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3部 精霊女王の〝首狩り馬〟 編
82話 準備を手伝うメイベルは
しおりを挟む 少し前の事、デリックと対面する前に私とレオナードは事前対策の為に恋愛小説を読み漁った。
その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。
他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
…………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?
薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。
そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。
仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。
もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。
そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。
…………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。
「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」
そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。
「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」
結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。
そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。
ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。
長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。
「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」
レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。
もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。
そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。
と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。
本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。
まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。
と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。
「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」
少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。
「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」
ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。
「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」
ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。
けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。
それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。
他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
…………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?
薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。
そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。
仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。
もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。
そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。
…………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。
「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」
そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。
「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」
結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。
そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。
ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。
長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。
「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」
レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。
もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。
そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。
と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。
本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。
まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。
と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。
「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」
少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。
「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」
ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。
「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」
ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。
けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。
それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
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