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東の大陸蹂躙

魔王討伐の軌跡 もう一人の勇者

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 僕は要らないと思うんだ。
 どう考えても……こいつを生かした先の未来がよくなるはずがない。

 だから僕は、ゆっくりと野太刀を前へと進める。
 人間を殺せるのが嬉しくてたまらない……ほら……もっと叫べよ……喚き散らせ……。

「や……いやだ! やめろ! やめろよ! 痛い! いてぇよ! おい! おい! やめろって言ってるだろ!!」

 勇者が刀身の腹を手で押さえて力尽くで折ろうとした。
 しかし、そのステータスの高さでも折ることは叶わず、ブレた切っ先が胸の傷を広げていく。

「いっ!」

 もう心臓の目の前まで刺さってしまった傷に耐えかねて勇者の顔が歪む。
 僕はゆっくりと勇者の手を退けて、切っ先を横へとスライドさせた。
 その切れ味の良さから、勇者の胸の肉はスルスルと切り裂かれ、右の胸までたどり着くと痛みに耐えて叫ぶ勇者の声が僕を愉悦へと誘う。
 そして、ゆっくりと右胸を突き刺していけば、勇者は口から大量の血を吐いた。
 真っ赤な血が野太刀を赤く染める。
 仮にも勇者の血だ……野太刀への供物には丁度いいだろう。

 このまま時間が経てば、勝手に絶命するだろう勇者の最後は……自分で命を絶っていただこう。
 勇者が持っていた剣をその手に持たせ、首元に刃を置き、もう片方の手で反対の刃を押しながら押して引いてを繰り返す。
 勇者の持っていた剣もなかなかの切れ味のようで、押している手は骨まで食い込み、首はもう半分ほど切れてしまった。
 気道を傷つけたようで息ができないようだ。

 僕は苦しむ勇者の顔を見ながら……その最後を見届けた。

 拘束を解き、倒れこんだ勇者の頭を踏み潰す。
 床には血溜まりと脳味噌の飛び散った汚物が撒かれてしまった。

「あーあ。汚れちゃった……」

 僕が汚れた靴にげんなりしていると、もう一組、呼び寄せておいた勇者が到着した。
 ずっと監視していたライトと、その勇者だ。

 扉を開けて入ってきたと思えば、僕を見るなり切りかかってきた勇者。
 とてもいい判断だと思う。
 僕も野太刀で応戦した。

「振りを止められたのは初めてですね……あなたが魔王ですか?」

 ギリギリと鍔迫り合いをしながら勇者は軽口を叩く。自信満々といった感じで僕を見定めているようだ。

「はぁ……そうだけど。急になんなの?」

「あれ? あなたが呼んだんですよね? 泊まっていた宿に可愛らしいコボルトを使いに出して、ここに来るように言ったんじゃないんですか?」

「そうだけど……なんで急に切りかかってくるんだよ」

「それは……この状況を見れば、戦うために呼んだのかなって」

「えー、違うんですけど」

「ふふ、でも、そんなことどうでもいいです」

 勇者は優しい笑みを浮かべてそう言った。
 確かにそうだ。
 そんなこと……どうでもいい。
 僕も自然と笑みが零れる。

「おまえも転生者か?」

「はい。そうですけど」

「俺もだ」

「へー。魔王になれたんですか……いいですね!」

「ああ……とてもな」

「じゃ、次はこれです!」

 目の前にいた勇者は力一杯僕を押し返し、くるりと野太刀を躱して引くように僕の胴に剣を振るった。
 しかし、刃物での攻撃を完全に防ぐだけでなく、衝撃を反射する僕のローブがその攻撃を跳ね返す。

「うわっ!」

 思いもよらない反動に勇者はよろめき、後ろに飛んで体制を立て直した。

「なですかそれ?」

「ドワーフの力作さ」

「この世界にはドワーフもいるんですか……そっかー、楽しみだなぁ」

「おまえは見ることなんてできないけどな」

「そんなのわからないじゃないですか」

「……こんな話、勝ってから僕以外の者と話せ」

「うーん、そうですね」

「おまえが勝つ事なんてないけどね」

「それはどうですかね……」

 勇者は溜めを作り、剣に魔力を込めていく。
 すると、頭身は緑色に輝きその光量を増していく。緑色って事は風の魔剣といったところだろうか?
 僕はなかなかに長い溜め動作にあくびが出てしまった。

「随分余裕なんですね」

「魔王だからな」

「意味がわからないです」

「そうか?」

「行きますよ!」

「ああ。早く来い」

 勇者が地を蹴って飛び出す。
 先程の一撃が悔しかったようでまたしても胴をめがけて切りかかってくる。
 しかし、魔力を帯びた剣ですらドワーフの防具を貫くことはできずに勇者は弾き飛ばされてしまった。

「……大丈夫か?」

「……その防具、ズルイですよ」

「そうだな。僕も作った時は驚いたよ」

「だったら頭を潰します!」

「おう、やってみろ」

 次は僕の頭をめがけて突きを放ってきた。
 力の差を教えてやるために、野太刀で軽く剣筋をズラし、飛び跳ねてしまった勇者の目の前に刃先を置く。このまま自重でどこまで切れるか楽しみだ。
 空中で進路は変えられないだろうと思っていたが、風魔法を使って上手いこと横に逸れたようだ。

 ズザーっと滑るように止まり、勇者はこちらを見ていた。

「……強すぎません?」

「魔王だからな」

「またそれですか」

「でも、これが全ての答えだ」

「横着過ぎるでしょ」

 この勇者は常にポーカーフェイスで、優しく微笑んだような表情を崩さない。

「ふ……そうだな。それで……おまえの方はそれで終わりか? そろそろこちらから行かせてもらってもいいのかな?」

「え? どうぞ?」

 なに食わぬ顔で僕を見下したような言い草。
 これだけの力量差を見せつけたはずなのにその反応は流石におかしい。
 だから僕は、勇者の肩付近の空間と僕の指先をつなげてそっと触れた。

 //
 職業 勇者 lv860
 名前 マコト・カリザキ 
 生命力 3000
 攻撃力 910
 防御力 120
 魔力  820
 魔攻  810
 魔防  80
 素早さ 910
 幸運  120

 スキル
 痛みを返す者(受けたダメージをその者へと返す) 死者の恩恵(死人となった時に発動・魂を1時間留める) 憑依(生者(人間)に憑依することができる・憑依した依代をマコト・カリザキに変える) 剣聖の極意(剣技極大) 風魔法(無詠唱)
 //


 こちらの勇者の方が相当に厄介そうだ。
 僕はため息を吐いた。
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