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第2章 はぐれ梁山泊極端派【燃えよ、十字剣!!】
第113話 決定的な違い
しおりを挟む「アイツとは相打ちになったとはいえ、知っての通り俺達魔王は不死身だ。後になって復活、無事、技も習得ってワケだ。」
相打ちになった程度では倒したことにはならないとか……。でも、おかしいな? それほどの達人だったなら“八掌”が使えたはずでは? それとも、ロッヒェンが言っていた情報、部下も同時に倒しきらないと倒せない件が影響していたのか? どちらにせよ、謎の奥義は魔王の手に渡ってしまったのだ。
「アイツはいい相手だった。俺がそれまで戦ってきた敵の中で最強だったかもしれねえ。あれ以来、強いヤツには出くわしてないからな。同じ流派の技を使うんなら、お前はそれに匹敵するのかな?」
魔王は期待を込めて俺に向き直り、構えをとる。ヤツの部下を倒して結集した味方はほとんど戦闘不能、さっきまでと同じ状況に戻った。更にヤツは仲間の力を自分に結集させたため、パワーアップしている。同じ状況とはいえ事態は更に悪化。絶望的だな!
「待てや、ゴルァ!! まだ、終わってねえぞぉ!!」
カウンターを喰らい、失神していたはずのゲイリーが魔王の背後に現れた。なんてタフなヤツなんだ。付けていた防具が完全に吹き飛び、これまでに何度も負傷していたはずなのに傷一つない! 胸に空いていた穴が塞がっている。血の跡は残っているが、どうやって治したんだ? ヤツは回復魔法なんて使えないはず……?
「なんだお前、タフだなぁ! まあいいや、相手になってやるよ!」
ゲイリーと魔王は戦いを始めた。魔王も楽しむためなのか、例の奥義を使っていない。タフなのをいいことに存分に楽しむつもりなのだろう。
「ロア……。」
苦しそうな声でエルが俺に声をかけてきた。見かねて急いで彼女の元に駆け寄り、彼女の上体を抱きかかえる。魔王はゲイリーに注意が向いているので、今がチャンスだ。
「あなたに伝えたいことがあるの。」
「何?」
「魔王の使った技……あれはあなたの“有形無形”によく似てる。実際に戦ってみて、わかったの。それに……、」
言おうとしたところで、エルは大きく咳き込み吐血した。さっきの魔王の攻撃で相当なダメージを負わされたようだ。
「大丈夫か!?」
「これぐらいは大丈夫。私は傷を再生できるから、死なないよ。それより、あの技はあなたの技に似ているけど、決定的な部分が違う。それを確かめるために私は魔王に戦いを挑んだの。」
似ている? そして決定的なところが違う?相手の攻撃を完全な形で返す……そこは同じなはずだ。少なくとも攻撃面では似ていると思う。表面的には決定的な違いがあるとは思えないのだが? エルは違うと感じたようだ。それは一体?
「あなたの戦い方全てに言えることだけれど、他の人には無い物がある。それは……“慈悲の心”よ。」
“慈悲の心”か……。特に意識しているわけじゃない。俺は勇者としての行動を心掛けているので、必要以上に相手を傷付けないようにしてはいる。勇者なんだから、ただの戦士じゃない。世界を救うために戦っている。その責任感はいつも忘れないようにしている。個人的な戦いではないからな。
「前にイグレスさんがあなたの勇者の剣を見て“慈悲の刃”と言ったように、その心が技に影響していると思う。私や宗家さんを斬ったときが特にそう。相手の命を奪ってない。殺さずに相手を無力化する、それがあなたの力なのよ。それがある限り、あの魔王には負けないと思う。」
エルが言ってくれているんだから、自信を持っていいだろう。そうじゃないと、彼女の気持ちを、覚悟を裏切ることになる。体を張ってまで敵の能力の本質を見極めてくれたんだからな。
「それと彼……ゲイリー君にもそれを示してあげて。彼に最も欠けている精神だから。弟子を教育するのが先生の役目でしょう?」
「ああ。容易には伝わらないだろうけど、全身全霊で戦ってみようと思う。」
エルの体を横たえ、改めて魔王に向き直る。魔王はまだゲイリーの相手をしている。流石にゲイリーは押され気味になってきており、劣勢に回っているようだ。そろそろ、加勢してやらないといけない!
「落鳳波!!」
遠目から斬撃を放つ。不意打ちとも言える行為だが、この程度の技をかわせないヤツだと思えなかったから、あえてそうした。こちらに注意を向けさせる切っ掛けを作れれば、それでいい。
「……むっ!?」
「ぐはっ!?」
気付いた魔王は目の前のゲイリーを蹴り飛ばし、技を回避した。そして、魔王は俺と向き合った。邪魔をされたはずなのに、随分と嬉しそうな顔をしている。
「おっ、やっとやる気になってくれたか?」
「まあ、そういうところかな? そろそろ決着を付けよう。」
「望むところだ!」
これが最後の一撃になるだろう。一発で決めたい。こちらは怪我人を多く抱えているしな。長引かせるわけにはいかないんだ。
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