上 下
105 / 157
東の大陸蹂躙

どうでもいいこと

しおりを挟む
「ねぇ、ねぇ、ルーシェはどのくらい強くなったの?」

「ん? ああ、そうだな……強くなったというよりは、魔法そのものになったと言った方がいいかもしれない……ほら」

 僕は右手の手の平の上に炎を出し、左手の手の平の上で風を巻き起こした。

「え!? ルーシェは属性魔法も使えたんですか? しかも詠唱してませんでしたよね?」

 フェリが僕の芸を見て驚いている。

「それくらい私だってできるもん!」

「そうか。じゃあこれはどうだ?」

 僕はその二つを重ね合わせて炎の竜巻を作り出した。

「うぐぅ……無詠唱で応用魔法はできない」

「はっはっは。よーし、じゃあもっと見せてやろう! クザン、僕が作った腕を外せ」

「おいおい、また俺になにするつもりだよ。それに、この腕は気に入ってるんだから大事にしてくれよ」

 クザンはさっきから実験台にされてばかりで不安な表情を浮かべていたが、素直に腕を外すと名残惜しそうに僕へと手渡した。

「はは……気に入ってくれていたのか。だが、もう不要になるだろう」

 クザンに手をかざせば、瞬く間にクザンの腕が再生した。

「は? ……マジかよ!」

 クザンは再生した腕をぐるぐると回して具合を確かめる。

「おお! 完璧だ! 魔王様すげぇな!」

 みんなその光景を目を丸くして見つめ、クザンが喜ぶ姿をしばし絶句して眺めていた。

「……ルーシェ様はなんでもできるようになったんですか?」

「うーん。まだよくわかんないけど、魔力を使うことならなんでもできるんじゃないかな?」

「はっはっはっは! 魔法が全部使えるなんて、その名前どうり魔の王様ってことだな! すげぇや、はっはっはっは!」

 腕を取り戻したクザンは上機嫌だ。やはり、僕が作った腕より自分の腕の方がいいのだろう。

「あの……それじゃあ、死んだ者も生き返らせることができるのでしょうか?」

「だれか生き返らせたい者でもいるのか?」

「……いえ。もし可能なら、殺されてしまったエルフたちが生き返ればいいなと……」

「ふむ……」

 フェリの心に残る大きなしこり。
 公爵に弄ばれ、神託と、民衆の声によって殺されていったエルフたち。
 救ってやりたいと思う気持ちはとてもよくわかる。

「おそらく可能だが……どうする?」

「……どう……したら……本当にそんなことをしてもいいのでしょうか?」

「さぁ……どうだろうか。今の僕ならきっと、なにも生物のいなかった大昔にまで時を戻すことも可能だろう。過去に死んでいったエルフ全てを生き返らせることだってできるかもしれないぞ? それに、人間共に弄ばれる前まで遡って、もう一度やり直させることもできるが……フェリはどうしたい?」

「えっと……どう……したいのでしょうか……考えがまとまりません」

「そうだろうな。死を超越した先にはつまらない生しか残らない。なにかを楽しいと感じるというのは、その先に死が待っているからなのかもしれない。
 結局、死がなければ、なにも感じることなんてなくなってしまうのかもしれないな」

「そう……なのでしょうか?」

「そうさ。フェリがもし、このまま死ぬことがないと言われたらどうだろうか? なにをしたい?」

「え? 死なないのであれば……楽しく暮らせればいいかなと……」

「死なない体でなにを楽しむんだ? もう動かなくても死なないんだぞ? 食べることも、寝ることも必要ない。生きるために試行錯誤することもなくなるだろう。だって、なにもしなくても死なないのだからな。
 とどのつまり、生き物がしていることは死なないためにどうすればいいかに尽きる。それが、どんなに大回りだろうと、一見死に向かっているように見えようとも、自分、もしくは他者の死を回避するための行動に高揚し、喜びを覚える。
 だからこそ、フェリは両手を上げて喜べないのだと思うぞ」

 フェリは僕の話を聞いて考え込んでしまった。

「もし、フェリだけが永遠の命を持ったのなら、他者のために尽くすことが喜びとなるだろう。数百年もすれば、誰に罵倒されようとも、痛めつけられようとも、なにも感じないほどに悟りを開くことになる。
 なぜなら、ムカつく奴を殺したところでなんの意味もないからな。ただただ虚しいだけだ」

「……では、生き返すことはしない方がいいのでしょうか?」

「ふふ……僕はフェリにそれを聞いているんだ。死んでしまった者を生き返し……時が来たら死ぬ運命をもう一度与えたいのかと」

「……わかりません……もう少し考えてみます」

「ああ、わかった」

 この問題は個人の倫理観次第だ。
 もし、誰も死ぬことがなければ、世界は劇的に静かになり、なにをすることもなくなってしまうだろう。
 子供の遊びだってそう。未知のものに触れ、未知の危機に対処する知識を身につけるための行為を楽しんでいる。
 大人の遊びに関していえば、生と死の疑似体験であり、それを、勝利と敗北という形で表現している。

 ではなぜ同じ種族であっても争ってしまうのか?

 それは、他の要因が大いに関わってくるからだ。
 生物は脆く儚い。自然の脅威に晒され、他の生物との生存競争に打ち勝たなければならない。
 個人が守れる範囲なんてちっぽけなものだ。
 だからこそ、そこに線を引き、仲間というグループ同士で争うものなのだ。 

 自分の生きていられる時間の中で、どれだけ排他的にその恩恵を独占できるか?

 個人の力ではどうにもならないほどに膨れ上がったグループ内では、そんな思惑が勝敗を決める。それも、個人の価値観に基づくものであり、様々な思惑が渦巻く。
 未来を見据えたもの、近々のもの、それぞれが他者の恩恵を奪い合う。一定のルールのもとで。

 そして、ルールに縛られ、奪われ続けた者の末路は悲惨だ。
 エルフも、獣人も、人間共に奪われ続けた者たちだ。
 個人ではどうにもならない力……争う術を奪われれば押し潰される運命しかない。

 だから悪意はなくならない。
 一定のルールに異を唱え、根本から変えていかなければならない事象がどうしても発生してしまうからだ。
 悪意なんてものは負の環境改善の為の行為でしかない。
 そもそも悪意と正義は対義語ではなく、大きいか、小さいか……ただそれだけの違いでしかないのだ。
 負の環境を改善するという行為は、他人の恩恵を奪う行為であり、当事者以外から見れば理不尽な行いでしかない。
 しかし、大勢が支持すれば、それは正義となり、大勢が嫌悪すれば、それは悪意となる。
 なにが正義かなんて……それはただの多数決の結果であり、そこに絶対的な意味なんてない。

 とても滑稽で、とても当たり前の理。
 
 だから、人間と僕……どちらが正義かなんて、そんなくだらないことはどうでもいい。

 だって、みんな死ねば……自動的に僕が正義になるのだから。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...