「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新

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忘れていた頃に浮上する実家事情(3)

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 もしかしたら、蒼緋蔵家の異分子を完全に叩くため、蒼緋蔵家親族たちは自分を呼ぼうとしているのではないか?


 叫んだあと、雪弥の脳裏に嫌な憶測ばかりが浮かんだ。

 蒼慶のことを彼らはとても慕っている。蒼慶の次に、当主の座に近い雪弥が実際副当主の役職に就いたとき、「ほら見ろ、愛人の子に蒼緋蔵家の役職など務まるはずがないのだ」と証明し罵倒することが目的ではないのか。

 考えたらきりがなかった。蒼緋蔵家親族たちと同じように、雪弥も彼らのことが嫌いだった。高価なスーツと宝石で身を飾り、地位と権力に酔いしれながら一般人を蔑むように見やる彼らに、反吐が出そうなほど嫌悪感を抱いていた。

「とにかく、僕は絶対に嫌だからね! 他に相応しい人がたくさんいるでしょう? 分家に、議員とか弁護士とかいるし」
『しかしな、雪弥。これは本当に複雑で――』

 雪弥は、そんな父の台詞を遮った。

「父さん、僕は今の仕事を辞める気はないよ。こっちの方が僕には合っているし、副社長とか副当主とか柄じゃないことは出来ない。そっちに行っても、きっといい事は何も起こらないよ。僕が近くにいたら、父さんたちに迷惑がいってしまうだろうし……というか、時々電話してくる兄さんも、一方的にストレスぶちまけてくるみたいな感じで疲れるんだけど」

 そう思い出して、雪弥は夜空を見上げた。彼の黒いコンタクトレンズが入った瞳が、淡く水色に光り瞳孔が開く。

「ねぇ父さん、買収した衛星で時々僕のこと覗くの、やめてって兄さんに伝えてくれない? これ、絶対法に触れると思うんだよね。プライベートの侵害ってやつで」
『雪弥、いいから聞きなさい。蒼緋蔵家は血筋が――』
「はいはい。でも、僕には関係ないよ。蒼緋蔵家の籍にも入っていない身だし、とにかく、父さんは兄さんの暴走を止めてあげて。うん、きっと父さん以外に止められる人はいないと思う」

 呼び止める声も聞かず、雪弥は通話を切った。

 携帯電話を胸ポケットにしまい、深い溜息と共に肩を落とす。無茶ぶりを請求された新しい仕事と、突拍子もなく上がった家の問題には頭が痛くなった。

 休みがあれば、すっきり片付けられると思うんだけど……と、ここ最近休みもくれない上司を思い浮かべた。もう一度深く息をついて頭上を仰ぎ、誰に言うわけでもなく吐息交じりに言葉を吐き出す。


「ぼく、絶縁しているんだけどなぁ、なんで分家の人も今更……。というか、高校生になりきるなんて、まず無理だよ」


 煙草やってなくてよかった、と雪弥は力なく続けた。酒は好きだが、行った先の冷蔵庫に缶ビールを詰め込んでおけば問題はない。あとは仕事の間、居酒屋やBARを我慢すればいいだけである。

「あーあ、何日もつことやら」

 囁く声が、静まり返った夜に溶けて消えていった。
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