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7章 それは、偽りの存在~『エル』の想い出、そして~(6)
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少年は、強烈な違和感に言葉を失った。男の存在も、彼から吐き出される笑い声も、大きく歪んでいるような気がする。自分が何かを、大きく履き間違えているような悪寒を覚え、一歩後退した。
「おっと、これは失礼――それが『君達』の存在意義でしたねぇ。私には、どうにも分かりかねますが」
すると、少年のそんな様子を見て取った男が、ピタリと笑いを途切れさせた。
「しかし、あなたが途中で消えてしまっては、こちらとしても困るのですよ。歪んでしまう空間の中で、あなたはゲームをフェアに進め、案内し、出口まで繋げてくれる存在です。あなたが守り通した『公正にゲームをクリアさせられる権限』が、完全にこの世界から離れてしまえば、ゲームの参加者は建物から出られなくなってしまう」
そこまで知られているのか、と少年は苦々しく思った。
「……仕方がないでしょう。外部から受けた『侵入者の排除』の命令権が、本来であれば入った者を閉じ込め、排除するよう造られているのです。だからこそ僕は、不条理なゲームをさせないため、『ルール』そのものとして、この世界に留まっているのです。出来るだけ彼らが最短でゴール出来るよう、僕が干渉出来る範囲内で最大限に努力しているつもりなのです」
少年は、男に対して畏怖の念を覚えた。男が一歩、二歩と間合いを詰めて来るので、距離を置こうとしたのだが、何故か両足が動かなくなっていた。
男は少年の前までやってくると、薄い唇に大きな弧を描いた。予想していたよりも男の背丈は大きく、少年は、まるで大きな闇が目の前の景色を遮ぎ、立ち塞いでいるように思えた。
「君は生粋の『夢人』ですから、どうやら闇に浸食された歪みには耐えられそうもない。――ねぇ、どうです? 君の余力と、この世界での配役を私にくれませんか? 君は先に『宿主』の『核』を連れ出してくれれば、それでいいのです」
少年は、顔面に迫る男の、作り物のような大きな白い手を凝視した。身体だけでなく、眼球も自分の意思ではもう動かせなくなっていた。
少年は男の言葉の意味を、数秒をかけてようやく理解し、戦慄した。
男はこの世界で、あのエキストラであった受け付け令嬢と同じように、今度は少年と取って替わろうとしているのだ。
正規の夢人に、そんな事が出来るはずがない。
足元から、ゆっくりと闇に喰われてゆく冷たさを覚え、少年は「ああ、そうなのか」と一つの可能性に気付かされた。生まれも役目も全く異なる存在を、彼は今更になって思い出したのだ。
「……僕を『喰らう』のですか?」
「ふふふ、『理』の許可もなく喰らいはしませんよ。この世界での、君の役割を頂くだけです。君には暫く退場して頂きますが、後で定められた通り『宿主』の『心』は回収しておいて下さい。恐らく、君が気付く頃には全て終わっているでしょうから」
「『彼』は、どうなるのですか」
「大丈夫、君の望みは叶えてあげますよ。さぁ、望みを口にしてご覧なさい。ここはもはや、『彼』の夢に縛られた空間ではなく、もう、私の腹の中です」
悪夢が耳元で囁いた。視界の全てが、暗黒に呑まれてゆくのを感じた。
少年は、人の手によって芽を摘まれてしまった、自分の哀れな主人を思い起こした。
少年の『宿主』となった主人は、現実世界で繰り返される毎日の仕事を嫌っていた。機械的に仕事を行う従業員同士の、時々交わされる数少ないコミュニケーションだけを好いていたようだった。
感情がない、愛着もない、言葉もないと思っていた顔無し達から、たまに感じる人間らしい一面を気に入っていたらしい。
主人が心に留めている世界は小さく、覚えている光景も少なかった。
仕事からの帰り道に見る、静かな早朝の景色。出勤時の寂れた街並みを照らし出す、ビルの隙間から覗く狭い星空。誰も待っていない家で眠りに落ち、起床し、短い時間に食べ物を口にして、くたびれた靴を掃いてまた出勤する。
主人が住んでいたアパートは、夏には暑く、冬には寒かったが、それでも主人は、彼なりに季節毎の楽しみは覚えていようだった。同じ風景、同じ光景の中で、気温の差や食べ物の違いを楽しみ、「もう秋の空かぁ」と呟いたりしていた。
少ない賃金でやりくりする食事、ベランダによく訪ねて来る隣室の猫。久しぶりの休日には公園まで歩き、何もせずのんびりと過ごした。姪っ子が生まれ、遠くに住む父と母が年金暮らしで落ち着き、弟がようやく会社の経営を安定させ、分かれた恋人は夢を叶えて女優になった。
彼は、自分の夢を特には持っていなかった。毎日疲れた顔で人生を過ごすような、他人から見れば、ひどくくたびれ男だったかもしれない。
けれど、彼は大切になった誰かの夢を願い、愛し、そして心配もする男だった。
俺の『夢』は不思議と良く当たるんだぜ――彼は少ない友人を励まし、助言もした。きっとその夢は叶えられるさ。ちょっとの休みや寄り道は必要だし、お前が立派になる姿を俺は『夢』に見たぐいらなんだから、自信を持てよ……
望めば形に出来る、具現化の『夢見』としての力を持っていた男だった。
自分で創造した予知夢を、現実に引き起こせる人間は数少ない。だからこうして、少年は彼の夢世界の『夢守』としての役目を与えられた。
けれど、主人は優し過ぎたのだろう。彼は結局のところ、最期の瞬間まで、自分の為に力を使おうとはせず、自覚もないまま人の生を終えてしまった。不幸を自分で背負う事で、自分が本来得るはずだった幸福を、彼は他人に渡していった。
「……あの人は、人のいる世界が好きだった。僕は、とうとう言葉を交わす事も出来なかったけれど、こんな作り物の世界ではなく、あの人を還るべき場所へ連れ出してあげたいのです」
少年は、闇の中で、その望みを口にした。
主人が死んだ時の事は、よく覚えている。突然別の夢世界へと連れ去られ、死んで戻って来た。空っぽの魂だけが、先に彼岸へと向かってしまった。
主人の肉体と『心』と『夢の核』だけが、この世界に捕らわれて、外へ出る事も叶わないままだった。心のない魂は、彼岸を超える事も出来ずに、自分が人間だった頃の姿を保ったまま境界線上で漂い待つばかりだ。
死した身体は、この世界が解放されれば現実世界へと帰れるだろう。
少年は彼の『夢守』として、彼の『心』を彼岸へと送り届け、次に相応しい『宿主』の為に『夢の核』を連れて帰らなければならなかった。
結局のところ、少年は彼の記憶や心にすら、留まる事も出来ないのだ。
「――結局、僕らは偽りの存在でしかないのですね。こうして僕が感じている『心』も、彼が視ている『夢』なのかもしれない」
闇が少年を覆い尽くした時、男の声が「否」と答えた。
「君達は、一人一人が『理の子』として生きており、使い捨てではないのです。次の『宿主』が決まるまで『始まりの場所』へと還り、持ち返った『核』と共に眠りに付くだけ――『核』にはその人間の夢が宿り引き継がれるのですから、君達が寝ている間にも、どこかの誰かが、いつか、その人間の『夢』を見る事もあるのですよ」
素敵でしょう、私には不似合いな話しですがねぇ、と声は含み笑いした。
ああ、それはとても素敵ですね、と少年は意識の中で答えた。
いずれ、『宿主』であった彼の姪っ子か親か、兄弟か、彼の事をずっと愛していた元恋人や、数少ない彼の友人達が、彼が残した少ない『夢』の風景を、自分達の『夢』として見る日がくるのかもしれないのだから。
「おっと、これは失礼――それが『君達』の存在意義でしたねぇ。私には、どうにも分かりかねますが」
すると、少年のそんな様子を見て取った男が、ピタリと笑いを途切れさせた。
「しかし、あなたが途中で消えてしまっては、こちらとしても困るのですよ。歪んでしまう空間の中で、あなたはゲームをフェアに進め、案内し、出口まで繋げてくれる存在です。あなたが守り通した『公正にゲームをクリアさせられる権限』が、完全にこの世界から離れてしまえば、ゲームの参加者は建物から出られなくなってしまう」
そこまで知られているのか、と少年は苦々しく思った。
「……仕方がないでしょう。外部から受けた『侵入者の排除』の命令権が、本来であれば入った者を閉じ込め、排除するよう造られているのです。だからこそ僕は、不条理なゲームをさせないため、『ルール』そのものとして、この世界に留まっているのです。出来るだけ彼らが最短でゴール出来るよう、僕が干渉出来る範囲内で最大限に努力しているつもりなのです」
少年は、男に対して畏怖の念を覚えた。男が一歩、二歩と間合いを詰めて来るので、距離を置こうとしたのだが、何故か両足が動かなくなっていた。
男は少年の前までやってくると、薄い唇に大きな弧を描いた。予想していたよりも男の背丈は大きく、少年は、まるで大きな闇が目の前の景色を遮ぎ、立ち塞いでいるように思えた。
「君は生粋の『夢人』ですから、どうやら闇に浸食された歪みには耐えられそうもない。――ねぇ、どうです? 君の余力と、この世界での配役を私にくれませんか? 君は先に『宿主』の『核』を連れ出してくれれば、それでいいのです」
少年は、顔面に迫る男の、作り物のような大きな白い手を凝視した。身体だけでなく、眼球も自分の意思ではもう動かせなくなっていた。
少年は男の言葉の意味を、数秒をかけてようやく理解し、戦慄した。
男はこの世界で、あのエキストラであった受け付け令嬢と同じように、今度は少年と取って替わろうとしているのだ。
正規の夢人に、そんな事が出来るはずがない。
足元から、ゆっくりと闇に喰われてゆく冷たさを覚え、少年は「ああ、そうなのか」と一つの可能性に気付かされた。生まれも役目も全く異なる存在を、彼は今更になって思い出したのだ。
「……僕を『喰らう』のですか?」
「ふふふ、『理』の許可もなく喰らいはしませんよ。この世界での、君の役割を頂くだけです。君には暫く退場して頂きますが、後で定められた通り『宿主』の『心』は回収しておいて下さい。恐らく、君が気付く頃には全て終わっているでしょうから」
「『彼』は、どうなるのですか」
「大丈夫、君の望みは叶えてあげますよ。さぁ、望みを口にしてご覧なさい。ここはもはや、『彼』の夢に縛られた空間ではなく、もう、私の腹の中です」
悪夢が耳元で囁いた。視界の全てが、暗黒に呑まれてゆくのを感じた。
少年は、人の手によって芽を摘まれてしまった、自分の哀れな主人を思い起こした。
少年の『宿主』となった主人は、現実世界で繰り返される毎日の仕事を嫌っていた。機械的に仕事を行う従業員同士の、時々交わされる数少ないコミュニケーションだけを好いていたようだった。
感情がない、愛着もない、言葉もないと思っていた顔無し達から、たまに感じる人間らしい一面を気に入っていたらしい。
主人が心に留めている世界は小さく、覚えている光景も少なかった。
仕事からの帰り道に見る、静かな早朝の景色。出勤時の寂れた街並みを照らし出す、ビルの隙間から覗く狭い星空。誰も待っていない家で眠りに落ち、起床し、短い時間に食べ物を口にして、くたびれた靴を掃いてまた出勤する。
主人が住んでいたアパートは、夏には暑く、冬には寒かったが、それでも主人は、彼なりに季節毎の楽しみは覚えていようだった。同じ風景、同じ光景の中で、気温の差や食べ物の違いを楽しみ、「もう秋の空かぁ」と呟いたりしていた。
少ない賃金でやりくりする食事、ベランダによく訪ねて来る隣室の猫。久しぶりの休日には公園まで歩き、何もせずのんびりと過ごした。姪っ子が生まれ、遠くに住む父と母が年金暮らしで落ち着き、弟がようやく会社の経営を安定させ、分かれた恋人は夢を叶えて女優になった。
彼は、自分の夢を特には持っていなかった。毎日疲れた顔で人生を過ごすような、他人から見れば、ひどくくたびれ男だったかもしれない。
けれど、彼は大切になった誰かの夢を願い、愛し、そして心配もする男だった。
俺の『夢』は不思議と良く当たるんだぜ――彼は少ない友人を励まし、助言もした。きっとその夢は叶えられるさ。ちょっとの休みや寄り道は必要だし、お前が立派になる姿を俺は『夢』に見たぐいらなんだから、自信を持てよ……
望めば形に出来る、具現化の『夢見』としての力を持っていた男だった。
自分で創造した予知夢を、現実に引き起こせる人間は数少ない。だからこうして、少年は彼の夢世界の『夢守』としての役目を与えられた。
けれど、主人は優し過ぎたのだろう。彼は結局のところ、最期の瞬間まで、自分の為に力を使おうとはせず、自覚もないまま人の生を終えてしまった。不幸を自分で背負う事で、自分が本来得るはずだった幸福を、彼は他人に渡していった。
「……あの人は、人のいる世界が好きだった。僕は、とうとう言葉を交わす事も出来なかったけれど、こんな作り物の世界ではなく、あの人を還るべき場所へ連れ出してあげたいのです」
少年は、闇の中で、その望みを口にした。
主人が死んだ時の事は、よく覚えている。突然別の夢世界へと連れ去られ、死んで戻って来た。空っぽの魂だけが、先に彼岸へと向かってしまった。
主人の肉体と『心』と『夢の核』だけが、この世界に捕らわれて、外へ出る事も叶わないままだった。心のない魂は、彼岸を超える事も出来ずに、自分が人間だった頃の姿を保ったまま境界線上で漂い待つばかりだ。
死した身体は、この世界が解放されれば現実世界へと帰れるだろう。
少年は彼の『夢守』として、彼の『心』を彼岸へと送り届け、次に相応しい『宿主』の為に『夢の核』を連れて帰らなければならなかった。
結局のところ、少年は彼の記憶や心にすら、留まる事も出来ないのだ。
「――結局、僕らは偽りの存在でしかないのですね。こうして僕が感じている『心』も、彼が視ている『夢』なのかもしれない」
闇が少年を覆い尽くした時、男の声が「否」と答えた。
「君達は、一人一人が『理の子』として生きており、使い捨てではないのです。次の『宿主』が決まるまで『始まりの場所』へと還り、持ち返った『核』と共に眠りに付くだけ――『核』にはその人間の夢が宿り引き継がれるのですから、君達が寝ている間にも、どこかの誰かが、いつか、その人間の『夢』を見る事もあるのですよ」
素敵でしょう、私には不似合いな話しですがねぇ、と声は含み笑いした。
ああ、それはとても素敵ですね、と少年は意識の中で答えた。
いずれ、『宿主』であった彼の姪っ子か親か、兄弟か、彼の事をずっと愛していた元恋人や、数少ない彼の友人達が、彼が残した少ない『夢』の風景を、自分達の『夢』として見る日がくるのかもしれないのだから。
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