15 / 110
忘れていた頃に浮上する実家事情(3)
しおりを挟む
もしかしたら、蒼緋蔵家の異分子を完全に叩くため、蒼緋蔵家親族たちは自分を呼ぼうとしているのではないか?
叫んだあと、雪弥の脳裏に嫌な憶測ばかりが浮かんだ。
蒼慶のことを彼らはとても慕っている。蒼慶の次に、当主の座に近い雪弥が実際副当主の役職に就いたとき、「ほら見ろ、愛人の子に蒼緋蔵家の役職など務まるはずがないのだ」と証明し罵倒することが目的ではないのか。
考えたらきりがなかった。蒼緋蔵家親族たちと同じように、雪弥も彼らのことが嫌いだった。高価なスーツと宝石で身を飾り、地位と権力に酔いしれながら一般人を蔑むように見やる彼らに、反吐が出そうなほど嫌悪感を抱いていた。
「とにかく、僕は絶対に嫌だからね! 他に相応しい人がたくさんいるでしょう? 分家に、議員とか弁護士とかいるし」
『しかしな、雪弥。これは本当に複雑で――』
雪弥は、そんな父の台詞を遮った。
「父さん、僕は今の仕事を辞める気はないよ。こっちの方が僕には合っているし、副社長とか副当主とか柄じゃないことは出来ない。そっちに行っても、きっといい事は何も起こらないよ。僕が近くにいたら、父さんたちに迷惑がいってしまうだろうし……というか、時々電話してくる兄さんも、一方的にストレスぶちまけてくるみたいな感じで疲れるんだけど」
そう思い出して、雪弥は夜空を見上げた。彼の黒いコンタクトレンズが入った瞳が、淡く水色に光り瞳孔が開く。
「ねぇ父さん、買収した衛星で時々僕のこと覗くの、やめてって兄さんに伝えてくれない? これ、絶対法に触れると思うんだよね。プライベートの侵害ってやつで」
『雪弥、いいから聞きなさい。蒼緋蔵家は血筋が――』
「はいはい。でも、僕には関係ないよ。蒼緋蔵家の籍にも入っていない身だし、とにかく、父さんは兄さんの暴走を止めてあげて。うん、きっと父さん以外に止められる人はいないと思う」
呼び止める声も聞かず、雪弥は通話を切った。
携帯電話を胸ポケットにしまい、深い溜息と共に肩を落とす。無茶ぶりを請求された新しい仕事と、突拍子もなく上がった家の問題には頭が痛くなった。
休みがあれば、すっきり片付けられると思うんだけど……と、ここ最近休みもくれない上司を思い浮かべた。もう一度深く息をついて頭上を仰ぎ、誰に言うわけでもなく吐息交じりに言葉を吐き出す。
「ぼく、絶縁しているんだけどなぁ、なんで分家の人も今更……。というか、高校生になりきるなんて、まず無理だよ」
煙草やってなくてよかった、と雪弥は力なく続けた。酒は好きだが、行った先の冷蔵庫に缶ビールを詰め込んでおけば問題はない。あとは仕事の間、居酒屋やBARを我慢すればいいだけである。
「あーあ、何日もつことやら」
囁く声が、静まり返った夜に溶けて消えていった。
叫んだあと、雪弥の脳裏に嫌な憶測ばかりが浮かんだ。
蒼慶のことを彼らはとても慕っている。蒼慶の次に、当主の座に近い雪弥が実際副当主の役職に就いたとき、「ほら見ろ、愛人の子に蒼緋蔵家の役職など務まるはずがないのだ」と証明し罵倒することが目的ではないのか。
考えたらきりがなかった。蒼緋蔵家親族たちと同じように、雪弥も彼らのことが嫌いだった。高価なスーツと宝石で身を飾り、地位と権力に酔いしれながら一般人を蔑むように見やる彼らに、反吐が出そうなほど嫌悪感を抱いていた。
「とにかく、僕は絶対に嫌だからね! 他に相応しい人がたくさんいるでしょう? 分家に、議員とか弁護士とかいるし」
『しかしな、雪弥。これは本当に複雑で――』
雪弥は、そんな父の台詞を遮った。
「父さん、僕は今の仕事を辞める気はないよ。こっちの方が僕には合っているし、副社長とか副当主とか柄じゃないことは出来ない。そっちに行っても、きっといい事は何も起こらないよ。僕が近くにいたら、父さんたちに迷惑がいってしまうだろうし……というか、時々電話してくる兄さんも、一方的にストレスぶちまけてくるみたいな感じで疲れるんだけど」
そう思い出して、雪弥は夜空を見上げた。彼の黒いコンタクトレンズが入った瞳が、淡く水色に光り瞳孔が開く。
「ねぇ父さん、買収した衛星で時々僕のこと覗くの、やめてって兄さんに伝えてくれない? これ、絶対法に触れると思うんだよね。プライベートの侵害ってやつで」
『雪弥、いいから聞きなさい。蒼緋蔵家は血筋が――』
「はいはい。でも、僕には関係ないよ。蒼緋蔵家の籍にも入っていない身だし、とにかく、父さんは兄さんの暴走を止めてあげて。うん、きっと父さん以外に止められる人はいないと思う」
呼び止める声も聞かず、雪弥は通話を切った。
携帯電話を胸ポケットにしまい、深い溜息と共に肩を落とす。無茶ぶりを請求された新しい仕事と、突拍子もなく上がった家の問題には頭が痛くなった。
休みがあれば、すっきり片付けられると思うんだけど……と、ここ最近休みもくれない上司を思い浮かべた。もう一度深く息をついて頭上を仰ぎ、誰に言うわけでもなく吐息交じりに言葉を吐き出す。
「ぼく、絶縁しているんだけどなぁ、なんで分家の人も今更……。というか、高校生になりきるなんて、まず無理だよ」
煙草やってなくてよかった、と雪弥は力なく続けた。酒は好きだが、行った先の冷蔵庫に缶ビールを詰め込んでおけば問題はない。あとは仕事の間、居酒屋やBARを我慢すればいいだけである。
「あーあ、何日もつことやら」
囁く声が、静まり返った夜に溶けて消えていった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蒼緋蔵家の番犬 3~現代の魔術師、宮橋雅兎~
百門一新
ミステリー
雪弥は、異常な戦闘能力を持つ「エージェントナンバー4」だ。里帰りしたものの、蒼緋蔵の屋敷から出ていってしまうことになった。思い悩んでいると、突然、次の任務として彼に「宮橋雅兎」という男のもとに行けという命令が出て……?
雪弥は、ただ一人の『L事件特別捜査係』の刑事である宮橋雅兎とバディを組むことになり、現代の「魔術師」と現代の「鬼」にかかわっていく――。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

蒼緋蔵家の番犬 2~実家編~
百門一新
ミステリー
異常な戦闘能力を持つエージェントナンバー4の雪弥は、任務を終えたら今度は実家「蒼緋蔵家」に帰省しなければならなくなる。
そこで待っていたのは美貌で顰め面の兄と執事、そして――そこで起こる新たな事件(惨劇)。動き出している「特殊筋」の者達との邂逅、そして「蒼緋蔵家」と「番犬」と呼ばれる存在の秘密も実家には眠っているようで……。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる