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第3章 第3幕 はぐれ梁山泊極端派【絶望と憎しみと学園モノ……と大戦争!?】

第252話 彼を止められるのは私だけです!

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「お待ちしておりました。やはり、こちらにいらっしゃいましたね。」

「ローレッタ、どうして君がここにいる?」


 勇者様は今、腕の手術の最中。しかも、大がかりな物となる。前代未聞の技術を導入して行われているためでもある。治療術法、魔術、剣の錬成術、義肢の技術。この全てを駆使した手術は時間がかかる。その間、勇者様は無防備な状態となってしまう。この機会を狙う勢力が多数現れることに私達は備えていた。


「旦那様の目的を阻止するためです。」

「私の目的を? 君は私の何を知っているのかな? 私達教員の内情は学生が知っていること自体おかしいのだ。」


 大方の予測通り、旦那様は他の教員方と共にトープス先生の教員棟にやってきた。学長のご子息、シオン様の情報によれば、先日行われた特別実習にて勇者様拘束のために現れたとのこと。理由は勇者様が禁則次項に抵触する行為を行ったことによるもの。


「教員方の内情は存じ上げておりません。必ずここを訪れると、私の勘が告げていたのです。」


 勇者様が違反行為をしたとはいえ、学院側も挑発的且つ殺傷未遂を度々行ってきた事がわかっている。それに対して、やむを得ない違反行為だったと関係者からの証言で発覚している。勇者様が間違ってわけじゃない。


「勘……? 君程の者が何故、あやふやな予感などを頼りにしているのだ? 私は絶えず、魔術師ならば知識、論理、理性に基づいて行動する事を教示してるだろう?」

「旦那様がおっしゃることは正しいと思います。あくまで魔術を行使する上で、の話ですが。」

「君は話の論点をずらそうとしている。魔術を使うときだけでは意味がない! 魔術師の行動哲学として身に付けていなければいけないのだ!」

「旦那様……。」


 旦那様は学院に所属する教員であり、魔術師協会所属の魔術師でもある。所属していれば、研究活動も支援してもらえるし、器材や人材さえ提供もしてもらえる。でも、学院や協会の方針には従わないといけないので、協力要請には従わないといけない。保証やバックアップもあるけど、その代わりに縛られる。


「第一、君は一般の学生に過ぎない。優秀な上級クラスであったとしてもだ。そんな君が違反者、勇者ロアに肩入れするのは何故だ? そんなことをしても、百害あって一利無しだ。下手をすれば君も退学の処分を受けることになるぞ。」

「それは脅しですか? だとしても、私はここを引き下がる訳には参りません。」

「君にメリットはないはずだ! いい加減にそこをどいてくれ!」


 勇者様のため……というのは語弊があるかもしれない。私自身、あの方とはあまりお話をしたことがない。でも、お姉様からは彼の話をよく聞かされる。

 彼が圧倒的に強いわけではないといったところや、賢くはないけれど、優しくユーモアがあるところが、他の誰よりも優れていることを教えてくれた。それを話しているお姉様の顔は何よりも眩しいとさえ思った。

 人を愛するという事は、ここまで人を魅力的にするのだとさえ思った。私は羨ましかった。自分もそうしたいとさえ願うようになった。


「勇者様のためだけにこのような事をしているのではありません。これはある意味、敬愛するお姉様のためでもあります。お二人をお守りしたいのです。」

「エレオノーラのためだというのか? 彼女も勇者を擁護するのだとすれば、同じく罰さなくてはいけない。当然、君も同様だ。」


 罰なんてどうでもいい。それでも私には守りたい物がある。お姉様や勇者様、それだけではなくて新しくできたお友達を守りたい。そして自らの感情も守りたい。身分の違いからいつまでも自分の心に蓋をしてきたけれど、お姉様と出会って考えが変わった。あの二人は勇者と闇の者という立場を乗り越えて、愛を貫いている。私も見習わなければならない。立場を言い訳にしていてはいけないと思った。


「私はお友達だけを守りたいという訳ではありません。旦那様、いえ、ラヴァン様! 私はあなたの考えを変えたいと思っています!」

「この後に及んで、君は何を言っているのだ!私を懐柔しようとでも言うのか! 愚かなマネはやめ給え! 君はヤツらに洗脳されているのだ!」

「愚かでも構いません! 洗脳されているのではありません。それは……貴方をずっと愛していたからなのです! 貴方には間違った道を歩ませたくないから、こうして今、ここにいるのです!」

「な……何を言い出すんだ、君は!」


 言ってしまった! 私は胸の内に秘めていた思いをラヴァン様に打ち明けてしまった。これでもう後戻りは出来ない。彼が悪事に荷担する様な事をやめさせないといけない。
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