36 / 110
「高知県の鬼刑事」高知県警察本部長・金島一郎(2)
しおりを挟む
ナンバー4は、ペテン師にして死と破壊の申し子だ。
そんな不吉な言葉が、警察上層部で出回った時期がある。ナンバー4に会ったという人間が「あれはペテン師だ」といった言葉もあったようだが、直接その人物から話を聞かされたわけではないから、誰が述べたかは知らない。
特殊機関から電話連絡を初めて受けたとき、金島が分かっていた事は、「影の機関」と共に流れる「4」の数字は、多くの死を孕んだ話題ばかりを引き連れているようだ、というぼんやりとした話だけだ。
ナンバーが「1」であると自己紹介した男は、白鴎学園に大量のヘロインが持ちこまれ、学生内で覚せい剤が出回っていることを金島に述べた。東京で起こっている事件と関わりがあると言われ、金島が真っ先に思い浮かべたのは本部長として自分が関わる事よりも、息子の暁也のことであった。
ナンバー1は多くを語らなかった。指示を待てと命令し、現場に入っているナンバー4に協力せよと告げ、麻薬常用者や関係者には相応の処置をするといって電話を切った。
金島はナンバー4とコンタクトを取る前に、茉莉海市の資料を迅速に取り寄せた。数字の「4」に死という冷たい言葉を思ったが、彼はそれを気力で押し払った。
とはいえ、やはり茉莉海市やその周辺一帯の事件資料を引き出しても、これといった情報は何一つ上がって来ないでいた。もとより、犯罪らしいものが起こった事が一度もない場所なのである。不穏な動きや気配があるという報告もない、全く想定もしていなかった事態だった。
一体、あそこで何が起こっているのだ。
金島は急いていた。電話を掛ける合図を出すというナンバー1からの連絡を待ちながら、高知県内で薬物に関する事件を見直した。椅子の上でじっとしていられず、思わず立ち上がって携帯電話から部下の一人に連絡を入れた。
『はいはい、こちら捜査一課の内田(うちだ)っすけど。どうしました?』
金島が電話をかけた相手は、刑事部捜査一課の内田だった。
若手のキャリアでありながら、金島と出会って最前線で事件を追い続けている捜査員の一人である。ほとんど休日も取れない職場でも、しっかり睡眠と食事、間食のおやつと風呂を欠かさないという、ベテラン以上に器の大きい若手だ。
「内田。お前、今、組織犯罪対策課にいたな」
『そうです、そうです。つか、そっちに片足を突っ込んでいるだけで、最近はほとんど薬物取締捜査に加担してるんすけどね』
あ、これって言っちゃ怒られるタイプのやつでしたっけ、と内田が抑揚のない声色で続けた。口が軽いと注意されるのを、彼は日頃から聞き流すくらい図太く気楽に過ごしている。
「いや、構わん。ちょうどタイミングがいい」
『あれ? 逆に褒められたんで、なんかちょっと怖いんすけど。何かありました?』
「今、麻薬や覚せい剤が出回っているだろう。爆発的に広がる前に、きちんと取り締まっておかなくてはいけないと思ってな」
『さすがっすね。ちょうど、今年入って検挙者が最悪な数字一歩手前ってところっす。ただ、今回はちょっと気になるものが』
内田が言いかけた時、金島のオフィスにある固定電話機が鳴った。同じタイミングで、受話器越しに内田が『いてっ』と誰かに頭を小突かれたような声を上げる。
『毅(き)梨(なし)課長、従順な部下に対する暴力反対ぃ。つか、課長になったのにまだ手先が荒っぽいのもどうかと思いますけど』
『やかましい! お前、また本部長に向かって軽い口を叩きやがって――』
『あ~、金島さん。俺の方でちょっと調べておくんで、また後で連絡します』
「宜しく頼む」
金島は聞き慣れた男の声を聞き流し、内田にそう答えてから携帯電話をしまった。そして、そのまま固定電話へと持ち替えてナンバー1から追って指示を受けた後――
金島は「4」の数字を持つ彼と、初めて言葉を交わすことになったのだった。
そんな不吉な言葉が、警察上層部で出回った時期がある。ナンバー4に会ったという人間が「あれはペテン師だ」といった言葉もあったようだが、直接その人物から話を聞かされたわけではないから、誰が述べたかは知らない。
特殊機関から電話連絡を初めて受けたとき、金島が分かっていた事は、「影の機関」と共に流れる「4」の数字は、多くの死を孕んだ話題ばかりを引き連れているようだ、というぼんやりとした話だけだ。
ナンバーが「1」であると自己紹介した男は、白鴎学園に大量のヘロインが持ちこまれ、学生内で覚せい剤が出回っていることを金島に述べた。東京で起こっている事件と関わりがあると言われ、金島が真っ先に思い浮かべたのは本部長として自分が関わる事よりも、息子の暁也のことであった。
ナンバー1は多くを語らなかった。指示を待てと命令し、現場に入っているナンバー4に協力せよと告げ、麻薬常用者や関係者には相応の処置をするといって電話を切った。
金島はナンバー4とコンタクトを取る前に、茉莉海市の資料を迅速に取り寄せた。数字の「4」に死という冷たい言葉を思ったが、彼はそれを気力で押し払った。
とはいえ、やはり茉莉海市やその周辺一帯の事件資料を引き出しても、これといった情報は何一つ上がって来ないでいた。もとより、犯罪らしいものが起こった事が一度もない場所なのである。不穏な動きや気配があるという報告もない、全く想定もしていなかった事態だった。
一体、あそこで何が起こっているのだ。
金島は急いていた。電話を掛ける合図を出すというナンバー1からの連絡を待ちながら、高知県内で薬物に関する事件を見直した。椅子の上でじっとしていられず、思わず立ち上がって携帯電話から部下の一人に連絡を入れた。
『はいはい、こちら捜査一課の内田(うちだ)っすけど。どうしました?』
金島が電話をかけた相手は、刑事部捜査一課の内田だった。
若手のキャリアでありながら、金島と出会って最前線で事件を追い続けている捜査員の一人である。ほとんど休日も取れない職場でも、しっかり睡眠と食事、間食のおやつと風呂を欠かさないという、ベテラン以上に器の大きい若手だ。
「内田。お前、今、組織犯罪対策課にいたな」
『そうです、そうです。つか、そっちに片足を突っ込んでいるだけで、最近はほとんど薬物取締捜査に加担してるんすけどね』
あ、これって言っちゃ怒られるタイプのやつでしたっけ、と内田が抑揚のない声色で続けた。口が軽いと注意されるのを、彼は日頃から聞き流すくらい図太く気楽に過ごしている。
「いや、構わん。ちょうどタイミングがいい」
『あれ? 逆に褒められたんで、なんかちょっと怖いんすけど。何かありました?』
「今、麻薬や覚せい剤が出回っているだろう。爆発的に広がる前に、きちんと取り締まっておかなくてはいけないと思ってな」
『さすがっすね。ちょうど、今年入って検挙者が最悪な数字一歩手前ってところっす。ただ、今回はちょっと気になるものが』
内田が言いかけた時、金島のオフィスにある固定電話機が鳴った。同じタイミングで、受話器越しに内田が『いてっ』と誰かに頭を小突かれたような声を上げる。
『毅(き)梨(なし)課長、従順な部下に対する暴力反対ぃ。つか、課長になったのにまだ手先が荒っぽいのもどうかと思いますけど』
『やかましい! お前、また本部長に向かって軽い口を叩きやがって――』
『あ~、金島さん。俺の方でちょっと調べておくんで、また後で連絡します』
「宜しく頼む」
金島は聞き慣れた男の声を聞き流し、内田にそう答えてから携帯電話をしまった。そして、そのまま固定電話へと持ち替えてナンバー1から追って指示を受けた後――
金島は「4」の数字を持つ彼と、初めて言葉を交わすことになったのだった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

この世界に生きていた男の話
百門一新
現代文学
二十八歳の「俺」は、ある日、ふらりと立ち寄ったBARで一人の男に語り聞かせる。それは、四ヶ月前までこの世界に生きていた男の話――
絶縁していた父が肝臓癌末期で倒れ、再会を果たした二十代そこそこだった「俺」。それから約六年に及ぶ闘病生活を一部リアルに、そして死を見届けるまでの葛藤と覚悟と、迎えた最期までを――。
※「小説家になろう」「カクヨム」などにも掲載しています。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる