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第3章 第2幕 はぐれ梁山泊極端派【灰と青春と学園モノ!!】
第192話 平和的解決を求めて
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「ここは黙って治療を受けてみてくれないか? 若い学生が苦しんでいる姿を放っておくわけにはいかないのだ。」
「先生には関係のない話です! その女の施しなんか受けるわけにはいかないのです!」
「ヘイゼル様! 先生がこうおっしゃってるんです。治療を受けましょう!」
先生の提案を受けても、ヘイゼルは拒もうとしている。その様子を見て取り巻き達はヘイゼルを必死に説得しようと動き始めた。
「義手が不安かね? その有用性についてはローレッタが証明していると思うが?」
ヘイゼルは俯いて黙り込んでいた。周りからも説得され、拒むことに迷いが出てきているのだろう。
「君はグランデ家の人間だ。身内への報復に失敗し手首を失ったとあっては、母上も心配なさるだろう。このままでは学院の卒業も危うく、家名にも傷が付くと思う。拒むのは君にとってデメリットばかりだよ。」
「……わかりましたわ。でも、あの女の条件は飲みません。」
「よろしい。今は不問としよう。まずは治療を受けることが先決だ。」
先生は無条件で治療に応じるつもりのようだ。私は不服だが、先生の決断とあれば非難をするわけにもいかない。もしかしたら、良策があるのかもしれない。
「では、まず私の研究室へと向かってくれ。そこで治療の手筈を整える。私は他に用があるから後から行くつもりだ。」
ヘイゼルは俯いたままでその場を立ち去ろうとしている。取り巻き達は先生に礼を述べながら、ヘイゼルを気遣いつつ立ち去っていった。おとなしく、先生の指示に従うつもりなのだろう。
「……全く、君は相変わらず不器用な人間だね。」
「それは語弊があるのでは? 私はもう生身の人間ではございませんよ。」
「君は十分、人間さ。そういう生真面目なところは元の体を失う前から変わっていないのではないかな?」
「ご冗談を。」
先生は私の受け答えを見て優しく笑っていた。私にその様なことを言っていても、同胞達の中ではこの人が一番、人間臭いのではと思う。
「それよりも彼女のことはどうするおつもりですか? このままではまた、エレオノーラ様に危害を加えてしまいます。」
「義手を付けてしまえばどうとでもなる。邪道だがギアスを義手越しにかける。強引な手法だが双方が傷付け合わなくて済むはずだ。これで悪いことをするのではないのだから、気に病む必要はないさ。」
私にはそこまで割り切った考えは出来ない。どうしても、ギアスで強引に解決するのには抵抗がある。私は考えが甘いのだろうか?
「エレオノーラさんもそうだが、我々のことが勇者殿に知られてしまったのだろう? 彼らの動きはどうかな?」
「いえ、特に目立った変化はありません。彼女は必要以上に私達の話をするような方ではありませんし。むしろ、勇者様に協力を申し出る良い機会なのではありませんか?」
「ふむ。彼の学院での活動を見るに、我々の考えと重なる部分も見受けられる。しかし、我々の側で拒む者は多いだろうね。」
「タルカス様とフォグナー様ですね? 確かにあの方達を説得するのは難しそうですね。」
タルカス様とフォグナー様、私達の勢力のリーダー的存在。彼ら二人とトープス先生が勢力の中心となって活動している。先生は穏健派、先の二人は抗戦派。彼ら二人は完全なゴーレムで、かつて人間に作られた存在だ。人間には敵意、特にタルカス様は憎悪さえ抱いている印象だ。
「説得は難しいだろう。だが、このまま行けば、学院側との衝突は避けられない。そうなれば、この学び舎で多くの罪無き人々の血が流されるだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。」
「はい。その様なことになれば、人間とゴーレムの間に更なる溝が生じてしまいます。」
学内でのクーデター構想はかなり昔から計画されていたらしい。タルカス様とフォグナー様はそれくらいの年月を生きているからだ。それ故に禍根は大きく、彼らは心に深い傷を負っている。多少の説得程度では心を動かすのは到底無理だろう。
「そのわだかまりを解決する鍵が勇者という存在だろう。私は機を見て彼と接触を図るつもりだ。なんとか彼の協力を得られるよう努力するつもりだ。」
人間との武力衝突に危機感を感じていた所に、急遽姿を現した勇者。偶然なのかもしれないけど、私達にとって救いの手が差し伸べられたと感じずにはいられなかった。
「先生には関係のない話です! その女の施しなんか受けるわけにはいかないのです!」
「ヘイゼル様! 先生がこうおっしゃってるんです。治療を受けましょう!」
先生の提案を受けても、ヘイゼルは拒もうとしている。その様子を見て取り巻き達はヘイゼルを必死に説得しようと動き始めた。
「義手が不安かね? その有用性についてはローレッタが証明していると思うが?」
ヘイゼルは俯いて黙り込んでいた。周りからも説得され、拒むことに迷いが出てきているのだろう。
「君はグランデ家の人間だ。身内への報復に失敗し手首を失ったとあっては、母上も心配なさるだろう。このままでは学院の卒業も危うく、家名にも傷が付くと思う。拒むのは君にとってデメリットばかりだよ。」
「……わかりましたわ。でも、あの女の条件は飲みません。」
「よろしい。今は不問としよう。まずは治療を受けることが先決だ。」
先生は無条件で治療に応じるつもりのようだ。私は不服だが、先生の決断とあれば非難をするわけにもいかない。もしかしたら、良策があるのかもしれない。
「では、まず私の研究室へと向かってくれ。そこで治療の手筈を整える。私は他に用があるから後から行くつもりだ。」
ヘイゼルは俯いたままでその場を立ち去ろうとしている。取り巻き達は先生に礼を述べながら、ヘイゼルを気遣いつつ立ち去っていった。おとなしく、先生の指示に従うつもりなのだろう。
「……全く、君は相変わらず不器用な人間だね。」
「それは語弊があるのでは? 私はもう生身の人間ではございませんよ。」
「君は十分、人間さ。そういう生真面目なところは元の体を失う前から変わっていないのではないかな?」
「ご冗談を。」
先生は私の受け答えを見て優しく笑っていた。私にその様なことを言っていても、同胞達の中ではこの人が一番、人間臭いのではと思う。
「それよりも彼女のことはどうするおつもりですか? このままではまた、エレオノーラ様に危害を加えてしまいます。」
「義手を付けてしまえばどうとでもなる。邪道だがギアスを義手越しにかける。強引な手法だが双方が傷付け合わなくて済むはずだ。これで悪いことをするのではないのだから、気に病む必要はないさ。」
私にはそこまで割り切った考えは出来ない。どうしても、ギアスで強引に解決するのには抵抗がある。私は考えが甘いのだろうか?
「エレオノーラさんもそうだが、我々のことが勇者殿に知られてしまったのだろう? 彼らの動きはどうかな?」
「いえ、特に目立った変化はありません。彼女は必要以上に私達の話をするような方ではありませんし。むしろ、勇者様に協力を申し出る良い機会なのではありませんか?」
「ふむ。彼の学院での活動を見るに、我々の考えと重なる部分も見受けられる。しかし、我々の側で拒む者は多いだろうね。」
「タルカス様とフォグナー様ですね? 確かにあの方達を説得するのは難しそうですね。」
タルカス様とフォグナー様、私達の勢力のリーダー的存在。彼ら二人とトープス先生が勢力の中心となって活動している。先生は穏健派、先の二人は抗戦派。彼ら二人は完全なゴーレムで、かつて人間に作られた存在だ。人間には敵意、特にタルカス様は憎悪さえ抱いている印象だ。
「説得は難しいだろう。だが、このまま行けば、学院側との衝突は避けられない。そうなれば、この学び舎で多くの罪無き人々の血が流されるだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。」
「はい。その様なことになれば、人間とゴーレムの間に更なる溝が生じてしまいます。」
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「そのわだかまりを解決する鍵が勇者という存在だろう。私は機を見て彼と接触を図るつもりだ。なんとか彼の協力を得られるよう努力するつもりだ。」
人間との武力衝突に危機感を感じていた所に、急遽姿を現した勇者。偶然なのかもしれないけど、私達にとって救いの手が差し伸べられたと感じずにはいられなかった。
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