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3部 精霊女王の〝首狩り馬〟 編
91話 夜の精霊界
しおりを挟む ルゴプス・アンフィスバエナ。
それは【ドラゴンズ・ティアラ】のファンならば誰もが嫌悪する、作中最悪の悪役だ。
このキャラクターはクズの中のクズと言って遜色ない。
ネルヴァがまだかわいく見えるほどの、ありとあらゆる悪に手を染めて災厄をまき散らす、悪意と傲慢の結晶体そのものだ。
ヤツはここアンフィス王国の第二王子、さらに魔法学院の生徒会長である立場を利用して、これから暴虐の限りを尽くすことになる。
本来、関わるべき人物ではない。
敵対関係となってしまう主人公に全てを任せてしまいたい、最悪の敵だ。
しかしこのルゴプス王子は、俺とメメさんが愛するミシェーラ皇女を狙っている。
ルゴプス王子の狙いは皇帝家への婿入りだ。
自分が次の皇帝となって、世継ぎである兄を追い落とし、最終的に世界を我が物とする。そんな馬鹿げた夢のために、これから多くの者が犠牲になる。
当然、主人公の座を横取りするならば、この最悪の悪役との敵対関係が必要となる。それが多くのイベントのトリガーとなる。
とはいえ俺にはミシェーラ皇女との友好関係があるので、既に敵視されている可能性も高い。
しかし念には念を入れて、主人公登場前に、ルプゴス王子との敵対イベントをこれから起こす。
このイベントのトリガーとなるのは、クラスメイトであり攻略キャラであるコルリ・ルリハだ。
ルプゴス王子は邪魔者であるコルリを生徒会から追放するために、彼女を卑劣な罠にかける。
このイベントは主人公の転入前から既に始まっているはずだ。
かくして4月13日。
コルリの良くない噂を耳にした俺は、ライバル関係強奪のためにコルリに接触した。
「おまえー、なやみとかー、あんのー?」
「え……っ」
とはいえあまり接点のないクラスメイトだ。
男性恐怖症気味の彼女との接点を持つには、まおー様という『ぷにぷに』の緩衝材が必要不可欠だった。
コルリは教室に独り残り、悲しそうに教室の黒板を見つめていた。
「ワレ、まおー。おまえのはなし、きかせろー?」
「まおーさん、ですか?」
「さまをつけろよー、でこすけやろー」
「わ、私っ、そんなにオデコちゃんじゃないです……っ」
と言いながらも額を抱えられると、教頭ではないがまあ気になってしまう。
てか頼むよ、まおー様、話が脱線してるってっ。
「なやみ、あんだろー? きいてやるよー」
「スライムさんにはわかりません……」
「ワレ、さわっていいからさー。さっさと、はなせ、めんどくせーなー」
ぷにぷにのスライムに触っていいと言われたら、それは当然触る。
コルリ・ルリハはまおー様のヘブンな触り心地に目を広げた。
「私、やってません……。お金なんて、盗んでません……」
「おうー、それ、つれーなー……」
コルリ・ルリハのエピソードはそういう話だ。
最初からぶっちゃけてしまうと、コルリは最悪のルプゴス王子に冤罪を着せられた。
「装備共同購入制度のお金を、私が盗んだとみんなが言うんです……」
「そっかー。でもなー、ワレにはなー、そうはみえねーなー」
「ありがとう、まおー様……」
「なんか、ムカつくなー。なんかー、やだなー、そういうのー」
装備共同購入制度というのは、何かと高価な武器防具を学生が少しでも安く購入するための仕組みだ。
共同購入者が集まるまで1~3ヶ月がかかるが、人さえ集まれば市場価格の7~9割ほどのお値段で武器防具が買える。
この制度は購入前に代金を積み立てる。
代金は金属製の【空色の小箱】に積められ、学校側が大切にこれを保管する。
「そのお金がね……消えてしまったの……。私は確かに先生に渡したはずなのに、保管中に箱の中から、お金が消えてしまったんですって……」
「えーー? ならおまえー、わるくないと、おもーけどなー?」
「箱を開けるには、パスワードが必要なの……。そのパスワードを知っているのは、業者の人か、私か、私に任せた生徒会長さんしかいないの……」
「へへへー、ワレ、はんにん、わかったー。はんにんは、せーとかいちょー、だな」
「そう、なのかしら……」
普段、あれだけ温厚な少女コルリが人を疑う顔をした。
だがまおー様の推理には穴がある。生徒会長ルプゴス王子にはアリバイがあった。コルリも同じことをまおー様に説明した。
「それ、うら、あんなー」
「裏、ですか……?」
「だってさー、べつにさー、せいとかいちょーが、じっこーはん? ならなくても、いいしなー?」
「あ、言われてみれば……そうですね……?」
「ぱすわーど? ほかのやつにさー、おしえれば、いいだろー? だったらアリバイなんて、いみねーし」
まおー様、やるな。
今回の事件、ぶっちゃけてしまうとその通りだ。
今回の事件の実行犯は若い用務員の男だ。
ルプゴス王子は普段から飼っていたこの男にパスワードを教え、金を盗ませた。
生徒会から書記コルリを追い出し、もっと操りやすい腐った人間に交代させるために。
「私、どうすればいいんでしょうか……」
「へへへー、ワレが、たすけてやろーかー?」
「え、まおー様が……?」
「ワレ、こーみえてなー、つかえるこぶん、もってんだよなー」
「子分がいるんですかっ、そのお姿で!?」
「よぶかー? よんでやろーかー? あたま、まあまあいいし、つえーし、けっこー、つかえるぜー?」
「もう……なんでもいいです……。助けて下さるなら、もう誰でもいいです!! 助けて下さい、まおー様っ!!」
「だってよー、さっさとこいよなー、ヴァレリウスー」
「えっっ、ヴァレリウスくんっ?!」
子分扱いがちょっとしゃくだが、なかなか面白い切り口だった。
俺はのぞき見を止めて本校舎2階に壁をすり抜けると、コルリとまおー様のいる教室にノックをしてから踏み入った。
「待ったか、まおー親分」
「へっ、これ、よべばくるやつなー。なまえ、ヴァレリウス」
「調子に乗るな。……あー、ご紹介に与りました、ヴァレリウスだ」
コルリさんは男性恐怖症だ。
女の子同士なら無邪気に笑える女の子だが、男を前にするとてんでダメだ。
そんないたいけな女性が恐怖にひきつった目で俺を見る。
3回も攻略したのに、現実の好感度はゼロどころかマイナスだった……。
「よ……よろしく、お願いします……」
「話はまおー様から聞いた。その、テレパシー的な、何かで。……とにかく、まおー様の忠実な下僕である俺が、この事態を解決してみせよう」
これは俺が主役になるより、まおー様を立てた方が話が早いな。
俺が下僕と認めたことがそんなに嬉しいのか、まおー様は高々と跳ねて喜んでいた。
「うまくやれよー、めーたんてー。コルリのためにー、どれーとなって、はたらけよなー?」
安心したようにコルリがまおー様に微笑んだ。
コルリさんは冤罪を着せられ、いつ退学させられるかもわからない立場だ。
その微笑みには黄金よりも高い価値があった。
「まおー様のお言葉のままに。では、俺は調査に向かいますので、明日あらためてご報告を」
「ほらねー、ワレの、ちゅーじつな、こぶんでしょー? ワレ、きょうはコルリとー、ねたいなー? だめかー?」
「い、いえっっ、ぜひご一緒して下さい! 部屋に独りだと、胸が、潰れてしまいそうで……」
「へっ、ワレがあたためてやんよー、べいべー」
ディスプレイ越しに見ていた頃は、これは結局のところ介入の出来ない別世界の出来事だった。
だがこうしてこの世界に立ち、実際に事案を目の当たりにすると無性に腹が立つ。
生徒会を我が物にするために、なぜ真面目な女子生徒を退学まで追い込む必要があるのか。
ルプゴス・アンフィスバエナ王子ってやつは相当にヤバい。コイツは人の破滅を楽しんでいる。
俺は今日だけまおー様の下僕として、事件をスピード解決させるべく動き出した。
それは【ドラゴンズ・ティアラ】のファンならば誰もが嫌悪する、作中最悪の悪役だ。
このキャラクターはクズの中のクズと言って遜色ない。
ネルヴァがまだかわいく見えるほどの、ありとあらゆる悪に手を染めて災厄をまき散らす、悪意と傲慢の結晶体そのものだ。
ヤツはここアンフィス王国の第二王子、さらに魔法学院の生徒会長である立場を利用して、これから暴虐の限りを尽くすことになる。
本来、関わるべき人物ではない。
敵対関係となってしまう主人公に全てを任せてしまいたい、最悪の敵だ。
しかしこのルゴプス王子は、俺とメメさんが愛するミシェーラ皇女を狙っている。
ルゴプス王子の狙いは皇帝家への婿入りだ。
自分が次の皇帝となって、世継ぎである兄を追い落とし、最終的に世界を我が物とする。そんな馬鹿げた夢のために、これから多くの者が犠牲になる。
当然、主人公の座を横取りするならば、この最悪の悪役との敵対関係が必要となる。それが多くのイベントのトリガーとなる。
とはいえ俺にはミシェーラ皇女との友好関係があるので、既に敵視されている可能性も高い。
しかし念には念を入れて、主人公登場前に、ルプゴス王子との敵対イベントをこれから起こす。
このイベントのトリガーとなるのは、クラスメイトであり攻略キャラであるコルリ・ルリハだ。
ルプゴス王子は邪魔者であるコルリを生徒会から追放するために、彼女を卑劣な罠にかける。
このイベントは主人公の転入前から既に始まっているはずだ。
かくして4月13日。
コルリの良くない噂を耳にした俺は、ライバル関係強奪のためにコルリに接触した。
「おまえー、なやみとかー、あんのー?」
「え……っ」
とはいえあまり接点のないクラスメイトだ。
男性恐怖症気味の彼女との接点を持つには、まおー様という『ぷにぷに』の緩衝材が必要不可欠だった。
コルリは教室に独り残り、悲しそうに教室の黒板を見つめていた。
「ワレ、まおー。おまえのはなし、きかせろー?」
「まおーさん、ですか?」
「さまをつけろよー、でこすけやろー」
「わ、私っ、そんなにオデコちゃんじゃないです……っ」
と言いながらも額を抱えられると、教頭ではないがまあ気になってしまう。
てか頼むよ、まおー様、話が脱線してるってっ。
「なやみ、あんだろー? きいてやるよー」
「スライムさんにはわかりません……」
「ワレ、さわっていいからさー。さっさと、はなせ、めんどくせーなー」
ぷにぷにのスライムに触っていいと言われたら、それは当然触る。
コルリ・ルリハはまおー様のヘブンな触り心地に目を広げた。
「私、やってません……。お金なんて、盗んでません……」
「おうー、それ、つれーなー……」
コルリ・ルリハのエピソードはそういう話だ。
最初からぶっちゃけてしまうと、コルリは最悪のルプゴス王子に冤罪を着せられた。
「装備共同購入制度のお金を、私が盗んだとみんなが言うんです……」
「そっかー。でもなー、ワレにはなー、そうはみえねーなー」
「ありがとう、まおー様……」
「なんか、ムカつくなー。なんかー、やだなー、そういうのー」
装備共同購入制度というのは、何かと高価な武器防具を学生が少しでも安く購入するための仕組みだ。
共同購入者が集まるまで1~3ヶ月がかかるが、人さえ集まれば市場価格の7~9割ほどのお値段で武器防具が買える。
この制度は購入前に代金を積み立てる。
代金は金属製の【空色の小箱】に積められ、学校側が大切にこれを保管する。
「そのお金がね……消えてしまったの……。私は確かに先生に渡したはずなのに、保管中に箱の中から、お金が消えてしまったんですって……」
「えーー? ならおまえー、わるくないと、おもーけどなー?」
「箱を開けるには、パスワードが必要なの……。そのパスワードを知っているのは、業者の人か、私か、私に任せた生徒会長さんしかいないの……」
「へへへー、ワレ、はんにん、わかったー。はんにんは、せーとかいちょー、だな」
「そう、なのかしら……」
普段、あれだけ温厚な少女コルリが人を疑う顔をした。
だがまおー様の推理には穴がある。生徒会長ルプゴス王子にはアリバイがあった。コルリも同じことをまおー様に説明した。
「それ、うら、あんなー」
「裏、ですか……?」
「だってさー、べつにさー、せいとかいちょーが、じっこーはん? ならなくても、いいしなー?」
「あ、言われてみれば……そうですね……?」
「ぱすわーど? ほかのやつにさー、おしえれば、いいだろー? だったらアリバイなんて、いみねーし」
まおー様、やるな。
今回の事件、ぶっちゃけてしまうとその通りだ。
今回の事件の実行犯は若い用務員の男だ。
ルプゴス王子は普段から飼っていたこの男にパスワードを教え、金を盗ませた。
生徒会から書記コルリを追い出し、もっと操りやすい腐った人間に交代させるために。
「私、どうすればいいんでしょうか……」
「へへへー、ワレが、たすけてやろーかー?」
「え、まおー様が……?」
「ワレ、こーみえてなー、つかえるこぶん、もってんだよなー」
「子分がいるんですかっ、そのお姿で!?」
「よぶかー? よんでやろーかー? あたま、まあまあいいし、つえーし、けっこー、つかえるぜー?」
「もう……なんでもいいです……。助けて下さるなら、もう誰でもいいです!! 助けて下さい、まおー様っ!!」
「だってよー、さっさとこいよなー、ヴァレリウスー」
「えっっ、ヴァレリウスくんっ?!」
子分扱いがちょっとしゃくだが、なかなか面白い切り口だった。
俺はのぞき見を止めて本校舎2階に壁をすり抜けると、コルリとまおー様のいる教室にノックをしてから踏み入った。
「待ったか、まおー親分」
「へっ、これ、よべばくるやつなー。なまえ、ヴァレリウス」
「調子に乗るな。……あー、ご紹介に与りました、ヴァレリウスだ」
コルリさんは男性恐怖症だ。
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「よ……よろしく、お願いします……」
「話はまおー様から聞いた。その、テレパシー的な、何かで。……とにかく、まおー様の忠実な下僕である俺が、この事態を解決してみせよう」
これは俺が主役になるより、まおー様を立てた方が話が早いな。
俺が下僕と認めたことがそんなに嬉しいのか、まおー様は高々と跳ねて喜んでいた。
「うまくやれよー、めーたんてー。コルリのためにー、どれーとなって、はたらけよなー?」
安心したようにコルリがまおー様に微笑んだ。
コルリさんは冤罪を着せられ、いつ退学させられるかもわからない立場だ。
その微笑みには黄金よりも高い価値があった。
「まおー様のお言葉のままに。では、俺は調査に向かいますので、明日あらためてご報告を」
「ほらねー、ワレの、ちゅーじつな、こぶんでしょー? ワレ、きょうはコルリとー、ねたいなー? だめかー?」
「い、いえっっ、ぜひご一緒して下さい! 部屋に独りだと、胸が、潰れてしまいそうで……」
「へっ、ワレがあたためてやんよー、べいべー」
ディスプレイ越しに見ていた頃は、これは結局のところ介入の出来ない別世界の出来事だった。
だがこうしてこの世界に立ち、実際に事案を目の当たりにすると無性に腹が立つ。
生徒会を我が物にするために、なぜ真面目な女子生徒を退学まで追い込む必要があるのか。
ルプゴス・アンフィスバエナ王子ってやつは相当にヤバい。コイツは人の破滅を楽しんでいる。
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