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第1章 第2幕 はぐれ梁山泊極端派Ⅱ【学院編D・L・C】

第34話 声が聞こえなくなった……?

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「これで第八層。残るはここを含めて後三層ですね。」


 私達は激戦をくぐり抜け、ダンジョンの第八層にまで到達していた。披露もピークに達し、前の第七階層の敵を倒しきるだけでも精一杯だった。時間もそれ相応に経過しているはず。太陽は見えないけれど、日が暮れる程の時刻になっているのではと思う。


「ここでキャンプを張りましょう。急ぐようには言われているけど、さすがに僕達の体力も限界です。」

「ロッヒェンどんの言うとおりバイ。オイも飯を食わねば力が出んと。」


 私も声は出さずに頷いて二人の作業を手伝った。私もアクセレイションを酷使しすぎたせいで、声を出すのもおっくうな状態になっていた。ここまで疲れたのは初めてかもしれない。


「ウチもヘロヘロだよ~。こんなに回復魔法使ったの何時ぶりだろう? なんか特訓とか修行みたいに酷使しちゃったよ、もう!」


 ミヤコちゃんがこんな悪態をつくのは珍しい。敵の攻撃が激しかったから、殿方二人も生傷が絶えなかった。私自身は回復魔術が効かないので自己再生するしかなかったけど、二人の回復はかなり負担のかかる仕事だったと思う。


「ありがとうございます、お嬢さんフロイライン。あなたがいなかったら、僕達二人の命はなかったはずです。」

「感謝しろよ~。代わりに今からおいしい物でも作れ! じゃあ、ウチはしばらく寝る!」


 宣言から数秒もしない内にミヤコちゃんは寝てしまった。改めて考えてみると、ロアの超人ぶりを思い知らされる。唯一の回復役である彼女が疲れ果てるまで回復能力を酷使するなんて場面はなかった。遙かに恐ろしい敵と戦っているのに、かすり傷程度で済んでいることが多いから。


「学院に来て僕達も強くなれたとは思いますが、勇者さんやファルさんにはまだまだ及びませんね。」


 みんな、この学院に来てから魔術のテクニックは向上していると思う。瞬時に発動したり、魔術発動の効果時間が向上していたり。特に凄い魔術を教わったというわけではなく、使うための基礎がしっかり身についたと思う。少なくとも私は今回の戦いでの彼らを見てそう感じた。ヤッパリ、三人とも若いから成長が早い。


「特に勇者どんは会う度に強くなっている気がするバイ。」


 ロアは硬氣功と呼ばれる武術を駆使しているから鎧を着ているのと同じと言っていたけれど、どこまでが真実かはわからない。でも、いずれは自分も習得したい。回復能力を持っているとはいってもね。


「いやいや、ファルさんもそうですよ。目立たないところで凄いテクニックを披露してます。魔術発動のタイミングが全く見えないんです。相手にしたら対処のしようがないですよ。」


 ファルさんは物凄い魔術師だ。この学院で立派な魔術師の先生はたくさんいたけれど、彼は更にその上を行く魔術師だった。魔術師の基本装備とも言える魔術の杖を全く使用していないし、威力、持続力、影響範囲どれをとっても、レベルの違う実力だった。それに加えて剣術も習得している魔術剣士でもある。ロアの実力とともに相乗効果的に強くなっていってる様な気がする。これも“勇気の共有”の効果なのかもしれない。


「出来ましたよ。さあ、これを食べて元気を出して下さい。」


 話したり、考え事をしている内にグランツァ君と力士さんは食事を完成させていた。この二人は戦いだけじゃなくて、料理をするときも息がピッタリだ。お互いタイプの会う名コンビなんだろう。ロアとファルさんもうかうかしてたら二人に追い越されちゃいそう。


「じゃあ、いただきま~す!!」


 いつの間にか飛び起きたミヤコちゃんが具だくさんのスープを受け取り食べ始めた。さっきまで熟睡してたはずなのに……。相変わらず、切り替えが早いなぁ。


「それにしても、さっきから、天の声が聞こえてこなくなったね?」

「ええ、私もそれが気になってた。何かあったのかな?」

「ウチらみたいにお食事中だったりしてね?」「ははは……。なくはないでしょうけど、ちょっと不自然ね。」


 前の第七層辺りから、指示が来なくなった。そこからは私達も死に物狂いで戦っていたから気にしてはいなかった。指示を出すほどの状況ではなかっただけかもしれないけれど、今休んでいるタイミングでも何も言ってこないのは不自然に感じる。


「不自然でしょうね。でも、心配には及びませんよ。あなた方には今のところ影響は出ませんから。」


 ハッとして七層からの階段を振り向くと、一人の男性が立っていた。何者だろう? グランツァ君と力士さんは瞬時に立ち上がり身構えた。


「私は敵ではございません。あなた方に助太刀に現れたのです。」

「……助太刀!?」

「あっ、あれ? この人、ゴッツン・ゴーの差し入れしてくれた人じゃない?」

「えー、あー、まあ、その通りです。アラム・スミスと申す者です。」


 アラム・スミス? たしかトレ坊先生と並ぶベスト・セラー作家だったと思う。学院の復興にも助力しているという話を聞いたけど……。そんな人がこの迷宮にいるのは何故なんだろう?
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