95 / 157
東の大陸蹂躙
魔王討伐の軌跡 もう一人の勇者
しおりを挟む
僕は要らないと思うんだ。
どう考えても……こいつを生かした先の未来がよくなるはずがない。
だから僕は、ゆっくりと野太刀を前へと進める。
人間を殺せるのが嬉しくてたまらない……ほら……もっと叫べよ……喚き散らせ……。
「や……いやだ! やめろ! やめろよ! 痛い! いてぇよ! おい! おい! やめろって言ってるだろ!!」
勇者が刀身の腹を手で押さえて力尽くで折ろうとした。
しかし、そのステータスの高さでも折ることは叶わず、ブレた切っ先が胸の傷を広げていく。
「いっ!」
もう心臓の目の前まで刺さってしまった傷に耐えかねて勇者の顔が歪む。
僕はゆっくりと勇者の手を退けて、切っ先を横へとスライドさせた。
その切れ味の良さから、勇者の胸の肉はスルスルと切り裂かれ、右の胸までたどり着くと痛みに耐えて叫ぶ勇者の声が僕を愉悦へと誘う。
そして、ゆっくりと右胸を突き刺していけば、勇者は口から大量の血を吐いた。
真っ赤な血が野太刀を赤く染める。
仮にも勇者の血だ……野太刀への供物には丁度いいだろう。
このまま時間が経てば、勝手に絶命するだろう勇者の最後は……自分で命を絶っていただこう。
勇者が持っていた剣をその手に持たせ、首元に刃を置き、もう片方の手で反対の刃を押しながら押して引いてを繰り返す。
勇者の持っていた剣もなかなかの切れ味のようで、押している手は骨まで食い込み、首はもう半分ほど切れてしまった。
気道を傷つけたようで息ができないようだ。
僕は苦しむ勇者の顔を見ながら……その最後を見届けた。
拘束を解き、倒れこんだ勇者の頭を踏み潰す。
床には血溜まりと脳味噌の飛び散った汚物が撒かれてしまった。
「あーあ。汚れちゃった……」
僕が汚れた靴にげんなりしていると、もう一組、呼び寄せておいた勇者が到着した。
ずっと監視していたライトと、その勇者だ。
扉を開けて入ってきたと思えば、僕を見るなり切りかかってきた勇者。
とてもいい判断だと思う。
僕も野太刀で応戦した。
「振りを止められたのは初めてですね……あなたが魔王ですか?」
ギリギリと鍔迫り合いをしながら勇者は軽口を叩く。自信満々といった感じで僕を見定めているようだ。
「はぁ……そうだけど。急になんなの?」
「あれ? あなたが呼んだんですよね? 泊まっていた宿に可愛らしいコボルトを使いに出して、ここに来るように言ったんじゃないんですか?」
「そうだけど……なんで急に切りかかってくるんだよ」
「それは……この状況を見れば、戦うために呼んだのかなって」
「えー、違うんですけど」
「ふふ、でも、そんなことどうでもいいです」
勇者は優しい笑みを浮かべてそう言った。
確かにそうだ。
そんなこと……どうでもいい。
僕も自然と笑みが零れる。
「おまえも転生者か?」
「はい。そうですけど」
「俺もだ」
「へー。魔王になれたんですか……いいですね!」
「ああ……とてもな」
「じゃ、次はこれです!」
目の前にいた勇者は力一杯僕を押し返し、くるりと野太刀を躱して引くように僕の胴に剣を振るった。
しかし、刃物での攻撃を完全に防ぐだけでなく、衝撃を反射する僕のローブがその攻撃を跳ね返す。
「うわっ!」
思いもよらない反動に勇者はよろめき、後ろに飛んで体制を立て直した。
「なですかそれ?」
「ドワーフの力作さ」
「この世界にはドワーフもいるんですか……そっかー、楽しみだなぁ」
「おまえは見ることなんてできないけどな」
「そんなのわからないじゃないですか」
「……こんな話、勝ってから僕以外の者と話せ」
「うーん、そうですね」
「おまえが勝つ事なんてないけどね」
「それはどうですかね……」
勇者は溜めを作り、剣に魔力を込めていく。
すると、頭身は緑色に輝きその光量を増していく。緑色って事は風の魔剣といったところだろうか?
僕はなかなかに長い溜め動作にあくびが出てしまった。
「随分余裕なんですね」
「魔王だからな」
「意味がわからないです」
「そうか?」
「行きますよ!」
「ああ。早く来い」
勇者が地を蹴って飛び出す。
先程の一撃が悔しかったようでまたしても胴をめがけて切りかかってくる。
しかし、魔力を帯びた剣ですらドワーフの防具を貫くことはできずに勇者は弾き飛ばされてしまった。
「……大丈夫か?」
「……その防具、ズルイですよ」
「そうだな。僕も作った時は驚いたよ」
「だったら頭を潰します!」
「おう、やってみろ」
次は僕の頭をめがけて突きを放ってきた。
力の差を教えてやるために、野太刀で軽く剣筋をズラし、飛び跳ねてしまった勇者の目の前に刃先を置く。このまま自重でどこまで切れるか楽しみだ。
空中で進路は変えられないだろうと思っていたが、風魔法を使って上手いこと横に逸れたようだ。
ズザーっと滑るように止まり、勇者はこちらを見ていた。
「……強すぎません?」
「魔王だからな」
「またそれですか」
「でも、これが全ての答えだ」
「横着過ぎるでしょ」
この勇者は常にポーカーフェイスで、優しく微笑んだような表情を崩さない。
「ふ……そうだな。それで……おまえの方はそれで終わりか? そろそろこちらから行かせてもらってもいいのかな?」
「え? どうぞ?」
なに食わぬ顔で僕を見下したような言い草。
これだけの力量差を見せつけたはずなのにその反応は流石におかしい。
だから僕は、勇者の肩付近の空間と僕の指先をつなげてそっと触れた。
//
職業 勇者 lv860
名前 マコト・カリザキ
生命力 3000
攻撃力 910
防御力 120
魔力 820
魔攻 810
魔防 80
素早さ 910
幸運 120
スキル
痛みを返す者(受けたダメージをその者へと返す) 死者の恩恵(死人となった時に発動・魂を1時間留める) 憑依(生者(人間)に憑依することができる・憑依した依代をマコト・カリザキに変える) 剣聖の極意(剣技極大) 風魔法(無詠唱)
//
こちらの勇者の方が相当に厄介そうだ。
僕はため息を吐いた。
どう考えても……こいつを生かした先の未来がよくなるはずがない。
だから僕は、ゆっくりと野太刀を前へと進める。
人間を殺せるのが嬉しくてたまらない……ほら……もっと叫べよ……喚き散らせ……。
「や……いやだ! やめろ! やめろよ! 痛い! いてぇよ! おい! おい! やめろって言ってるだろ!!」
勇者が刀身の腹を手で押さえて力尽くで折ろうとした。
しかし、そのステータスの高さでも折ることは叶わず、ブレた切っ先が胸の傷を広げていく。
「いっ!」
もう心臓の目の前まで刺さってしまった傷に耐えかねて勇者の顔が歪む。
僕はゆっくりと勇者の手を退けて、切っ先を横へとスライドさせた。
その切れ味の良さから、勇者の胸の肉はスルスルと切り裂かれ、右の胸までたどり着くと痛みに耐えて叫ぶ勇者の声が僕を愉悦へと誘う。
そして、ゆっくりと右胸を突き刺していけば、勇者は口から大量の血を吐いた。
真っ赤な血が野太刀を赤く染める。
仮にも勇者の血だ……野太刀への供物には丁度いいだろう。
このまま時間が経てば、勝手に絶命するだろう勇者の最後は……自分で命を絶っていただこう。
勇者が持っていた剣をその手に持たせ、首元に刃を置き、もう片方の手で反対の刃を押しながら押して引いてを繰り返す。
勇者の持っていた剣もなかなかの切れ味のようで、押している手は骨まで食い込み、首はもう半分ほど切れてしまった。
気道を傷つけたようで息ができないようだ。
僕は苦しむ勇者の顔を見ながら……その最後を見届けた。
拘束を解き、倒れこんだ勇者の頭を踏み潰す。
床には血溜まりと脳味噌の飛び散った汚物が撒かれてしまった。
「あーあ。汚れちゃった……」
僕が汚れた靴にげんなりしていると、もう一組、呼び寄せておいた勇者が到着した。
ずっと監視していたライトと、その勇者だ。
扉を開けて入ってきたと思えば、僕を見るなり切りかかってきた勇者。
とてもいい判断だと思う。
僕も野太刀で応戦した。
「振りを止められたのは初めてですね……あなたが魔王ですか?」
ギリギリと鍔迫り合いをしながら勇者は軽口を叩く。自信満々といった感じで僕を見定めているようだ。
「はぁ……そうだけど。急になんなの?」
「あれ? あなたが呼んだんですよね? 泊まっていた宿に可愛らしいコボルトを使いに出して、ここに来るように言ったんじゃないんですか?」
「そうだけど……なんで急に切りかかってくるんだよ」
「それは……この状況を見れば、戦うために呼んだのかなって」
「えー、違うんですけど」
「ふふ、でも、そんなことどうでもいいです」
勇者は優しい笑みを浮かべてそう言った。
確かにそうだ。
そんなこと……どうでもいい。
僕も自然と笑みが零れる。
「おまえも転生者か?」
「はい。そうですけど」
「俺もだ」
「へー。魔王になれたんですか……いいですね!」
「ああ……とてもな」
「じゃ、次はこれです!」
目の前にいた勇者は力一杯僕を押し返し、くるりと野太刀を躱して引くように僕の胴に剣を振るった。
しかし、刃物での攻撃を完全に防ぐだけでなく、衝撃を反射する僕のローブがその攻撃を跳ね返す。
「うわっ!」
思いもよらない反動に勇者はよろめき、後ろに飛んで体制を立て直した。
「なですかそれ?」
「ドワーフの力作さ」
「この世界にはドワーフもいるんですか……そっかー、楽しみだなぁ」
「おまえは見ることなんてできないけどな」
「そんなのわからないじゃないですか」
「……こんな話、勝ってから僕以外の者と話せ」
「うーん、そうですね」
「おまえが勝つ事なんてないけどね」
「それはどうですかね……」
勇者は溜めを作り、剣に魔力を込めていく。
すると、頭身は緑色に輝きその光量を増していく。緑色って事は風の魔剣といったところだろうか?
僕はなかなかに長い溜め動作にあくびが出てしまった。
「随分余裕なんですね」
「魔王だからな」
「意味がわからないです」
「そうか?」
「行きますよ!」
「ああ。早く来い」
勇者が地を蹴って飛び出す。
先程の一撃が悔しかったようでまたしても胴をめがけて切りかかってくる。
しかし、魔力を帯びた剣ですらドワーフの防具を貫くことはできずに勇者は弾き飛ばされてしまった。
「……大丈夫か?」
「……その防具、ズルイですよ」
「そうだな。僕も作った時は驚いたよ」
「だったら頭を潰します!」
「おう、やってみろ」
次は僕の頭をめがけて突きを放ってきた。
力の差を教えてやるために、野太刀で軽く剣筋をズラし、飛び跳ねてしまった勇者の目の前に刃先を置く。このまま自重でどこまで切れるか楽しみだ。
空中で進路は変えられないだろうと思っていたが、風魔法を使って上手いこと横に逸れたようだ。
ズザーっと滑るように止まり、勇者はこちらを見ていた。
「……強すぎません?」
「魔王だからな」
「またそれですか」
「でも、これが全ての答えだ」
「横着過ぎるでしょ」
この勇者は常にポーカーフェイスで、優しく微笑んだような表情を崩さない。
「ふ……そうだな。それで……おまえの方はそれで終わりか? そろそろこちらから行かせてもらってもいいのかな?」
「え? どうぞ?」
なに食わぬ顔で僕を見下したような言い草。
これだけの力量差を見せつけたはずなのにその反応は流石におかしい。
だから僕は、勇者の肩付近の空間と僕の指先をつなげてそっと触れた。
//
職業 勇者 lv860
名前 マコト・カリザキ
生命力 3000
攻撃力 910
防御力 120
魔力 820
魔攻 810
魔防 80
素早さ 910
幸運 120
スキル
痛みを返す者(受けたダメージをその者へと返す) 死者の恩恵(死人となった時に発動・魂を1時間留める) 憑依(生者(人間)に憑依することができる・憑依した依代をマコト・カリザキに変える) 剣聖の極意(剣技極大) 風魔法(無詠唱)
//
こちらの勇者の方が相当に厄介そうだ。
僕はため息を吐いた。
0
お気に入りに追加
959
あなたにおすすめの小説
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。
レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。
田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。
旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。
青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。
恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!?
※カクヨムにも投稿しています。
【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する
花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。
俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。
だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。
そんな俺に一筋の光明が差し込む。
夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。
今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!!
★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。
※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる