
それらの存在は、例えばカビの生えしまったパンを気づかずに食べようとした時に、それとなく注意してくれたり、飲もうとした井戸水が飲用に適しているかどうかを聞くと教えてくれるらしい。薪を集めていれば、竈で火を起こすのに適した乾いた木の在処や見分け方を教えてくれるという。
"それら"はどこにでも居て、草や木や食物だけでは無く、石や鉄等の鉱石の他、風や火などの形の曖昧なものからも現れて、我々に関与してくるのだという。
リベル達は施設の大人から、この世界、アルマトリアではそれを精霊と呼ぶのだと教わった。
精霊は何かを教えるだけではない。精霊を敬えば、火事の火が広がらないように風を弱めたり、土壌の栄養を高めて小麦の生長を促進する。反対に、我々が彼らを傷つければ災害や不作で脅かしてくる。
「精霊を扱う術……精霊術は、私たちと世界を繋ぎ、生きるための最も基礎的な力の一つ。あなたたちはここでその力について知り、身につけるの」
女性は子どもたちの成長を心から歓迎しているようだった。
子どもたちは、喜びや驚き、納得等様々な反応を見せていた。自分たちのこれまでの経験と精霊の存在との実感を、思い思いに受け入れていた。
リベルはできるだけ平静を努めて、同じように頷いて見せた。自分と同じような反応と顔色を周囲から懸命に探した。隣では、リベルより小さい子どもたちが空中や花壇を指さし、はしゃぎ合っていた。そこに加わることはできなかった。精霊の姿形や痕跡、それらからの発信も、リベルは今まで一度何も見たことがないからだ。
精霊が見えないのは、アルマトリアでは何を意味するのだろうか? それは珍しいことなのだろうか。人によって成長に差があったり、訓練で改善することなのだろうか。これまでリベルが見てきたものと、周囲の仲間たちが見ていた光景が、まったく異なる現実だったのかもしれない。そしてこれからも同じになることないのだとしたら。
様々な疑問がリベルの頭を巡る中、二人の少女の姿がリベルの目に止まった。ルミニタは背筋を伸ばし、クララはそんな彼女に寄り添って、手を繋いで精霊の説明を聞いていた。山菜執りのあの時と同じように。だが、その手は微かに震えていたように見えた。
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