「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新

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「高知県の鬼刑事」高知県警察本部長・金島一郎(2)

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 ナンバー4は、ペテン師にして死と破壊の申し子だ。

 そんな不吉な言葉が、警察上層部で出回った時期がある。ナンバー4に会ったという人間が「あれはペテン師だ」といった言葉もあったようだが、直接その人物から話を聞かされたわけではないから、誰が述べたかは知らない。


 特殊機関から電話連絡を初めて受けたとき、金島が分かっていた事は、「影の機関」と共に流れる「4」の数字は、多くの死を孕んだ話題ばかりを引き連れているようだ、というぼんやりとした話だけだ。

 ナンバーが「1」であると自己紹介した男は、白鴎学園に大量のヘロインが持ちこまれ、学生内で覚せい剤が出回っていることを金島に述べた。東京で起こっている事件と関わりがあると言われ、金島が真っ先に思い浮かべたのは本部長として自分が関わる事よりも、息子の暁也のことであった。

 ナンバー1は多くを語らなかった。指示を待てと命令し、現場に入っているナンバー4に協力せよと告げ、麻薬常用者や関係者には相応の処置をするといって電話を切った。

 金島はナンバー4とコンタクトを取る前に、茉莉海市の資料を迅速に取り寄せた。数字の「4」に死という冷たい言葉を思ったが、彼はそれを気力で押し払った。

 とはいえ、やはり茉莉海市やその周辺一帯の事件資料を引き出しても、これといった情報は何一つ上がって来ないでいた。もとより、犯罪らしいものが起こった事が一度もない場所なのである。不穏な動きや気配があるという報告もない、全く想定もしていなかった事態だった。

 一体、あそこで何が起こっているのだ。

 金島は急いていた。電話を掛ける合図を出すというナンバー1からの連絡を待ちながら、高知県内で薬物に関する事件を見直した。椅子の上でじっとしていられず、思わず立ち上がって携帯電話から部下の一人に連絡を入れた。

『はいはい、こちら捜査一課の内田(うちだ)っすけど。どうしました?』

 金島が電話をかけた相手は、刑事部捜査一課の内田だった。

 若手のキャリアでありながら、金島と出会って最前線で事件を追い続けている捜査員の一人である。ほとんど休日も取れない職場でも、しっかり睡眠と食事、間食のおやつと風呂を欠かさないという、ベテラン以上に器の大きい若手だ。

「内田。お前、今、組織犯罪対策課にいたな」
『そうです、そうです。つか、そっちに片足を突っ込んでいるだけで、最近はほとんど薬物取締捜査に加担してるんすけどね』

 あ、これって言っちゃ怒られるタイプのやつでしたっけ、と内田が抑揚のない声色で続けた。口が軽いと注意されるのを、彼は日頃から聞き流すくらい図太く気楽に過ごしている。

「いや、構わん。ちょうどタイミングがいい」
『あれ? 逆に褒められたんで、なんかちょっと怖いんすけど。何かありました?』
「今、麻薬や覚せい剤が出回っているだろう。爆発的に広がる前に、きちんと取り締まっておかなくてはいけないと思ってな」
『さすがっすね。ちょうど、今年入って検挙者が最悪な数字一歩手前ってところっす。ただ、今回はちょっと気になるものが』

 内田が言いかけた時、金島のオフィスにある固定電話機が鳴った。同じタイミングで、受話器越しに内田が『いてっ』と誰かに頭を小突かれたような声を上げる。

『毅(き)梨(なし)課長、従順な部下に対する暴力反対ぃ。つか、課長になったのにまだ手先が荒っぽいのもどうかと思いますけど』
『やかましい! お前、また本部長に向かって軽い口を叩きやがって――』
『あ~、金島さん。俺の方でちょっと調べておくんで、また後で連絡します』
「宜しく頼む」

 金島は聞き慣れた男の声を聞き流し、内田にそう答えてから携帯電話をしまった。そして、そのまま固定電話へと持ち替えてナンバー1から追って指示を受けた後――


 金島は「4」の数字を持つ彼と、初めて言葉を交わすことになったのだった。
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