「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新

文字の大きさ
上 下
1 / 110

~彼が覚えている幼い頃の風景は~

しおりを挟む
 この怨み、忘れるものか……と、自分の中で知らない憎悪が問いかけてくるような、そんな錯覚を受けることがある。

 
 忘れはしない。許さない、

 首一つになるまで、この牙と爪で――……


 初めて訪れてから、まだそんなに経っていない大豪邸を見上げた。大自然に囲まれたように見えるここが、全て庭だなんてまるで現実味がない。

 でもどこか、少しだけ、その土地に流れている空気は不思議と肌に馴染むところがあった。建物ではなくて、こうして立っている広大な芝生を踏み締めている足が、何かを懐かしがっているみたいに。

「おにいさま、どうしたの」

 四歳なる腹違いの妹に尋ねられて、ボールを手に持ったまま振り返る。

 青い目を向けた先で、三歳年下の漆黒の髪をした可愛い妹の、茶色っぽい黒の大きな瞳とパチリと目があった。彼女のそばには、彼女と同じ母親から生まれた四歳年上の兄が立っていた。

 遠く向こうから、二人の母の楽しげな談笑が聞こえてくる。

「お前は、ぼんやりしているな」
「うーん」

 そんな事はないと思うけれど、よく分からなくなる事も多いので、なんだか言い返せなくもなる。

 すると、兄が「どうした、雪弥」と妹と同じような事を質問してきた。十一歳にしてはひどく落ち着いていて、感情豊かな彼女とは正反対の無愛そ――しっかり者の兄だ。

「悩みがあるなら、聞くぞ」
「そんなものではないけれど、なんだか時々、ざわざわとして落ち着かなくなる事があるというか……、よく分からないです」

 ごめんね、と思い出して謝った。

 迷惑をかけるつもりじゃなかったんです、と告げたら、妹がきょとんとする隣で、兄が察したように冷静な顔でこう言った。

「お前は悪くない。父に断りもなく、あれが勝手に奥まで入ってきたんだ」
「……でもぼく、『このやろう』って言っちゃいました」
「正当防衛だ」
「せいとうぼうえい……一方的に先に飛びかかったのは、ぼくだよ?」
「驚かされたら、誰だってイラッとすることもある」

 そんなものかなと首をひねったら、そんなものだと兄が言う。

 帰るのはもう少し後だろう。まだ少し居られる時間を楽しむために、ボールを抱えたまま彼らについていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蒼緋蔵家の番犬 3~現代の魔術師、宮橋雅兎~

百門一新
ミステリー
雪弥は、異常な戦闘能力を持つ「エージェントナンバー4」だ。里帰りしたものの、蒼緋蔵の屋敷から出ていってしまうことになった。思い悩んでいると、突然、次の任務として彼に「宮橋雅兎」という男のもとに行けという命令が出て……? 雪弥は、ただ一人の『L事件特別捜査係』の刑事である宮橋雅兎とバディを組むことになり、現代の「魔術師」と現代の「鬼」にかかわっていく――。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『沈黙するグラス』 ~5つの視点が交錯する~

Algo Lighter
ミステリー
その夜、雨は静かに降り続けていた。 高級レストラン「ル・ソレイユ」で、投資家・南條修司が毒殺される。 毒はワインに仕込まれたのか、それとも——? 事件の謎を追うのは、探偵・久瀬真人。 彼はオーナー・藤倉俊介の依頼を受け、捜査を開始する。 最初に疑われたのは、料理長の高梨孝之。 だが、事件を深掘りするにつれ、違和感が浮かび上がる。 「これは、単なる復讐劇なのか?」 5人の視点で描かれる物語が、点と点をつなぎ、やがて驚愕の真実が浮かび上がる。 沈黙する証拠、交錯する思惑。 そして、最後に暴かれる"最も疑われなかった者"の正体とは——?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

天才の孤独と推理の始まり

葉羽
ミステリー
とても難解な推理小説です

処理中です...