152 / 236
第3章 第1幕 はぐれ梁山泊極端派【愛と勇気と学園モノ!!】
第152話 ビットの法則
しおりを挟む「そういえば、なんで俺がこういう技が使えると思ったんすか?」
何千回にも及ぶ特訓の後、ふと頭に浮かんだ疑問をトレ坊先生にぶつけてみた。やっとの思いで完全マスターした瞬間、俺以外に伝授したり、教えたりしたことはあったんだろうか、と考えてしまったのだ。
「あなたの存在を知った切っ掛け……それはとある人物から魔道具の事で相談を持ちかけられたこと発端となっています。丁度、あなたが冒険者ライセンスを取得しようとしていたころです。」
なんでそんなときから? 俺の方は先生の存在すら知らなかった時期だ。あの辺で知り合った人々の中に先生の知人がいたのだろうか? ライセンス試験の同期とか、冒険者ギルド関係者? それとも、あのギルド長だろうか? 例のおもらしエピソードをサヨちゃんに暴露されたあの人……元気にやっているんだろうか?
「ライセンスで多種多様な試験を受けたと思いますが、その中でいくつかの魔道具が使われていた事を憶えていますか?」
「うーん? なんか妙な器具を使って判定するような試験が何個かあったような……? トラップを回避するヤツとか、パズルみたいなのに挑戦するヤツとか?」
「それよりも、あなたにとってもっと印象深かった物があったと思うんですが?」
「……え?」
印象深かった? 他にあったっけ? もう後は運の強さ判定とかいうふざけた試験があったと思うが……? まさかね?
「運の強さを判定するヤツ? 福引きみたいなヤツがあったと思いますけど?」
「そう! それです! あの運の強さ判定機、実は私が作った魔道具なんです。」
「ええ!? アレ作ったの、先生なんすか?」
あんなようワカランものを作ったのが先生だったとは! というか一時はアレのせいで不合格になってしまったという過去があるので、アレにあまりいいイメージがない。せっかくだから、あんな不可解な物を作った理由を聞いてみようか?
「私みたいなのが直接ギルドに持って行っても怪しまれるので、知人の魔道具販売商社に頼んでライセンス試験で使ってもらうようにお願いしていたんです。近年、私は“運”と魔術の関係について研究をしていましてね。受験者からデータを収集していたのです。」
「運と魔術って関係があるんですか?」
エルは目を輝かせて先生に質問する。そもそも、そんなものが魔法に影響するモンなんだろうか? 運のなさとかそういうのを解決するのが魔法なんじゃないの?
「古くから魔術を扱っていた故、常々疑問に思っていたことなんですよ。例えば、雨男、雨女とかいう話があるでしょう? その人が行動を起こせば必ず雨が降るみたいな話はよく聞きますよね?」
ああ、確かにそういう人はたまにいるな。逆に晴れ男、晴れ女とかいうのもあるし。なんなんだろうな? 根拠はないはずなのに信じてしまうというか……、
「個人が天候に及ぼすだなんて、眉唾な話なんで本気にしない人も多いと思いますが、私にはそれが気になって仕方がなかったんです。ある程度研究している内に一定の結論が導かれました。」
「その結論とは一体?」
「運というものはわずかな魔力の誤差が結果に大きく影響を与えるという事を発見しました。これを私は“ビットの法則”と名付けました。正の作用値を“プラス・ビット”、負の作用値を“マイナス・ビット”と名付けています。」
「ビットの法則……!?」
俺とエルは思わず声を合わせて同じ事を復唱してしまった。あんまりピッタリだったもんでお互い顔を見合わせる。だってそうなるのも仕方がない。目の前でヘンな石像が超理論を展開しようとしてるんだから!
「人の行動はこのわずかな“ビット”の変動によって結果が左右されます。これは当人にとって、いい結果になる場合は“プラス・ビット”の力が、悪い結果なら“マイナス・ビット”の力が働いています。このプラス・マイナスの傾きはある程度個人個人で一定の数値になっているのです。それが運の良さにつながっているのです。」
「マジっすか!?」
「これは本人のコンディションでもある程度は変動します。調子のいい前向きな時はプラスに傾いていますし、落ち込んでいたり病気を煩っているときはマイナスに傾いています。これをある程度測定できるのが、あの魔道具だったのです。あれはわずかなビットの傾きを感知するのですよ。」
運というか前向き・後ろ向きは魔力の差が生み出すイタズラみたいなモノだったとは……。それにあの魔道具……そんな測定を行っていたなんてな。とはいえ、最初は測定不能となったはずだが、アレはどういう事だったんだろう?
「ここからは今回あなたに授けた秘策に関係してきます。私は研究の中で、このビットの法則を応用すれば魔術を防御する手段に使えるのではと考えるようになりました。ですが、通常の人間には無理なんです。それを実践するためにはわずかなビット単位で魔力を操る必要があったのです。いわば、この理論は机上の空論と化していたのです。」
それを出来るのが俺だったと……? それとあの魔道具の判定がどう関係しているのだろう? 俺には全く見当が付かなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる