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北の大陸蹂躙

北の大陸 リッカ・フェリside ー アリフォール城

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「わかりました。ですが、それはお城に着いてからにしましょう。ルーシェが答えてくれるかはわかりませんが」

「そっ……そうですね。いや……ありがとうございます! 少し焦り過ぎていたようです。今、私の疑問だけをぶつけるより、城の者と内容をまとめてからお話させていただ方がいいはずです。申し訳ありません」

 なんとか引き下がってくれた王様に安堵した。
 王様の願いを叶えてあげたい気持ちはあるのだが、別れたすぐ後に呼ぶのは気がひける。
 一息ついたころで連絡がてらそれとなく王様の要求を伝えようと思った。

「いえ」

 この王様との会話はとても疲れる。
 もう少し雑談のような会話であれば気楽に話ができるのに、いつだって王様の言葉には鬼気迫るものがあり、返事をするのも一苦労だ。
 もう少し砕けた感じで話してくれればいいと思うのだが、この状況ではそうもいかないだろう。

「王様、王様、宴ってなにをするの?」

 そんな重苦しい場を打ち破るようにリッカが王様へと話しかける。
 たしかに宴の内容は気にはなっていたのだが、王様の態度を見るに聞くことができなかった。

「えっと……宴の内容……ですか。ただ今城のシェフが腕によりをかけて最高級の料理を準備しております。この国に伝わる芸も催す手筈になっておりますので、お二人には美味しい食事と、楽しい時間を過ごしていただきたく思っております」

「すごい! 最高級の料理! たくさん出るのかな? もうずっとなにも食べてなくてお腹ペコペコなんだよね」

「え? ええ、もっと大人数でも対応できるように、料理は潤沢にご用意しております。御満足いただけるまで召し上がってください」

「やったー! フェリ、美味しい料理がいっぱい食べれるよ! ルーシェは食事に関して無頓着だから高級料理なんて縁がないもんね」

「ええ、そうですね。あるものを食べていたという感じでしたからね。私も楽しみです」

 リッカの喜びようは屈託のない笑顔に裏打ちされていた。
 考えてみれば、高級な料理というものを食べられるのはこれが最後かもしれない。
 人間を殲滅してしまえば、こういった文化も失われてしまう。エルフの里にある料理も美味しいのだが、人間社会の料理は更にその先を行っている。
 リッカのように、素直にこの状況を楽しまなければ後悔することになるだろう。

「そのように喜んでいただけるのであれば、こちらとしても嬉しい限りです。到着したらシェフに伝えておきましょう。お二人は今日の料理をとても楽しみにしていると」

「うん! 王様よろしくね!」

 リッカはとてもいい笑顔を王様へと向ける。
 押しの強いその笑顔に王様は少し圧倒されていたが、次第に強張っていた表情は緩み、優しい笑顔が溢れていた。

「はい……お任せください」

「私が言うのもなんだけど、王様元気出して!」

「お気遣いありがとうございます」

 にっこりと目を細めて笑う王様の顔は、子供のような可愛らしい笑顔だった。

「そろそろ到着いたします」

 ガタガタと揺れながらの馬車移動は居心地のいいものではなかったが、揺れを気にせず飛ばしていたぶん時間的にはさほど長くはなかった。

「お夕食の準備が整い次第お迎えを向かわせます。また、メイドを一人手配いたしますので、なにかありましたらなんなりと御用命ください。では……」

 そう言うと王様は足早に城へと向かっていった。
 私たちは兵士に部屋まで案内された。
 通された部屋は落ち着いた装飾でありながら、気品に溢れ、心の高揚を禁じ得ないほど贅沢な空間だった。

「うわぁー凄い部屋だね! この絨毯ふっかふかだよ! ベッドも王様のベッドみたい!」

 リッカは豪華な部屋に心を奪われ興奮気味に室内を見て回っている。

「ほんと……凄いですね」

「あ! ちょっと、フェリ見て見て! お風呂がある! あ……これ魔道具だ。こんな使い方もあるんだねー」

 よく見ると、部屋にはいくつか魔道具が設置されていた。
 照明、お風呂、天井、床、と、いったいなにをするものなのかもよくわからない魔道具で溢れていた。

「この国は魔法技術が進んでいるのですね」

「そうだね。こんなにいろんな魔道具を作れるんだもんね」

 二人がうろうろと室内を物色していると、コンコンと扉が叩かれる。

「はーい」

 リッカが扉を開ると、凛とした佇まいのメイド服を着た女性が深々と頭を下げていた。

「本日、お二人のお世話をさせていただきますライラと申します」

「あ……あー、王様が言ってたメイドさんだね! よろしく!」

「よろしくお願いいたします。お茶をお持ちしましたので、ご用意させていただきます」

「ほんと! ありがとう! さ、入って、入って!」

 メイドはティーセットを乗せたワゴンを押して部屋へと入る。
 部屋には四人掛けのテーブルがあり、二人はメイドに促されて腰を下ろした。

 ワゴンの上ではコポコポと優しい音を立ててポットから湯気が立ち昇り、細工が施された木皿には焼き菓子が沢山盛られていた。
 メイドが手際よくお茶の準備をすると、フレーバーティーの華やかな香りが二人の席まで届いた。

 そういえば、もう長いことこういった安らかな時間を過ごせていないことに気づく。
 いつだってなにかに追われていたり、不安を抱えていた。
 しかし、今は驚くほど心安らかにお茶会を楽しんでいる。
 こんな時間を過ごせるのもルーシェのおかげなのだろうか? 

「おまたせしました……どうぞ」

 コトっと品のいい音を立ててお茶を出される。
 品が良いと感じたのは、メイドの立ち振る舞いの良さのせいかもしれない。

「ありがとう! すごくいい香り……あ、とっても美味しい!」

「ほんとですね……こんなに美味しいお茶は初めてです」

「お気に召されたようで安心いたしました。では、こちらもお召し上がりください」

 メイドは焼き菓子を小皿に取り分け、食べやすいよう半分カットした物を二人の前に置いた。
 フォークで刺せば、ふわりとした弾力のある柔らかな焼き菓子だとわかる。
 口へと運べば、歯切れのいい食感と、濃厚な甘さがじゅわっと口いっぱいに広がりをみせた。
 初めて食べるその焼き菓子の美味しさに二人は目を合わせて驚いた。

「美味しい!」

「ええ、とても美味しいです」

「ねえ、ねえ、これはなんて名前のお菓子なの?」

「これはフィナンシェという名前のお菓子です」

「フィナンシェ……これは夕食にも出るのかな?」

「いえ……もしお気に召されたのであれば、夕食にも添えるようシェフに伝えておきます」

「ほんと!? じゃあ、お願いします! あ、もう一個ください」

「はい」

 リッカは一口サイズのフィナンシェ二切れをいつのまにか食べ終わっておかわりを頼んでいる。

 香り高いお茶と美味しい焼き菓子。
 まるでお姫様にでもなったかのような扱いに、二人の心は舞い上がっていた。
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