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西の大陸蹂躙

クズの末路 11 フィナーレ 繰り返される悲劇のヒロイン

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 疲れ切った顔で部屋を出てきたライトとララ。
 二人の表情は、疲労を感じさせながらも、とても幸せに満ちていた。

 ライトは興奮冷めやまぬ面持ちで魔王のいる玉座へと目をやると、豪華な衣装に身を包んだリッカと、二体の巨大ななガーゴイル、そして、人と同じくらいの大きさのガーゴイルを目にした。
 その様子は、これから始まるテオの処刑を意味しているものだと理解できた。

「おめでとう! 素晴らしい働きだった!」

 ライトは褒められ、言い表せられないほどの高揚感に包まれる。
 憧れてしまった魔王様に褒められた……それは、先ほどの快楽にも負けないくらいライトに優越感を与えた。

「ありがとうございます!」

 魔王の前で跪き、忠誠を誓う。
 ライトは人生の絶頂を味わっていた。

「では……」

 魔王が短く言葉を発すると、ガーゴイルが部屋にいるテオを連れ出す。
 跪いたライトの目の前にテオが膝をつき、胴を前に倒された。
 虚ろな目が、ライトを見上げていた。

 これから行われるテオの処刑を最前列の特等席で見守る権利を与えられたライト。
 今まで共に旅をしてきた仲間は、もうすぐ事切れるのだ。

 魔王はリッカを強く抱き寄せ、玉座から立ち上がると、テオの罪状を述べる。

「この者は、クズである。魔王である私に暴言を吐いた。それも、看過できないような身勝手な暴言を。よって、斬首とする」

 短く語られた罪状は、とてもシンプルで、およそ死罪には及ばないんじゃないかという横暴な物だった。
 しかし、その横暴な大義は、どんな時にも死罪の可能性をはらむと予見させる恐怖を植え付ける。

 魔王が手を上げれば、小さなガーゴイルが斧を振り上げる。
 あとは、腕を下ろせばテオの首が地に落ちるだろう。

「ふっふっふ……クックック……あーっはっはっはっは!!!……ひーっひっひっひ!」

 手を振り上げたまま突然大声で笑う魔王。
 焦らしているのだろうか? しかし……違う。このような笑い方を幾度か見たことがあった。
 その全てで、極度の絶望で身を焦がした記憶が疼く。
 いったい何が始まるのか?
 斬首では終わらないと、ライトの防衛本能が悲鳴を上げ始めていた。

「テオ、最後に思いの丈を述べる機会を許そう」

 ふっと……テオの顔に生気が宿り、突然溢れ出る涙と共に怒声が響き渡る。

「クソがぁぁ!!! ライト!!! テメェは絶対殺す!! 何が何でも殺してやる!! 魔王!! お前もだ!! クソ!! クソ!! ああああああああああ!!!!! 死ね! 死ね! 死ね!!! みんな殺してやるからな!!!」

 ライトに飛び込んできたテオの壮絶な恨みごと。
 聞くに堪えない言葉の羅列は、ライトに憐れみの心を宿した。
 いくら叫ぼうとも抗えない死。
 いくら虚勢を張ったところで変わらない運命。
 テオのその全ての行いが、憐れだった。

 そして、テオが叫び疲れたひと時の静寂。
 そこに響いたのは魔王の声だった。

「そして、ララ、おまえにも、その機会を与えよう」

「え?……」

 魔王が何を言いたいのかわからなかった。
 なぜララが?

 瞬間、ララはライトの元を離れ、テオへと駆け寄った。

「テオ! テオ! ごめんなさい! ごめんなさい! 私は……私は……あああああああ!!!」

 ララはテオに覆いかぶさるように泣き叫び、謝罪を繰り返す。
 ライトには、なにを言っているのかわからなかった。

 なぜそこまでテオを擁護するのか?
 テオは何もせず、君は私を受け入れてくれたのではないのか?

 全てを奪ったはずだった。
 
 しかし、この光景はその事実を曖昧にする。

「ララ……? ララは私を選んでくれたのではないのか?」

 絞り出すように出した声は、ララの怒声によってかき消された!

「ふざけないで!! 私はテオの婚約者なのよ!! テオを愛しているの!! あなたのような底辺の孤児とはわけが違うのよ!!! 彼は勇者なの!! 貴方のような力だけで成り上がっただけの野蛮人なんかじゃないの!!! テオ! テオ! ごめんなさい! ごめんなさい! 私を許して……あああああ!!!」

 悲痛な表情で罵られた。
 彼女はテオのために泣いている。
 テオは……何も言わずに、ただじっと歯を食いしばりながら……溢れる涙を隠さず、こちらを睨んでいる。

 求めるように差し出してしまった手が震えていた。
 あんなに求め合った過去を捻り潰された。
 あの部屋で起きた全てが……嘘だったのだ。

「……残念だ。ライトよ……じつに残念だ」

 魔王が私に落胆している。
 いったいなぜ……

 そして、はっと思い出す。
 魔王の言葉を。

 奪わないなら、ララも殺す。

 そうだ、たしかにそう言われて部屋に入ったのだ。

 奪えなかった。

 自分はララを奪えなかった。

 だから……?

 ララは……

 殺す……

 殺されてしまう。

 理解した途端、自分の体は動かなかった。
 なにかに押さえつけられているかのようになにもできない。
 声も出せず、泣き叫ぶララと、苦悶の表情を浮かべるテオを見せつけられていた。

 ライトは、容赦を叫ぶことすら許してもらえなかった。

「では——」

「——待って!! 待ってください!! どうか! どうか魔王様!! 慈悲を! テオに慈悲を!!」

 ララが僕の言葉を遮り、額を地につけ、意地汚く容赦を求めていた。

「どうか! どうか!! ああ……」

 僕は堪らず笑みを浮かべ、泣き崩れるララに最後の言葉を捧げる。



「おまえは、ガーゴイルを救うことなどしないだろう?」



 ぐしゃり……

 音がした。

 ゴン! と、大きな音の後、叩きつけたそれから斧を引き上げる音だった。

 生々しいその音は、死を意味していた。

 床には、美しかった彼女が、ひれ伏した状態で頭を潰されていた。

 ライトの自尊心を高揚させた血が、今は床を染め上げている。

 潰されたのはララだった。

 先ほどまで、快楽を共にした相手。

 奪ったと思った最愛の女が、他の男のために死んだ。
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