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第1章 第1幕 はぐれ梁山泊極端派Ⅱ【OK牧場の死闘】
第12話 牙をムキィーヌ!!
しおりを挟む《サァ、いつでも来い! 偽物、ニセ・タニシ! このニュー・タニシが成敗してやるぅ! 牙をムキィーヌ!!》
(ムニッ!)
夜になり、囮作戦は決行された。真っ暗な牧場で、意気揚々と偽物を倒すと息巻く変装タニシ。珍しく強気の姿勢で牙を剥き出しにして、まだ見ぬ敵を威嚇している。アイツにしては割と凶暴な顔つきになってはいるが、いつまで持つのやら……。しかも、お腹にはバクダンを抱えている。俺のせいだけど。
《おうおう、中々、様になってるじゃないか。これなら偽物も簡単に誘き寄せられるだろう!》
「こうもうまく乗せられるとは……。やっぱお前とアイツは馬鹿兄弟なのは疑う余地もねーよ。」
「なにか言った?」
「別に。」
俺とファルは離れたところで身を隠し、タニシとその周辺を警戒している。もちろんウィザーズ・アイの魔法で色んな角度から監視しているし、暗闇でも動きが見通せる魔法ナイト・ヴィジョンも使っている。コレのおかげで灯りがなくてもハッキリと状況がわかるのだ。もし何らかの異変が発生すれば、いつでも駆けつけられるように待機している。
「さあ、鬼が出るか蛇が出るか? 羊・牛が現れるか、黒犬が現れるか? さて、現れるのはなんだろうな?」
「オイオイ、羊・牛が攫われる、ってのが抜けてるぜ? 元々はそれが発端だ。忘れるなよ。」
「そうだっけ?」
「オイ!」
でも、どうなんだろう? 事件として発覚したのはそういう形だったかもしれない。だが、犯人候補なのは、黒犬と冠り物野郎達、もしくはそれ以外の何か、だ。ある意味、卵が先かニワトリが先かという哲学的な問題にぶち当たってしまうのは宿命なんだろうか?
「どうなるかな? ホントに現れるんだろうか?」
「現れるとは限らない。何しろ相手は痕跡を残していないんだ。俺らの目に付かないところで犯行に及ぶ可能性もある。黒犬やらの情報はあくまでその他の異変だけなのかもしれない。行方不明事件に関係あるとは誰も言ってないぜ?」
そうかもしれないけど、そこまで疑い始めると全てを疑わないといけなくなるからなぁ。町の住人達とか従業員とか。それが真実でないことを祈りたい。
《ほぇ~、ほぇ~。》
と、急に何やら怪しげな声が聞こえてきた。タニシや俺らが潜んでいる場所とは離れたところに設置した監視の目がその声をキャッチしたようだ。でも、なんか聞き覚えのある声の様な……?
《婆さんや、飯はまだかのぅ?》
「例のちっちゃいお爺ちゃんじゃねえか!」
なんであの爺ちゃんが? まさか徘徊癖があったというのか? 夜のちまたを徘徊するとはこの事か。そんな情報はどこにもなかったぞ?
《なんじゃ、さっきから目の前が真っ暗じゃ。歳を取りたくないモンじゃのぅ。》
お爺ちゃん? それは歳のせいではありませんよ? 今は夜なだけですよ? なんでも歳のせいにすれば済むものじゃないですよ!
《それよりも飯はまだかいのぅ? ……ぐう、ぐう……。》
いきなりいびきを掻き始め、鼻には鼻提灯を作りつつ、立ち寝を始めてしまった。
「なんか、いきなり寝始めたんだけど……。」
「徘徊癖と夢遊病の合わせ技じゃないか? 世話の焼ける爺さんだぜ。」
それはまた厄介な……。いつもこんなんじゃ身内も大変だろう。老人の介護は大変だろうな。身近に老人がいなくて良かった。あ、そういえば、一人だけいるか? あの爺さんはまだ大丈夫そ……、
《ギャわわーーん! なんじゃおりゃあっ! ヤンスか? ヤンスか、オラァ!!》
爺さんに気を取られているうちにタニシ側に異変が起きたようだ。なんか妙な人影が数体現れている!
「出た! 冠り物の集団!」
「チッ! 爺さんに気を取られていたとはいえ、俺の感知に引っかからないとは!」
俺も直前まで気配を感じなかった。何か突然姿を現したかのような感じだ。転移魔法でも使ったのだろうか? そうじゃないと説明が付かない。
《ヤンスかぁ! ヤンスならぁ、あっしの必殺でスペシャル技であの世に送ってやるぅ!》
威勢の良い啖呵を切りながら、お得意のフレイルを取り出した。それを前の方に突き出し、バツの字を描くようにしながらビュンビュン振り回し始めた。
《くらえぇ! 必殺奥義、タニシァン・エックス・プロージョン!!!》
ご大層な名前は付いているが、ただ単にバツの字に振り回しているだけ。駄々っ子パンチと大して変わりがない。多分、このままでは……、
(コキーーーン!!)
《わギャアアアッ!!!》
自滅した。もれなく自分の股間にクリティカルヒット、もとい痛恨の一撃を食らわせてしまった!
《ウぉ……ウぉのれ! 貴様ら、なんちゅうことをしてくれたんでヤンス! 急所を狙うとは卑怯者めぇ……!》
自分でやったことだろ……。というか珍しく自滅しても、気絶には至っていない。これは肉体改造のもたらした結果に違いない!
(※何も強化はしてません。)
「しょうがない、何かあってからで遅いからな。助けに行くぞ!」
俺はダッシュでタニシのところへと向かった。ファルには引き続き監視をしていてもらう。これは事前に打ち合わせていた通りだ。
「うわハッ!? な、何をするんでヤンしゅ?や、やめ……わははーっ!?」
なんか、羊頭に羽交い締めされてる! しかも牛頭が助走を付けて突進しようとしている! 間に合うのか?
(ゴオッ……グシャアアアッ!!!)
凄まじい風切り音と共に牛頭の姿が消え去った。……違う! 何かに叩き潰されたんだ! 黒い塊のような物に潰された! しかも、それを振り下ろしたのは……黒いコボルトだった!
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