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第一章 森のほとり
2 家出を試みる
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Ⅰ-2 家出を試みる
マフとメアリの言う通り、スケシタの件は考えない事にした。
僕はいつもの仕事に専念した。薪割りに、廊下のモップがけ。繕い物に、煙突掃除。へとへとになって、階段に座り込む。
ザクロさんとホクトくんはディナーの時間。 良い匂い。
今では僕は、家族の食卓に座ることも禁止されている。あまりに汚くて病気がうつされそうだと言う理由で。
また同じ理由で、ホクトくんの視界に入ることも禁止されている。
こういう決まりは全部ザクロさんの作ったもの。息子のホクトくんは多分何にも知らない。鈍感で単純なホクトくんは、僕を見ると笑顔で駆け寄ってこようとする。
僕は困って彼からいつも逃げてる。一緒にいることが知れたら、食事抜きか逆さ吊りか、とにかくひどい目に遭うから。
メアリが手招きする。エプロンの下からこっそりパンを渡してくれた。
調理場の片隅に隠れ、パンを口に運びかけた時、ザクロさんが荒々しくドアを開けて厨房に入ってきた。時々、ザクロさんには屋敷中に目玉があるんじゃないかと疑いたくなる。
「なに、あなたまだこんな所に居たの? あたしのお使いはどうしたのよ!」
そうして、唯一の食事も取り上げられた。屋根裏部屋に連れ込まれ、痛い目にもあった。
ザクロさんは昔から、僕の顔が大嫌いだと言う。そのくせ、絶対顔には傷をつけない。
「いいね、本物のスケシタ、だよ!」
僕は屋根裏部屋にとりのこされた。寒い部屋で一人毛布をかぶり、痛む身体を抱えてうずくまる。
冷たい床と一緒に、霜に覆われていく夢を見てた。コンコンと、控えめなノック。銀色の月明かりが差していた。
ドアを開けるが、誰もいない。ふと足元を見ると、スープが置いてあった。マフかメアリだろう。こっそりドアの前に置いてくれたのだ。
僕が手を伸ばしたその時、ザクロさんの可愛がってる猫が飛び出してきて、スープ皿を蹴倒していった。
猫は悪くない。もしこれがわざとだったら逆にすごい。
だけど僕にとっては、この猫くんの一撃が最後の一撃だった。満タンのコップの、最後のひと雫。
あーあ。
もう凍え死んでしまってもいい。ここを出よう。当てはないけど、ここにじっとしているよりはマシだ。シブヤのイチマルキウに向かおう。
右も左もわからない雪の中、僕は裸足で家を出た。
*********************
屋敷の前には深い森がそびえていた。一年中しんしんと雪が降り積もる、あの魔法の森を抜けさえすれば、町へ出ることができる。
……疲れと空腹で、頭がどうかしていたんだと思う。
吹雪の中に、父さんが立っていた。
僕を悲しそうに見つめて、
森の淵から手を振っている。
それに応えようとしたところまでは記憶にある。
……間もなく、視界が遠のいていった。
マフとメアリの言う通り、スケシタの件は考えない事にした。
僕はいつもの仕事に専念した。薪割りに、廊下のモップがけ。繕い物に、煙突掃除。へとへとになって、階段に座り込む。
ザクロさんとホクトくんはディナーの時間。 良い匂い。
今では僕は、家族の食卓に座ることも禁止されている。あまりに汚くて病気がうつされそうだと言う理由で。
また同じ理由で、ホクトくんの視界に入ることも禁止されている。
こういう決まりは全部ザクロさんの作ったもの。息子のホクトくんは多分何にも知らない。鈍感で単純なホクトくんは、僕を見ると笑顔で駆け寄ってこようとする。
僕は困って彼からいつも逃げてる。一緒にいることが知れたら、食事抜きか逆さ吊りか、とにかくひどい目に遭うから。
メアリが手招きする。エプロンの下からこっそりパンを渡してくれた。
調理場の片隅に隠れ、パンを口に運びかけた時、ザクロさんが荒々しくドアを開けて厨房に入ってきた。時々、ザクロさんには屋敷中に目玉があるんじゃないかと疑いたくなる。
「なに、あなたまだこんな所に居たの? あたしのお使いはどうしたのよ!」
そうして、唯一の食事も取り上げられた。屋根裏部屋に連れ込まれ、痛い目にもあった。
ザクロさんは昔から、僕の顔が大嫌いだと言う。そのくせ、絶対顔には傷をつけない。
「いいね、本物のスケシタ、だよ!」
僕は屋根裏部屋にとりのこされた。寒い部屋で一人毛布をかぶり、痛む身体を抱えてうずくまる。
冷たい床と一緒に、霜に覆われていく夢を見てた。コンコンと、控えめなノック。銀色の月明かりが差していた。
ドアを開けるが、誰もいない。ふと足元を見ると、スープが置いてあった。マフかメアリだろう。こっそりドアの前に置いてくれたのだ。
僕が手を伸ばしたその時、ザクロさんの可愛がってる猫が飛び出してきて、スープ皿を蹴倒していった。
猫は悪くない。もしこれがわざとだったら逆にすごい。
だけど僕にとっては、この猫くんの一撃が最後の一撃だった。満タンのコップの、最後のひと雫。
あーあ。
もう凍え死んでしまってもいい。ここを出よう。当てはないけど、ここにじっとしているよりはマシだ。シブヤのイチマルキウに向かおう。
右も左もわからない雪の中、僕は裸足で家を出た。
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屋敷の前には深い森がそびえていた。一年中しんしんと雪が降り積もる、あの魔法の森を抜けさえすれば、町へ出ることができる。
……疲れと空腹で、頭がどうかしていたんだと思う。
吹雪の中に、父さんが立っていた。
僕を悲しそうに見つめて、
森の淵から手を振っている。
それに応えようとしたところまでは記憶にある。
……間もなく、視界が遠のいていった。
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