精霊魔女のレクイエム

百門一新

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2部 ヴィハイン子爵の呪いの屋敷 編

53話 そこにあったものは

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 一旦、現場を離れた後、案内するスティーブンの後ろをメイベルは黙々と歩いていた。

 その思案顔は、引き続きずっと何かを考え続けているようだった。彼は何度かチラリと窺ったものの、歩くペースを合わせつつ質問は投げ掛けなかった。

 少しもしないうちに辿り着いたのは、バルツェの町の墓地だった。夕刻の日差しを受けた墓石は侘びしく佇み、土は所々荒れて抉られている箇所も見受けられた。

「きちんと管理されてないのか?」

 墓の管理者はいないんだろうか、とスティーブンはチラリと眉を寄せて口にする。到着してもメイベルがだんまりしている事もあり、目的もなく墓地内を真っすぐ進んだ。

 ふと、侘びしい色彩の中で、彼が目を引かれて立ち止まる。

「新しい花が添えられているな」
「――そうだな」

 ようやく声を出したメイベルは、目に留めたままそちらへと足を進めた。大きな一輪の黄色い花が供えられている墓の前で足を止めると、その墓石をじっと見つめる。

 そこには、オリーヴィア・バティスと刻まれていた。

 その墓石は、この墓地内で唯一真新しいようだった。名前は女性のものだが、家名があの弟と同じであると気付いたスティーブンが、「あ」と声を上げた。

「他に兄弟がいるとは聞いてないし、これ、最近亡くなった『兄の婚約者』の墓じゃないか?」

 言いながら、しげしげと墓石に彫られた字を覗き込む。

「死後に籍を入れたのか……、随分愛していたんだな」

 婚姻申請中であれば、本人の希望によってそのまま入籍が受理され『妻』として葬儀・埋葬が行われる事もある。同じ墓に入るべく、そうする者も少なくない。

 そうなると、結婚間間近だった事も想像される。ジュゼの兄の婚約者の死を語っていた町人の男が浮かべていた表情は、そんな事情もあっての事だったのかもしれない。

 しばし、死者に黙祷を捧げるように二人は黙っていた。

 やや冷たい風が墓場に吹き抜ける。近くの木々から運ばれてきた枯れ葉が、小さな音を立てて土の上を転がっていった。

「そういや、ジュゼは普段から出歩いているんだよな」

 ふと、スティーブンが思い出してそう言った。

「もしかしたら散歩がてら、この墓に花を添えたのかもしれな――」
「花を供えたのは、恐らくは彼じゃない」

 ぴしゃりと上がった声が、スティーブンの言葉を遮った。

 普段よりも固い口調で言われた彼が、自分よりも低い位置にあるメイベルのフード頭へと目を向ける。

 墓地の様子を見た時から、メイベルはどこか思い詰めたような気配を滲ませていた。彼女は視線も返さず「いいか」と言い聞かせるような声を出して、ゆっくりと動き出す。

「【いにしえの悪精霊】のもう一つの特徴は」

 言いながら、供えられている花に手を伸ばした。

「急速な劣化」

 幼さのある白い指先が、墓石に横たえられているその花弁に触れた途端、あっという間に枯れて風化するようにして崩れていった。

 まるで長い時間が一瞬で過ぎたかのような崩壊だった。それは後かたもなくバラバラになって、弱々しく吹きぬけていっただけの風に流されていってしまう。

「おいおいなんだよ今のは!?」
「植物としてのエネルギーを結果さ」

 メイベルはそう言うと、ちょっと全体から見てみろ、とようやく視線を返してからスティーブンを促した。

 墓場は所々土が抉れていて、少し荒れているといった印象を与える。しかし一望してみれば、土の上に刻まれたそれは、複雑な一つの巨大魔法陣を描いていた。

「…………あの無法魔法使いが連れていたのは【いにしえの悪精霊】で、こうしたのも、あの男という事で間違いないんだよな?」

 気付いたスティーブンが、場の異様な光景を目に留めたまま確認するように言う。メイベルはコックリと頷き返すと、こう続けた。

「いくつかの墓石に入れられた『精霊の印』も真新しい。魔力を断たれているせいで、魔法使いも直接視認しない限りは気付かない――仕掛けられたのは先程だろうと思う」
「おいおい、ちょっと待てよ。今回の幽霊騒動が、けったいな精霊と契約をしているあの無法魔法使いのせいだとして……、でも

 もっともな疑問だ。けれど既に目星は付いているかのようにして、メイベルはどこか落ち着いた目を『オリーヴィア・バティス』と刻まれた墓石へ向けた。

「もっとも単純な答えが、コレ、なのかもしれない」

 メイベルは、ぽつりとそう答えた。

「この墓に施されているのは精霊の術だ。あの花は術を掛けた際の目印みたいなもので、他の肉を集めて、この花の下の死体を復元するためのモノ――まだ未発動状態だが、デカい魔法に連動して動くようになってる」
「は……?」

 それを聞いたスティーブンが、呆気に取られた声を出した。

……? その墓ってジュゼの兄貴の……え? もしかして、あのローブの無法魔法使いって兄貴の方だったりするのか――うわっ」

 状況整理に追い付こうとしてぐるぐるしている彼のネクタイを、メイベルはぐいっと引っ張った。やや前屈みになった彼を、近い距離から睨み付けて捲くし立てる。

「ああ、そいつがローブ男の正体だろうな。後天的な魔力開花ってのは、精神面にもかなり左右される。死のショックをきっかけに魔力の才能が開花したんだろう。そして恐らく、わざわざこの町を飛び出して禁書を盗み出したのも、死者を生き返らせるためだ」
「はぁ!? そんなこと出来るのか!?」
「そんな事は出来ない、、だ。それをあのポッと出の素人魔法使いは、【いにしえの悪精霊】の力を借りてやろうとしているんだよ」

 馬鹿馬鹿しい、とメイベルは独り言のように愚痴って手を離した。

 その声には、またしても抑えられない怒りが声に滲んでいた。その様子から、スティーブンがネクタイを手で直しつつ「なぁ」と落ち着けるような声色で尋ねる。

「それは、お前が想定している中では厄介な事態なのか?」
「最悪の場合、町の人間全員が犠牲になると思う。復元した肉体を死界に持ち込むために、この土地ごとつもりなんだろう」

 この仕掛けられている術の発動タイミングを見る限り、恐らくは、そう。

 メイベルは墓地内の様子に目を向けてそう言った。身体を復元したとしても、時間の流れがある人間世界では腐敗が進む。ならば持って行って死者の魂に会いに行けばいい――と魔法を学び始めたばかりの者が、単純な図式を浮かべるのは容易に想像が付く。

「死界?」
「死者の世界さ」

 メイベルは答え、金色の『精霊の目』をスティーブンへ向けた。

「魂が向かう場所ってのはとある。死界ってのは、分かりやすく言えば、だ」

 なんだか実感がなさそうな彼に、そう説明しながら下を指差して見せる。

「言っておくが、どちらも生者がいられる場所じゃないぞ。ここにいる町の全員が、ソコに移された衝撃で肉体を失って魂を奪われる事になる」
「!? ようは死ぬって事かよッ」
「だから言っただろう、犠牲になる、と」

 ようやく理解したのか馬鹿者め、とメイベルは片手を腰にあてた。フードの下から覗いている顔に、さらりと緑の髪がかかる。

「そもそも、きちんと教育を受けた魔法使いなら知っている事だが、人間が死界と取り引きするのはだ。生きた人間が踏み込むのを、あちらの王は許さない」

 先に地下屋敷を調査から外したのが間違いだった。もっとも力がある闇の【いにしえの悪精霊】を連れているのなら、結界を擦り抜けて長らく潜伏している事も可能だ。

 それでいて魔力の気配は、元々地下屋敷を覆っている封印に遮られて、外の魔法使いは一切関知出来ない。隠れ場としては好条件で、禁術を行う場としても最適だろう。

 メイベルは忌々しげに言うと、続々とした説明にポカンとしているスティーブンに続けた。

「あの無法魔法使いは、経験を積む中でして効率が上がっている。そのせいで取締局が追っていた頃より、下準備も急速に進んでいると思う」
「じゃあ悠長にしていたら、とんでもない魔法を起こされるって事か!? なら、この墓場の術だけでも先にどうにかするのは――」
「それは無理だ。【いにしえの精霊】と呼ばれているモノらは、各属性の原種にあたる大精霊。墓地に刻みつけられたこの精霊魔法を解くには、かなりの人手と時間がいる」

 淡々とそう語ったメイベルは、ふっとよそへ思案げな目を流し向ける。

「――……話が途中だったから、まだ律儀に近くにいるんだろうな」

 顎に手を触れて少し考え込む。
 ぼそぼそと口の中で呟かれた声を聞いて、スティーブンがまたしても「は?」と首を傾げたところで、彼女はパッと顔を上げて叫んだ。

「おいアレックス! 話は聞いたか!」

 その直後、空間が歪むような音が上がり、風を巻き起こして、魔法協会のローブをはためかせて大きな男が現われた。

 野獣のような鋭い目、屈強な身体には魔法部隊軍の制服。顔に古傷のあるその魔法使いを目に留めたスティーブンが、「一体、どこから」と魔法嫌いが発症したかのような引き攣った声で呟く。

 そんな小さな声には気付かず、アレックスが現場の状況を見やった。

「師匠と旅していた時と似ているから、まさかとは思っていたが……とんでもない事になっているみたいだな」

 言いながら歩み寄った彼は、辺りをきょろきょろしつつ「コレが【いにしえの悪精霊】の魔法の仕掛けか……」と、どこか感心と驚きがない混ぜになった声を上げる。

「魔力を感じないのに、霊力の固まりのようなモノが張り巡らされているのが不思議だ」
「お前はから、余計に『よく』見えるんだろうな」

 で、とメイベルは続けてアレックスに問う。

「その無法魔法使いを、お前は見たか? そばに例の大精霊がいる」
「いや。メイベルの魔力を感じて、一体何事だと向かった時にはいなかった。その【いにしえの悪精霊】の気配さえ感じなかったんだが、魔力を削る性質というのを考えると、納得もい――」

 その時、スティーブンがぐいっとメイベルを引き寄せた。

 唐突にそのまま腕の中に確保されてしまい、メイベルは話を邪魔されたと知って「あ?」と不機嫌な声を上げた。アレックスも、一体なんだと呆気に取られた目を彼に向ける。

「おい討伐課の魔法使いヤロー、こいつはウチの爺さんの嫁だぞッ」
「いきなりなんだよ、別に俺はそれくらい調べて知ってるし、お前はその孫なんだろ。とりあえず話しづらいからメイベルを返せ――」
「近付くな! なんつうか、そのっ、ああもうとりあえず今はなんだよ! とにかくすんげぇ苛々するからテメェは失せろッ!」
「はぁ!? なんで俺が『姉弟子』に近づくのが駄目なんだよ!?」

 そもそもメイベルを乱暴に扱うなッ、失礼だぞ! とアレックスが怒った。

 その声を聞きながら、スティーブンが怒気を収めて「ん……?」と首を捻る。腕の力が弱まったのを感じて、メイベルは不思議に思いながら彼の腕の中から抜け出した。

「警戒する必要はないぞ、こいつは私の弟弟子だ」
「弟弟子……? お前、精霊なのに『姉弟子』なのか……?」
「随分混乱しているみたいだが、私は人間の魔法が使える精霊だ。とある魔法使いに頼まれて旅をしていた際、人間魔法を基礎から学び直した」

 ざっくりと教えたメイベルを前に、スティーブンが「それ、俺が知っている精霊とだいぶ違う」と唖然とした声で呟いた。

 意思疎通がはかれる精霊が、気紛れに人間世界を学ぶ事はまれにある。ひとまず場が落ち着いたのを見たアレックスが、魔法にも精霊にもド素人な教授の事はどうでもいい、と言わんばかりにメイベルに尋ねた。

「それで、俺まで呼んでメイベルはどうする気なんだ? 闇の大精霊が相手となると、一筋縄じゃいかないぞ」
「だが所詮は精霊だ、術を止める方法なら一つだけある。問題なのは、その精霊の主人になっている、バカデカい魔力量を持っている野良魔法使いの方だ」

 その時、大気が震えるような振動を肌で感じた。

 ハッとして、三人は同じ方向へ目を向けていた。夕暮れの空に視覚的な異変は確認出来ない。しかし、足元からは地震のような小さな揺れが伝わってきている。

「今の、なんだ……?」

 スティーブンが、じわりと汗の滲んだ顔でそう言った。

「なんか、空気が揺れた感じがしたんだが」
「一般人のお前でも感じるくらいの、大きな『揺れ』が起こったって事だよ、教授」

 そちらの方角へ目を向けたまま、アレックスがその疑問に答える。その横顔はやや緊張を浮かべていて、メイベルも『精霊の目』をすっと細めてこう言った。

「世界のことわりに対する知識も浅はかなせいで、隣合わせの異界とぶつかって空間が揺れているんだ。どうやら、大急ぎで事を進めようとしているらしい」

 そう言うなり、彼女は「頼んでもいいか、アレックス」と彼を振り返った。

「私はこいつと先に行ってくる、お前は取締局の連中に事を教えて手伝わせろ。話をしている間の時間は稼げるが、力技となったら、今の私の魔力量だと足止めは難しいぞ」
「分かった、なら早急に向かわせる」

 途端にアレックスが、先程よりも表情を固くしてそう答えた。ローブとマントを翻したかと思うと、素早く呪文を唱えて魔法陣を展開する。

「いいかメイベルッ、絶対に無茶はするなよ!」

 そう言い残して、彼が光と共に風を巻き起こして消える。

 メイベルは、一瞬の間を置いてから「行くぞ」と声を掛けて走り出した。その後をスティーブンが追いながら、頭の中の情報を整理しつつ必要な箇所だけを尋ねた。

「向かうのは、あの地下屋敷か?」
「そうだ。さっきの『揺らぎ』の中心地も、地下屋敷の方向だった。やつは間違いなくそこにいるだろう」

 バタバタと走り出した二人の後ろで、侘びしく吹き抜けた風に煽られた枯れ葉の一部が、バラバラと崩れていった。
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