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ほぼ同時刻、高知県警察本部刑事部捜査一課(2)
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「公にはされていないすけど、身体の組織が急激に発達したことによって死んでる人間、皆最後はレッドドリームに手を出していたみたいなんすよ。一部じゃあ、ブルードリームもしくはレッドドリームに手を出したら終わりだ、って声もありますけど、そこは信憑性も微妙っすね。情報は怖いくらいないです」
『……お前、今どこのデータベースを見てる?』
「そりゃあ、東京の機密ファイルにハッキングしてるに決まってるでしょ」
内田が丸い菓子を口に放りこみ、もごもごと動かした。
その瞬間、毅梨と残っていたベテラン捜査員たちが、怒りの形相で「内田ぁ!」と叫ぶ声は、電話越しに金島まで届いていた。
『…………まぁ、あまり無茶をしないようにな。バレた時に尻拭いをしているのは毅梨たちだろう』
「そっすね、先輩たちには感謝し尽くせませんよ、あ~まじ有り難ぇ」
興味もなさそうな棒読みの後、内田は椅子に座り直して眉を顰めた。
「人間を改造する薬だっていう噂もありますけど……金島さん、もしかして何か大きなヤマ抱えてるんじゃないすか? なんか、いつもと違いますよ。あなたのそばには俺たちがいますし、俺ら、いつでも全面協力体制で待ち構えてるんすけど?」
内田は、興味本位で調べていた麻薬事件に、高知県というキーワードを見ていた。その矢先に金島からの連絡が来たため、彼が東京の連中の捜査に乗り出しているのでは、という一つの可能性を勘ぐってはいたのだ。
毅梨と他の捜査員たちが顔色を変えて、真面目な顔付きで内田の元へと歩み寄った。電話越しに金島の声を聞くべく、室内が緊張したように静まり返る。
しばらく、電話の向こうから返事はなかった。
鬼刑事と呼ばれた金島が、このように沈黙するというのも滅多にない事だ。そんな時は大抵、大きな事が絡んでいる時であることを一同は知って、ただ一心に返事を待って口をつぐんでいた。
しかし、数分待っても、金島は口を開かなかった。毅梨たちの視線を横顔に受け止めたまま、内田は真剣な声で「金島本部長」と本来呼ぶべき方の名を口にした。
「俺に出来ることはありますか? いや、『俺ら』に出来ることなら、なんでも言ってください。今日こそは、奥さんが寝る前に手料理を食べるって言ってたのに、こんな遅くまで署内に残っているなんて、やっぱり何かあるんでしょう? 昨日の夕方からずっと、執務室に閉じこもっているじゃないすか」
内田は問いただした。しかし、長い沈黙を置いた後、金島がようやく切り出した言葉は『すまない』だった。
『今は何も言えない……ただ、私は一番お前たちに信頼を置いている。私が関わってしまった事件に、必ずお前たちを巻き込んでしまうだろう。そのときは、全面協力を頼む』
信頼できるチームで取り組むことになる、といって金島は電話を切った。
通信の途切れた携帯電話を訝しそうに眺める内田を前に、毅梨が暑さを感じたように襟元を緩めた。
「おい、内田、一体何が起こっている?」
「さぁ、俺にもよくは分かりません。それが東京で起こっていて、公にされていない事件と関わっている可能性が高いってことくらいですかね」
「そもそも管轄が違うだろう」
煙草をくわえた捜査員が、そう言って顔を顰めるが、内田は見向きもしなかった。パソコンを無造作に机の上に起き、ポッキーを五本丸ごと歯で噛み砕いた。その据わった瞳には、スイッチが入ったかのように闘志が浮かび上がっている。
「実を言うと、金島さんから頼まれた件で俺が情報を探し出すたびに、その痕跡をキレイに消してる奴がいるんですよ。普通の機器じゃあ到底間に合わないくらいの、すげぇスピードで。だから、ハッキングもバレていない状況なんだと思います」
「つまり、お前にとっては味方になるのか?」
毅梨が、分からんなと顔を顰めて言う。
「情報を探るお前を追っているとなると、味方じゃない可能性しか思い浮かばねぇんだが。――お前、そんなんで大丈夫なのか?」
「やばい組織だったら、捜し出されて殺される可能性があるって言いたいんでしょ? 俺もこの道に入って長いですし、さすがにまずいと思ったら、即相談か報告くらいしてますよ。何しろ、調べ出した時点で既に、こっちの場所が向こうに探知されてますし」
あっさり白状した内田に、男たちが揃って「はぁ!?」と目を剥いた。それを横目に、内田は「まぁ聞いてください」と話しを続ける。
「だけど、誰かを寄越されたり危険な妨害行動にあったりという、俺が構えていたような事態は何一つ起こっていないんです。そのうえ、こっちの動きを妨害するような行動にも一切出てきていないんで、今のところ敵だとも断言できないっつうか」
というか、と内田は忌々しげに舌打ちした。
「俺のパソコンの中身を覗きこんで、何度も侵入されていることが気にくわねぇ。痕跡も残さないくせに、わざわざトップ画面に置き手紙ときてやがる」
それを見せるために仕事机にパソコンを戻したらしいと気付いて、毅梨たちが揃ってそこを覗きこむ。
内田は、彼らに見えるように少し椅子を後ろへとずらした。
「恐らくですが、こりゃあ随分と大きな組織みたいっす。様子を見るために、わざと野放しにされてるみたいな感じなんすよ。だから、金島さんが一体何に関わっているのか、めちゃくちゃ気になるところっすね。――つか、俺のデータから情報をばんばんを引き出してるのとかも、マジむかつくわ」
毅梨と三人の捜査員は、ノートパソコンのトップ画面中央に、剣に交差する拳銃のロゴマークが張り付けられている事に気付いた。それを縁取る装飾は、警察機関のマークに入っているものと似ているが、背景の日の丸には、国防総省で見かけるような鷹の絵がある。
「……ペンタゴンかと思ったぜ」
捜査員の一人がそう述べて、隣にいた別の男が「んな訳ないだろ」と間髪入れず指摘し、毅梨たちが熟考するように慎重な顔付きで揃って黙りこんだ。
対する内田は不服そうな表情で、唇を一文字に引き結んだ。
『……お前、今どこのデータベースを見てる?』
「そりゃあ、東京の機密ファイルにハッキングしてるに決まってるでしょ」
内田が丸い菓子を口に放りこみ、もごもごと動かした。
その瞬間、毅梨と残っていたベテラン捜査員たちが、怒りの形相で「内田ぁ!」と叫ぶ声は、電話越しに金島まで届いていた。
『…………まぁ、あまり無茶をしないようにな。バレた時に尻拭いをしているのは毅梨たちだろう』
「そっすね、先輩たちには感謝し尽くせませんよ、あ~まじ有り難ぇ」
興味もなさそうな棒読みの後、内田は椅子に座り直して眉を顰めた。
「人間を改造する薬だっていう噂もありますけど……金島さん、もしかして何か大きなヤマ抱えてるんじゃないすか? なんか、いつもと違いますよ。あなたのそばには俺たちがいますし、俺ら、いつでも全面協力体制で待ち構えてるんすけど?」
内田は、興味本位で調べていた麻薬事件に、高知県というキーワードを見ていた。その矢先に金島からの連絡が来たため、彼が東京の連中の捜査に乗り出しているのでは、という一つの可能性を勘ぐってはいたのだ。
毅梨と他の捜査員たちが顔色を変えて、真面目な顔付きで内田の元へと歩み寄った。電話越しに金島の声を聞くべく、室内が緊張したように静まり返る。
しばらく、電話の向こうから返事はなかった。
鬼刑事と呼ばれた金島が、このように沈黙するというのも滅多にない事だ。そんな時は大抵、大きな事が絡んでいる時であることを一同は知って、ただ一心に返事を待って口をつぐんでいた。
しかし、数分待っても、金島は口を開かなかった。毅梨たちの視線を横顔に受け止めたまま、内田は真剣な声で「金島本部長」と本来呼ぶべき方の名を口にした。
「俺に出来ることはありますか? いや、『俺ら』に出来ることなら、なんでも言ってください。今日こそは、奥さんが寝る前に手料理を食べるって言ってたのに、こんな遅くまで署内に残っているなんて、やっぱり何かあるんでしょう? 昨日の夕方からずっと、執務室に閉じこもっているじゃないすか」
内田は問いただした。しかし、長い沈黙を置いた後、金島がようやく切り出した言葉は『すまない』だった。
『今は何も言えない……ただ、私は一番お前たちに信頼を置いている。私が関わってしまった事件に、必ずお前たちを巻き込んでしまうだろう。そのときは、全面協力を頼む』
信頼できるチームで取り組むことになる、といって金島は電話を切った。
通信の途切れた携帯電話を訝しそうに眺める内田を前に、毅梨が暑さを感じたように襟元を緩めた。
「おい、内田、一体何が起こっている?」
「さぁ、俺にもよくは分かりません。それが東京で起こっていて、公にされていない事件と関わっている可能性が高いってことくらいですかね」
「そもそも管轄が違うだろう」
煙草をくわえた捜査員が、そう言って顔を顰めるが、内田は見向きもしなかった。パソコンを無造作に机の上に起き、ポッキーを五本丸ごと歯で噛み砕いた。その据わった瞳には、スイッチが入ったかのように闘志が浮かび上がっている。
「実を言うと、金島さんから頼まれた件で俺が情報を探し出すたびに、その痕跡をキレイに消してる奴がいるんですよ。普通の機器じゃあ到底間に合わないくらいの、すげぇスピードで。だから、ハッキングもバレていない状況なんだと思います」
「つまり、お前にとっては味方になるのか?」
毅梨が、分からんなと顔を顰めて言う。
「情報を探るお前を追っているとなると、味方じゃない可能性しか思い浮かばねぇんだが。――お前、そんなんで大丈夫なのか?」
「やばい組織だったら、捜し出されて殺される可能性があるって言いたいんでしょ? 俺もこの道に入って長いですし、さすがにまずいと思ったら、即相談か報告くらいしてますよ。何しろ、調べ出した時点で既に、こっちの場所が向こうに探知されてますし」
あっさり白状した内田に、男たちが揃って「はぁ!?」と目を剥いた。それを横目に、内田は「まぁ聞いてください」と話しを続ける。
「だけど、誰かを寄越されたり危険な妨害行動にあったりという、俺が構えていたような事態は何一つ起こっていないんです。そのうえ、こっちの動きを妨害するような行動にも一切出てきていないんで、今のところ敵だとも断言できないっつうか」
というか、と内田は忌々しげに舌打ちした。
「俺のパソコンの中身を覗きこんで、何度も侵入されていることが気にくわねぇ。痕跡も残さないくせに、わざわざトップ画面に置き手紙ときてやがる」
それを見せるために仕事机にパソコンを戻したらしいと気付いて、毅梨たちが揃ってそこを覗きこむ。
内田は、彼らに見えるように少し椅子を後ろへとずらした。
「恐らくですが、こりゃあ随分と大きな組織みたいっす。様子を見るために、わざと野放しにされてるみたいな感じなんすよ。だから、金島さんが一体何に関わっているのか、めちゃくちゃ気になるところっすね。――つか、俺のデータから情報をばんばんを引き出してるのとかも、マジむかつくわ」
毅梨と三人の捜査員は、ノートパソコンのトップ画面中央に、剣に交差する拳銃のロゴマークが張り付けられている事に気付いた。それを縁取る装飾は、警察機関のマークに入っているものと似ているが、背景の日の丸には、国防総省で見かけるような鷹の絵がある。
「……ペンタゴンかと思ったぜ」
捜査員の一人がそう述べて、隣にいた別の男が「んな訳ないだろ」と間髪入れず指摘し、毅梨たちが熟考するように慎重な顔付きで揃って黙りこんだ。
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