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西の大陸蹂躙

心に傷を負ったエルフのために魔王がしたこと エルフの里に巣食う不幸の連鎖

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 エルフを守るために、僕はこの里に来て、クザンを殺し、公爵を殺し、リッカを泣かせたやつを殺せばいいと考えていた。
 しかし……エルフの里に根付く悪癖は、複雑に絡み合う忌まわしい運命に翻弄され、解けぬほどに固く縛られていた。

「チッ……」

 僕は腕を組んで目をつぶり、状況を整理する。
 もう面倒だからサクッと殺そうかとも思ったが、救うと言った手間、それではカッコ悪い。
 しかし、考えるのすら面倒で、なんで僕に自白を強要するようなスキルがないんだと落胆していた。そもそも、目的が皆殺しならそんなものは必要ないのだが……。

 それで、ちょっと心配になって隣のクズを触ってみたが……こいつはクズだったので安心する。

 それから、口ごもっていた公爵がようやくバーディについて吐き出したのが、どうでもいいこと過ぎて、またしても落胆することになった。

「わ……私も、バーディの呪いについては詳しくないんだ……呪われた者に命令できるとしか……」

「そうか」

 まあ、ステータスを見れないのであれば仕方ないかと諦める。
 これで、大体の状況は把握したので、僕は確認できそうな事実を一つ一つ潰すことにした。

「あー、ちょっと……フェリ、いい?」

 僕は手招きしてフェリを呼び、抱きしめた。
 バーディの呪いの効果を確かめるためだ。

 //
 職業 エルフの魔女 lv568
 名前 フェリアーラ・レア 
 生命力 5700
 攻撃力 280
 防御力 400
 魔力  610
 魔攻  500
 魔防  540
 素早さ 370
 幸運  210

 バッドステータス
 エルフの里拘束

 スキル
 空間を制す者(周囲2m) エルフの結界(自レベル以下攻撃完全防御・魔法陣連結範囲1km) 風属性魔法 治癒魔法(中) 投擲(精度大) 射撃(精度大) 
 //


「え? ちょ!? 魔王様??」

 なるほど、こうなるのか。

「うん……ありがとう」

 僕はフェリを優しく解放してお礼を告げる。

「い……いえ」

 ちょっとフェリの顔が赤くなっている。
 俯いて、落ち着かない様子はなかなかに目の保養となった。

 このままなにも考えずにフェリといちゃいちゃするのもいいのだが……まあ……それは置いといて……あと、確かめたいことが二つ。
 まずはすぐ答えが出る方から。

「クザン、悪い」

「あ? ブフォ……痛え! なんだよいきなり」

 僕は死なないように優しく、優しくクザンを殴った。
 とりあえず大丈夫そうで安心した。
 周りのエルフたちが、まるで信じられないものでも見たかのように驚いている。

「ふむ……」

「ふむじゃねぇよ」

 精神操作の効果は絶大で、彼はなにも怒りはしない。
 次はエルフにやらせねばいけないのだが……。
 その役目を僕は、ここのところ妙に避けられているリッカに声をかけた。

「リッカ! ちょっといいか?」

「……」

 聴こえているはずなのに、なぜか返事もせず俯いている。
 仕方がないので、リッカのもとまで赴き、肩を抱いて話しかけようとするも、リッカはビクっと跳ねるように驚いて、僕の腕を解くように前へと移動した。

「どうしたんだ?」

「……う……ううん……なんでもない。なに?」

 なんでもなくはないのだろうが、まあ、今はいいだろう。

「クザンを殴ってくれ。拘束してあるから問題ない」

「え? う……うん。わかった」

 リッカは恐る恐るクザンの前に立つ。

「おいおい、こりゃなんの真似だよ……めんどくせぇ」

 わけもわからず、殴られ損のクザンは悪態を吐き、リッカを見下すように睨んでいた。

「ほ……本当に大丈夫?」

 絶賛へっぴり腰のリッカ。
 なにをしても躱されてしまう相手であり、攻撃と同時に四肢を吹き飛ばされてしまうほどの強敵相手にビビらない方がおかしいだろう。

「ああ、問題ない。リッカの力じゃ傷一つつかないから。拳を傷めないようにな」

「……その言い方、なんか釈然としないけど……えい!」

 リッカの拳はクザンに届いたが、クザンの方は蚊が止まったかのように微動打にしない。
 しかし……クザンの顔色はみるみる変わっていき、リッカを激しく睨みつけると……

「なにしてくれてんだこのアマ!! ぶっ殺してやるからかかってこいよ!! ああ!?」

「きゃあ! なになに!? ちょっと! 全然大丈夫じゃないじゃない!!」

 クザンの罵声に飛び上がって驚き、僕に文句を言いながら逃げ帰ってきたリッカ。
 僕はクザンを見て立ちすくむリッカの肩を叩き、お礼をして戻ってもらった。

 とりあえず、この件はこれでいい。
 そしたら次だ。

 クザンの罵声をBGMに、今度は公爵の前に移動した。公爵にしかできないことをしてもらう。

「んじゃ、公爵……いや、アラン君……君はクザンの娘さんと、離れていても会話できるようだけど、ここに呼んでみてくれないか?」

「え? いや、そんなことは……やったことが……」

「いいから、魔道具に向かってとか、クザンの娘に届くように気持ちを込めながらとか、とにかくなんかしてみろよ」

「あ……ああ、わかった。ミラ……エルフの里へ来い……ミラ……エルフの里へ来い」

 アランはクザンの娘に命令する。
 そして僕は、ガーゴイルをエルフの里へと配備し、アインケルンへと扇状に飛ばした。
 エルフの里へと向かう人影がいないか大量のガーゴイルを使い、人海戦術で捜索。
 すると、いかにも怪い人影が、馬に乗ってエルフの里へと一人で向かっていた。
 意外と近くにいたようで、あの速さなら、あと数時間で到着するだろう。

 これで、懸念材料はなくなった。
 あとは、どう料理するかだが……

「おい、クザン。娘はまだ生きてたみたいだぞ?」

「ああ!? そうかよ! それより、あのアマ殺させろ!」

 鼻息荒く、僕に突っかかるクザン。
 ま、今の暴言は許そう。
 この次に暴言を吐いたら殺すが。

「じゃあ、クザン。おまえを解放する。そのあとまた、あの子に暴言を吐いたら殺す以上のお仕置きが待っているから覚悟するように」

「んだよ! ぐちぐち言いやがって! 早くこの拘束を解け! このや——」

 暴言を吐き続けるクザンの胸へと手をやると、僕は呪いを解除する。
 魔王の魔を生み出す者スキルが、他者の呪いに負けるわけもなく、あっさりとクザンを縛っていたバーディの呪いを解いた。

「……おい……おまえ……俺になにした」

 どうやら、本人にもわかるくらいに実感が湧いたようだ。

「おまえを蝕んでいた呪いを解いた」

「んな簡単に解けるもんだったのかよ」

 クザンは自分の体を確認するように見回している。

「いや、そこそこ強力だったぞ?」

「じゃあなんでおまえが解けるんだよ」

「魔王が他者の呪いに負けるわけがないだろう?」

「ふん! そうかよ」

「まだあの子を殺したいか?」

「……いや。今はそんな気になんねえ」

「じゃあ、もう一発喰らえ」

「ああ、大丈夫だと思うぞ」

 これで問題なければ、クザンは大丈夫だろう。
 話をしている限りでは、そこそこ人格者だったしな。

「リッカ!」

「うぅ……またやるの?」

「今度は本当に大丈夫だから!」

「わかったわよ!」

 先ほどよりも恐る恐るクザンの前へと移動して、リッカは震える拳をクザンに繰り出した。

 そして、リッカの拳はクザンの脇腹にヒットする。

 しかし……クザンはプッと吹き出すようにして破顔した。

 傀儡だった男は、やわやかな笑みを浮かべていた。
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