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第3章 第3幕 はぐれ梁山泊極端派【絶望と憎しみと学園モノ……と大戦争!?】

第314話 その原動力は……血と骨。

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「ぐおぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 絶叫を上げたのは俺達じゃない。学長だった。学長が絶叫に近い悲鳴を上げていた! 今の一撃は効いたのか? いや……効いたに違いない! そうじゃなきゃ、この男がみっともなく悲鳴を上げるはずがないのだ。仮にも神を名乗るこの男が!


「き、貴様!? 一体何をした? 我が本体に傷を付けるなど…神に傷を負わせる等という愚行をどうやって行ったのだ!」

「いちいちうるせえよ! 今の俺やエルみたいに大怪我負わされたワケでもないのに。アンタ、それでも神かよ? みっともない!」

「黙れ!!」

(ザンッ!?)

「がはっ!?」


 学長は腹いせとばかりに俺の胸に大きな切り傷を負わせた。だけど、こんなの大したことは無い。全身切り刻まれたエルの痛みに比べれば、手足を引きちぎられた痛みに比べれば屁でもなかった。


「何をしたってってか? とぼけてんじゃねえよ。アンタが奇跡とやらを見たいっていうから見せてやったんだ。アンタの目論み通り成功したんだ。ちったぁ、喜べよ。実験に協力してやったのに。」

(ドンッ!!)

「っぐうっふ!?」


 学長は何も言わずに俺の体に強烈な空気圧で地面に叩きつけた。この衝撃で胸に激痛が走る。多分、あばら骨が何本か折れたはず。ますます戦闘を続行できるコンディションじゃなくなってきたな。


「フン! 認めてやる勇者の奇跡とやらを! だが実験は続行する。どれだけの苦痛を味わえば、精神的に死ぬのかを確かめてやる! 肉体的な死は貴様には与えない!」


 学長は俺の胸に足蹴を加えてきた。何度も何度も断続的にだ。俺を発狂死、絶望死させる事を狙っているようだ。どうしても俺の精神を穢した上で絶命させたいらしい。いいさ! どこまでも付き合ってやる! どっちが先に根を上げるか勝負しようじゃないか!


「勇気等という蛮勇の精神が何の役にも立たぬということを思い知らせてやろう! あれは狂気という獣にも劣る、劣等人間が備えた短所だ! 知恵が無い弱者が手に入れた悪手でしかないのだ!」

「勇気……か。」


 そういえば、勇気ってなんだろうな? 俺は勇者になって以降、色んな人から勇気を褒め称えられてきた。俺自身はずっと必死になって深く考えずに戦い抜いてきた。倒さないといけない相手がいる、救わないといけない人がいる。戦闘中は絶えずそのことばかりしか頭になかった。


「どうした? 苦しいのなら殺してやるぞ? その方が楽であろう? こんな状況で意地を張っても好転はせぬぞ? それでも言わぬのなら、いくらでも続けてやろう! 体が粉々になるまではな!」


 本当は怖くて逃げ出したのに、どこかに隠れたいのに、いっそのこと死ねば楽になるのにって場面はいくらでもあった。でもその感情はいつでも、頭の片隅に追いやられている。そんな感情が優先順位に上がってくるほど、俺の頭のキャパシティには余裕はないのだ。だって、信じられない程の馬鹿なんだぜ? ある意味馬鹿だから、余計なことを考えずに済んだんだと思う。


「あのさあ……この際ぶっちゃけるけど、俺には勇気なんて物はないんだ。馬鹿だから。」

「ついに勇者自らが勇気を否定しおった! 自らの愚かさを認めおった!」


 学長は鬼の首を取ったかのように、歓喜している。その喜びのあまり足蹴を止めている。俺からこの言葉を引きずり出した時点で勝利を確信したのだろう。


「馬鹿だけど、俺の力を、戦うための原動力を支えているのは“血と骨”だと思う。」

「“血と骨”? それはサヨさんの……。」


 俺の近くで血達磨になっているエルが小さくつぶやく。彼女もサヨちゃんから聞かされたのだろう。いや、エルだけじゃない。タニシやミヤコ達も知っているはずだ。これはある意味、俺達勇者パーティーの共通の精神みたいなものだ。


「結局、自らの肉体にのみ依存するというのか? 所詮、獣と変わらぬな! 知性のかけらすら存在しない!」

「違う。そんなことを言ってるんじゃない。そんなこと言ったら、我らが竜帝様が黙っちゃいないぜ?」

「フン、竜帝がなんだというのだ。神である私にとってはただのトカゲに過ぎぬわ!」


「“血と骨”ってのは今までの経験、知識の蓄積、技術の修練、思い出とか失敗とか挫折とか、全部ひっくるめたものの事を言ってるんだ。それが自分の“血と骨”になって支えている。それを現・竜帝さまから学んだんだよ。」

「くだらぬ思想だ。寿命だけが長いだけで神の様に振る舞う老害。それが彼奴ら古竜族よ! 忌々しい!」


 そうやって陰口を言うって事は何か言われた事があるんだろうな? サヨちゃんのお父さんから苦言でも呈されたのかもしれない。老害とか言ってるけど自分もそうなってしまっていることにこの男は気付いていない。俺だって老害なんて言葉はつまらないって思ってるのに。


「でもな最近、“血と骨”ってのは仲間への思いとか、逆に仲間から支えられている、って事も含まれているんじゃないかって思えてきたんだ。」

「フハハハハッ! 愚かな! 最終的に他力本願か! やはり弱者よ! やはり愚者らしい発想よ! そのような貧弱な精神が進化を妨げるのだ! 恥を知れ!」

「恥でもいいさ。それが俺なんだ。かっこ悪くても、みっともなくても生きていく。誰かが助けを待っている限りは助けに行かなくちゃいけない。それが勇者なんだ。」


 今は何も出来ないかもしれない。でも死ぬわけにはいかない。意識があるうちは。魂が残っているうちは何が何でも生きていないといけない。


「こんな無様で何も出来ない有様で言うことか。愚かにも程がある。身の程を弁えることを知らぬ、愚者の頂点を極めおったわ!」

「なあ、逆に聞かせてくれよ? アンタにとっての“血と骨”は何なんだ?」


 頭いいヤツって何考えてるのかわからない。逆に向こうも馬鹿の考えは理解できないんだろうな? お互い理解し合えないってのはわかってる。ほとんど別の生き物なんだってのもわかる。ちょっと、頭のいいヤツの考えを知ってみたかったんだ。


「ない。貴様らの下等な思想に付き合ってやる気など、わずかたりとも存在しない。私の目的はより優れた新たなる人類を生み出す事だ。それ以外はただの気まぐれだ。よって、下らぬ実験はこれで打ち切りとする!」


 俺は死を覚悟した。結局、勝てなかった。俺が力を振り絞ろうとも、仲間のみんなが全力を尽くそうとも神には及ばなかった。それが人間の限界か……。


「我が宿敵の命を奪う権限は私以外持ち合わせていない。何人たりともその行為を認めぬ!」

(ドォォォォォォォン!!!!!!!)


 学長が俺に止めを刺そうとした瞬間、何者かがそれを阻止し、学長の影を信じられない力で弾き飛ばした。姿形の無い物を吹き飛ばすってどういう事? 理解が追いつかない!


「何者だ!? 私の行為を邪魔する輩は!」

「忘れたのかね、学長殿? 数年前に会ったはずだが? その際、貴様ら七賢人に貶められた“千年に一人の英雄”だ。」


 あり得ないことが起きた! よりにもよって俺を助けに来るなんて! 俺が勇者になって初めての壁として立ち塞がった……ヴァル・ムング! どうして今、ここに?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 読者の皆様、ここまで辛い展開にお付き合い頂き有り難うございました。お待ちかねの反撃のターンが回ってきました! 実は前回の最後から始まっているのですが、次回から本格的に反撃が始まります。怒濤の大反撃となりますのでご期待下さい! 助っ人はヴァル様だけに留まりません。相手は神を名乗っているのでよってたかってフルボッコにするくらいは大丈夫なはずです。彼にはそれだけの報復措置をとりますのでご期待下さい! (ご期待下さいって二回も書いちゃった。)
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