颯(はやて)

おりたかほ

文字の大きさ
上 下
1 / 20

しおりを挟む
 さみしくってしかたがないから、と聞こえて、夏雲の上にいた私の意識は戻ってきた。さみしくってしかたがないから、どうやら死んだらしい。誰が。

 視界が少し緑色なのは、あんなにまぶしい入道雲を、私がじっと見すぎたせいだ。緑のシミの奥で、教科書の文字が手をつないで、かごめかごめをしている。うるんだ目で文字を掻きわけて、死んだのはKという男だと、ようやく掴んだところで鐘がなった。

 現代文の次は自習室に移動だ。教科書と筆記具を鞄に入れて、教室を出た。

 自習室のいつもの席について、また夏雲を眺める。白にも青にも、様々な濃淡があるものだ。カバの親子がほぐれて逆立ちした男の顎髭になったところで、肩をたたかれた。

 振り向くと学級委員長の田中さんだ。なにやら髪を振り乱して額に汗して、きちんと装着した不織布マスクをしゅこしゅこへこませている。田中さんの目力の強さにはいつも圧倒されてしまうのだが、この時も、私はどぎまぎした。高三の先輩だらけの静かな自習室において、手ぶらで立ち尽くし、呼吸を荒げる委員長はかなり浮いている。

 委員長ともあろう者が一体どうしたのかと心配すると、張り付くマスクを少しつまんで、にほんしにほんし、という。私は飛びあがって椅子を蹴倒した。

 暴れたのではない。ただ激しく立ち上がった。荷物をまとめて、委員長と走り出す。曜日と時間を間違えていた。日本史の授業をすっぽかして自習室にいたわけだ。授業開始から十分ほどは経っているだろうか。委員長はさしずめ教師に言われて探しに来たのだろう。

 眼鏡の教師は安堵したように笑い、授業は再開された。各所に申し訳ないことをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

忘れてしまえたらいいのに(旧題「友と残映」)

佐藤朝槻
ライト文芸
少年の猫西(ねこにし)は、パンを持ち逃げする灰青の猫に惹かれ、保護したいと考える。 しかし、灰青の猫は姿を消してしまった。その原因が猫西にあると知った彼は、罪悪感を抱えながら過ごすようになる。 大学生になった猫西は今度こそ猫を守るべく、大学にいる猫を保護する部活、通称保護部に入る。 救えない命、部員の思惑、切り離せない過去。猫によって生かされ苦しむ彼が選ぶ未来とは……。 ※R15相当の残酷な描写があります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 不定期更新&推敲しがちです。 なろうにも掲載しています。 拙作のベースとなるショートショート「友と残映」と「片想いの梅雨」はノベルデイズに掲載しています。 © 2023 Asatsuki Sato

三姉妹―一子、二子、三子の物語

ぽんたしろお
ライト文芸
高岡家の三姉妹、一子、二子、三子の日常系の物語。 一子はど真面目。二子はマイペース。三子は戦略家。それぞれクセのある性格が行動に大きく影響して、どたばたが発生。 高岡両親は、それらを知っていたり知らなかったり。 表紙はイトノコ(ミカスケ)さんのフリーイラストを加工して使わせていただいています。 イトノコさんのツイッターアカウント(@misokooekaki)

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...